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沖縄の球児に贈られた7000個のボール キャンプ訪問韓国3球団の「ボールの恩返し」

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表/KBO取材記者
6月5日に行われたボール贈呈式(写真:うるま市観光振興課)

第101回全国高校野球選手権大会の出場校を決める地方大会が先週、沖縄と南北海道で幕を開けた。甲子園を目指す球児たち。彼らの努力を支える一端に、ある地域では韓国の球団が関わっていることはあまり知られていない。

沖縄本島の中部にあるうるま市は今月5日、市内の高校野球部7校と中学の硬式野球4チームに硬式ボールの贈呈式を行った。贈り主は同市で春季キャンプを行った、韓国プロ野球のSKワイバーンズとトゥサンベアーズ、LGツインズの3球団だ。

(関連記事:12球団のキャンプ日程が出揃う 韓国球団との練習試合は23試合 2019/1/25)

その数はキャンプで使用し、練習球として使われた約7000球、さらに新品のボール2ダースが各チームに贈呈された。韓国球団から日本の球児へのボールの寄贈は20年以上前から行われている。

脈々と続く「ボールの恩返し」

1997年に那覇市の奥武山球場(現・沖縄セルラースタジアム那覇)でキャンプを行ったサンバンウルレイダース(99年限りで消滅)は、沖縄尚学高にキャンプで使ったボールを寄贈。沖縄尚学はその2年後、99年の春のセンバツで沖縄県勢として春夏通して初の全国制覇を果たすという成果にもつながった。

沖縄に限らず、かつて大分県津久見市でキャンプを実施したトゥサンは、同市の津久見高にボールをプレゼントするなど、キャンプ地への「ボールの恩返し」は恒例となっている。

具志川球場でキャンプを行ったトゥサンのナイン。後方にはボールが入ったカゴが数多く置かれている(写真:ストライク・ゾーン)
具志川球場でキャンプを行ったトゥサンのナイン。後方にはボールが入ったカゴが数多く置かれている(写真:ストライク・ゾーン)

これまでボールの寄贈は、球団と高校野球部での付き合いの範囲内で行われていた。しかし今回はキャンプ地の自治体が贈呈の場を設けたことがこれまでとは異なる。

うるま市の観光振興課でスポーツ交流を担当する外間多希子さんはこう話す。

「毎年キャンプ終了後に、韓国の球団からボールの寄贈がありましたが、キャンプを受け入れていることで、子供たちや市民にも還元されていることを広く知ってもらうために、今回から正式に贈呈式を行うことにしました」

贈呈式では島袋俊夫市長、嘉手苅弘美教育長が球児にボールを手渡した。

700万円相当の負担軽減

野球はお金がかかるスポーツと言われる。それは個人で使用する用具だけではなく、ボールもその一つだ。

試合で使われるボールは少しでも土がつくか、ファールチップなどで傷がつくとすぐに新球に交換。それらのボールは公式戦では使われなくなり練習用へと回る。

練習で使用するボールはティーバッティング、フリーバッティング、ノックと相当数に上る。15年以上前からうるま市内の具志川野球場でキャンプを行っているSKは、毎年キャンプに新品のボール約1200球を韓国から持参しているという。

具志川球場で練習試合を行う、昨季の王者・SK(写真:ストライク・ゾーン)
具志川球場で練習試合を行う、昨季の王者・SK(写真:ストライク・ゾーン)

中学の硬式野球チーム・うるま東ボーイズで監督を務める大野倫さんは、ボールにかかる費用は「年間50万円」に上ると話す。大野さんは沖縄水産高の元エースで、チームを全国大会で2度の準優勝に導いた甲子園のヒーロー。プロでは巨人、ダイエーで野手としてプレーした。

「試合球は1個約1000円。1試合で1ダース(12個)使います。練習用の安いボールはすぐにボロボロになるので、試合で使ったボールが練習球になります。寄贈されるプロのボールは質がいいので、使用済みでも練習試合に使えます」

今回うるま市に寄贈された7000個を上記の1個1000円で換算すると700万円になる。キャンプ地にもたらす経済効果は日本の球団には及ばないが、球児の負担軽減にはなっている。

ボールは各校、各チームに分配された(写真:うるま市観光振興課)
ボールは各校、各チームに分配された(写真:うるま市観光振興課)

沖縄球児に韓国球団は身近な存在

寄贈されたボールには韓国KBOリーグとメーカーのロゴがうっすらと残っている。

「生徒たちは韓国のボールだと知っています」と県立具志川商業高野球部の上原健吾監督は答えた。

沖縄ではうるま市の他に恩納村赤間でサムスンライオンズ、金武町(きんちょう)でKIAタイガースなどがキャンプを行っているが、ボールの寄贈は以前からそれらの球団からも行われていると上原監督は話す。

「恩納村や金武町出身の選手がいるチームにはそれぞれの教育委員会を通して、韓国球団のボールをいただいています」

ボールの寄贈の他に、韓国球団のキャンプでは高校野球を引退した元部員が、アルバイトで練習スタッフを務めることも多い。沖縄球児と韓国の球団は密接な関係にある。

カゴいっぱいのボールには韓国リーグ、メーカーのロゴがうっすらと残る(写真:うるま市観光振興課)
カゴいっぱいのボールには韓国リーグ、メーカーのロゴがうっすらと残る(写真:うるま市観光振興課)

一回戦でうるま市同士が激突

全国に先駆けて22日に開会式を迎えた沖縄大会。うるま市の7校のうち、中部農林と具志川商、具志川と与勝は一回戦でうるま市同士の対戦となった。

具志川商の上原監督は「エースの新垣(瑠依)の左肩のけがが治ったので万全です。新チームになって新人戦で3位、秋はベスト8だったので上を狙っていきます」

異国のトップリーグの選手たちが手にしたボールで技術を磨いた沖縄の球児。彼らは共に競い、夢舞台を目指す。

石川球場で練習するLGの捕手陣。その傍らには必ずボールが入ったカゴがある(写真:ストライク・ゾーン)
石川球場で練習するLGの捕手陣。その傍らには必ずボールが入ったカゴがある(写真:ストライク・ゾーン)

<うるま市7校の沖縄大会一回戦の試合予定>

・6月29日

☆日本ウェルネス-球陽(コザしんきん)

・6月30日

☆具志川-☆与勝(北谷)

☆石川-沖縄高専(コザしんきん)

・7月2日

那覇西-☆前原(セルラー)

☆中部農林-☆具志川商(北谷)

☆印がうるま市の高校。雨天順延の場合あり

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表/KBO取材記者

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FM那覇)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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