PK戦18人が蹴り合う死闘。女子大生の日本代表が「なでしこらしさ」見せるも、一歩及ばず
難敵を相手に勇戦
試合が終わって全体のクールダウンも終わったそのあとで、一人ピッチの隅でストレッチを続ける加賀孝子主将の表情から、無念さがにじみ出ていた。決して勝てない相手ではなかった。その肌感覚があればこその悔恨なのだろう。ユニバーシアード光州大会女子サッカー競技準決勝。フランスと対峙した日本は、PK戦の末に苦杯をなめた。
率直に言って、フランスは強力なチームだった。A代表招集歴のある選手まで含み、U-17やU-20などの年代別フランス代表経験者が多数含まれる陣容は、純粋に大学サッカー部に所属する選手のみでチームを編成している日本を上回るもの。平均身長約170cmの体格面だけでなく、個々の能力を比較すると全体に分が悪かったのは否めない。
ただ、当然ながらサッカーは個の能力を比較し合うスポーツではない。「本当に粘り強くやってくれた」と選手を讃える望月聡監督が試合前にあらためて徹底したのは、「基本中の基本」であるチャレンジ&カバー。「必ず誰かが競りに行く、勝とうが負けようが必ずカバーに入る」という大原則をあらためて確認。1対1のぶつかり合いになると厳しいことを織り込んだ上で、チームとして戦うことを強調した。
「みんなで助け合うところは絶対に日本は負けていないと思っていた」と加賀が言うように、前半はボール支配率ではほぼ一貫してフランスに劣勢となる試合展開ながら、日本の守備組織が破綻したというようなシーンはほとんどなかった。0-0で折り返し、両翼の選手を入れ替えて攻撃のギアを入れ直すのもプラン通り。だが、好事魔多し。53分、相手のFKに対してGKとDFの連係ミスが発生し、思わぬ流れから失点を喫してしまった。
「あれはガックリくる失点だったと思う。普通だったら崩れるところだが、それでも選手たちはあきらめずに戦ってくれた」(望月監督)
ここからが日本の真骨頂となった。“なでしこジャパンらしさ”を何に見出すかは意見の分かれるところだが、個人的にはやはりW杯決勝でも見せたネバーギブアップの精神を挙げたいし、それは後輩たちにも確かに受け継がれるものだった。
「最後まであきらめないでやれば何かを起こせると思っていたし、それはみんな同じだったと思う」と加賀が振り返ったとおり、1点取って気持ちが守りに入っていくフランスとは対照的に、日本側のテンションは確実に上がっていく。積極的な仕掛けがミスにつながることも多かったが、それでもなお繰り返す攻勢で75分にCKからMF三橋眞奈(大阪体育大学)が押し込んで同点とすると、試合の流れは完全に日本側へ傾いた。
そこからは暑さで足の止まったフランスに対して、日本の攻勢の時間帯が続く。「最後までチームのために走り切るという日本らしさ、日本の良さを出してくれた」と望月監督も目を細める戦いぶりだったが、いかんせんフィニッシュワークで精度を出せるほどの体力は残っていなかったか。チャンスはあったがゴールには至らず、1-1のまま後半も終了。試合の決着は、準々決勝に続いてPK戦に委ねられることになった。
そのPK戦は大激闘となった。5人までのキックでは決着付かず、最後は9番手のキッカーとなったDF林香奈絵(尚美学園大学)のシュートがフランスGKの守備範囲内に飛んでしまい、逆にフランスの9番手となったルビオのシュートは見事にゴール隅へと決まって試合終了。日本の金メダルへの道は断たれることとなってしまった。
この冒険は、まだ終わらない
試合後、加賀は「自分が(2番手のキッカーとして)外して、悪い流れを作ってしまった」と天を仰いだ。ただ、彼女たちの戦いはここで終わるわけではない。もう1試合、メダルマッチが残っている。カナダとの3位決定戦について水を向けると、少しのよどみもなしに言い切った。
「必ず、メダルを獲って帰ります」
主将の口から出てきた声は実に明瞭で、力強かった。