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金正恩「やりすぎミスコン」で若妻たちが欲求不満

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央テレビ)

 北朝鮮で何らかの記念日のたびに開かれる「忠誠の歌の集い」。国営の朝鮮中央通信は昨年9月、首都・平壌で開かれた歌の集いについて次のように報じている。

出演者は、この地に人民大衆の底知れない自強力と団結した力で上昇一路をたどるチュチェの社会主義国家を打ち建てた金日成主席と金正日総書記の革命業績を格調高くたたえた。

(中略)

英雄的金日成・金正日労働者階級に、国の長男として誉れ高い生を輝かせていく労働者階級の誇りと栄誉が反映された詩と歌も舞台に上がった。

 平壌の大ステージに立てるのは、厳しい選考過程を勝ち抜いた極少数の人々だ。各地域で行われる同様のイベントで選抜されるのだが、以前から問題が絶えない。

 平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、朝鮮労働党鉄山(チョルサン)郡委員会(郡党)が開いた郡党幹部やその家族が参加する忠誠の歌の集いを巡り、不満が噴出していると伝えた。

 今月16日の光明星節(故金正日総書記の生誕記念日)を祝うための忠誠の歌の集いは、約1カ月前から準備が始まった。

 鉄山郡党は毎年、幹部の家族から若くてきれいな女性ばかりを選んで参加させるという、「官選ミスコン」状態になっていたが、今年の選考過程でも同じようなことが繰り返された。

 すると、選に漏れた幹部の間からこんな不満が飛び出した。

「党が開催する歌の集いは容貌が大切なのではなく、厳粛な空気で歌を歌い忠誠を誓うものなのに、始まりから間違っている」

「忠誠心にも美貌が必要なのか」

 自分の妻の容姿が「基準」に満たず、選考から落とされたことで、プライドに傷がついたと怒る幹部もいる。また、妻の欲求不満から夫婦げんかに発展し、家庭内が冷戦状態となるケースもあると、情報筋は伝える。

 こんなことを防ぐためにも、メンバーを毎年入れ替えて順番で参加できるようにすべきと主張する人もいるが、あまり表立って不満を表せないようだ。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 北朝鮮ではこの手のイベントが開かれるたびに、参加者を巡って様々なトラブルが起きたり、不正行為が横行したりするが、今回の場合は、女性を「飾り物」程度に扱う、旧態依然とした北朝鮮権力層のジェンダー観が反映されたと言えよう。

 北朝鮮では市場経済化の進展と共に、女性の地位に大きな変化が生じた。

男性は、国から割り当てられた職場に出勤しなければならず自由に商売できないが、女性はそのような縛りから比較的自由であるため、市場で商いに励むことができる。経済的な主導権を握った女性の立場が強くなったのが今の北朝鮮なのだが、社会的には女性が弱い立場に置かれていることに変わりはない。

 幹部の多くを占める男性が生み出したのが「忠誠の歌の集い」という名のミスコンなのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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