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台湾から東北へ、 復興への願いを込めて弾く盲目のピアニスト

中島恵ジャーナリスト
演奏する黄裕翔さん(写真提供:台北駐日経済文化代表処)

生まれつき目が不自由な台湾人ピアニスト、黄裕翔さん(26歳)がこのほど来日した。12月4日の仙台青年文化センターを皮切りに、気仙沼(5日)、会津若松(7日、8日)、郡山(9日)などの被災地でコンサートを開催するためだ。

黄さんが“日本”と出会ったのは台湾在住のシンガーソングライター、馬場克樹さんと08年に知り合ったことがきっかけだった。馬場さんと交流するうちに、しだいに日本への関心が深まっていったという。「何とかして、被災地の友人を助けたい。目の見えない自分にできることはピアノを弾くことだけ。東北の皆さんを少しでも元気づけることができたら…」と考えた。

これより以前、黄さんの思いに心を動かされた復興支援メディア隊が支援活動の一環として、11年に東京・日比谷で黄さんのチャリティコンサートを開いたことがあり、そうした経緯もあって、今回は東北地区を巡回することになった。復興支援メディア隊とは、東日本大震災直後から東北に入り、さまざまな復興状況を発信し続けている非営利団体だ。

このほど東京で行った記者会見で、台北駐日経済文化代表処顧問兼台北文化センター長の朱文清さんは、「99年の台湾大震災のとき、日本の迅速な支援と救援が何よりもありがたく、本当にうれしかったことを、今でも台湾人は忘れていません。東日本大震災が発生したときも、私たちにできることは最大限させていただきましたが、困難があるときこそ、人と人の絆がよくわかるもの。台湾と日本は強い絆で結ばれていると感じています。黄さんの演奏で、被災地の皆さんの心を少しでも慰めることができたら、と思います」と挨拶した。

会見する黄さん、共演する歌手・土岐千尋さんたち(写真:台北駐日経済文化代表処)
会見する黄さん、共演する歌手・土岐千尋さんたち(写真:台北駐日経済文化代表処)

黄さんは先天性の視覚障害を持つが、4歳の頃からピアノを習い始め、台湾内の数々のピアノコンテストで優勝。08年には台湾の管弦楽団との共演も果たした実力派。レパートリーはクラシック、ポップス、ジャズ、ロックなど幅広い。目は見えないが、常に笑顔を絶やさない明るい人柄で、周囲の人々に元気を与えるパワフルな演奏活動を行っている。

12年には自ら主演と音楽を担当した長編映画『光にふれる』(原題:逆光飛翔、12年/台湾/張栄吉監督)に出演した。同作品は台湾内で大ヒットしたほか、アカデミー賞外国語映画賞の候補となり、東京、釜山、ベルリンの国際映画祭にも招待された。14年2月には、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿など全国でロードショーされる予定だ。

東日本大震災のとき、世界で最も義援金を寄せてくれたのは、ほかならぬ台湾だった。その台湾からやってきたひとりの青年ピアニストの調べが、もうすぐ被災地に届く――。

※コンサートの予約・問い合わせは復興支援メディア隊まで(電話:0467-24-1740、info@ev-pj.com)

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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