核を手離すべきか、保持すべきか、シリア空爆が米朝首脳会談に臨む金正恩委員長に及ぼす影響
トランプ政権が昨年に続き、再びシリア空爆に踏み切った。
昨年の第一次攻撃は空軍基地1か所に限定され、地中海に待機していた艦船から巡行ミサイル59発が撃ち込まれたが、今回の第二次攻撃では英仏両国も加わり、首都ダマスカス近郊や中部ホムスの化学兵器関連施設など3箇所に向け巡航ミサイルが100発以上発射された。
トランプ政権がシリア攻撃を再度決断した理由は一にも二にもアサド政権が反政府派勢力を駆逐するため化学兵器を使用したということに尽きる。
トランプ政権は昨年も「化学兵器で民間人を殺害したのは人類に対するこの上ない冒涜であり、無垢の子供や幼児らを殺害したのは一線を越えた」と攻撃を正当化させていたが、今回も「残忍な蛮行」である化学兵器の使用への対抗措置として「正義の力を行使した」と主張している。
結果として、トランプ政権のシリア空爆は今回もまた、米国にとって越えてはならない一線を越えたら、軍事力を行使する決意を行動で示したことになった。同時にイランや北朝鮮に対しても核・ミサイル開発を放棄しなければ実力行使も辞さないとするメッセージにもなった。こうしたことから北朝鮮の反応が注目されるところだが、15日午後5時現在、まだ公式反応はない。
シリアは北朝鮮にとって数少ない友好国であるだけに昨年同様に米国の攻撃を非難する声明か、談話が外務省から発表されるものとみられるが、今回の件で金正恩委員長が心変わりして、トランプ大統領との史上初の米朝首脳会談をドタキャンすることはなさそうだ。それでも今回の米国のシリア攻撃は金委員長の心境に少なからぬ影響を与えることになりそうだ。
北朝鮮は昨年、米国の攻撃を「主権国家に対する侵略行為である」と断罪する外務省談話(4月8日)を出していたが、その中で「シリアの事態は我々に帝国主義者らへの幻想は絶対禁物である」との警鐘を鳴らしたうえで「今日の現実は力には力で対抗し、核武力を常時強化してきた我々の選択が千万回正しかったことを立証した」として「核兵器を軸とした自衛的国防力を引き続き強化する」ことを強調していた。
シリアは核兵器を保有してない。それにもかかわらず「化学兵器の拡散と使用を阻止することが米国の安全保障にとって死活的な重大な問題である」との理由で叩かれた。仮に北朝鮮が外務省談話で言及しているように「米国は核を持ってない国だけを選んで攻撃している」ならば、北朝鮮はトランプ政権を相手に米朝首脳会談に応じたとしてもそう簡単に核を手離そうとはしないだろう。
しかし、その一方で、米国のシリア空爆が「国際的な規範や合意に違反したり、約束を守らなかったり、他者を脅かしたりすれば、いずれ対抗措置がとられる可能性が高いという警告」として受け取っているならば、トランプ政権との首脳会談で非核化を宣言し、体制保証を確約してもらったほうが得策であるとの結論に達するかもしれない。
「シリアのアサド大統領の態度を変えさせようとする過去の試みは全て失敗し、そのせいで地域の不安定化が進んだ。我々は前政権から悲劇的な外交政策の災難を引き継いだ」というのがトランプ政権のシリア空爆の理屈となっている。それをそのまま「問題児」の北朝鮮に当てはめれば、仮に米朝首脳会談で非核化に応じなければ、次の攻撃対象にされかねない。何よりもトランプ政権が「北朝鮮は全世界の脅威であり、世界の問題である」と主張しているからだ。
「これまで北朝鮮に対して言うべきことは言った。もうこれ以上、言うことはない」としているトランプ大統領にとって金委員長との首脳会談は北朝鮮核問題の平和的解決に向けた最後の外交努力と位置付けている。トランプ大統領曰く、「北朝鮮はならず者国家だ。(核放棄に向けた)合意ができれば最高だが、できなければ何かが起きることになる。今に分かる」とツイートしていたが、要は「後は行動するのみ」という意味のようだ。
米国が求める完全で検証可能なかつ不可逆的な非核化に応じなければ、叩かれ、さりとて核という「抑止力」を手離してしまえば、核放棄後に米英仏によって攻撃され、崩壊したリビアのカダフィ政権の二の舞になるかもしれないとのジレンマを抱える金正恩政権がどのような選択を下すのか、早ければ来月その結果がわかる。