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薗浦議員政治資金パーティ収入過少記載は、実態悪を伴う悪質・重大な政治資金犯罪

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

自民党の薗浦健太郎衆議院議員が政治資金パーティの収入を政治資金収支報告書に過少に記載した疑いで東京地検特捜部が捜査している事件、報道がにわかに盛り上がってきており、特捜部の捜査もかなり煮詰まっているように思える。

そもそもこの事件を、政治資金規正法違反としてどうみるべきなのか。犯罪としてどれだけ重大・悪質なものとみるべきなのかについて、報道で明らかになっている事実を前提に、私自身の検察の現場での経験を踏まえて考えてみたい。

まず政治資金規正法という法律は、

政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずる

ということを目的としている法律(同法1条)である。

後段の「政治資金の授受の規正その他の措置」というのは、会社等の寄附の制限、公職の候補者本人への寄附の制限、補助金等を受けた法人の寄附の禁止、国から出資を受けている法人の寄附の禁止などのように、寄附自体の制限・禁止や総額の制限のことを言う。

一方、前段の「政治資金の収支の公開」というのは、政治資金の収支について、毎年1回提出する政治資金収支報告書に正しく記載して提出し、それが公開されることで、国民、有権者に、その政治団体や政治家について正しい情報を提供するということだ。

賄賂というのは公務員の職務の対価ということで「不浄な金」だが、政治資金は、もともと不浄なお金というわけではない。そこが、贈収賄の事件とは違う。

今回の薗浦議員の事件も、政治資金規正法違反、政治資金収支報告書の虚偽記入の容疑である。いろいろな政治家に関して、政治資金収支報告書の虚偽記入の問題が出てくるが、それ自体は要するに「正確に記載されてない」、それによる「情報開示が間違っていた、あるいは隠されていた」という問題だ。記載されていなかった金が不正な金かどうかという問題ではない。

多くの場合、「単なる記載ミスだった」とか、「記載を失念していた」などと弁解する。

例えば、安倍元首相の「桜を見る会」の前夜祭を巡って、政治資金規正法違反で秘書が起訴されたことが記憶に新しい。桜を見る会の前夜祭の収支そのものを全く収支報告書に記載していなかった。これについても、秘書が事務手続上、収支報告書に記載すべきものが記載されていなかったということで、結局、秘書は処罰されたが、形式上の問題ということで済まされている。

「意図的な虚偽記入」であれば、なぜそのように政治資金収支報告書に虚偽の記載をするのか、あるいは記載すべきことを記載しないのかの説明が必要になるので、そうならないよう「過誤」や「失念」で押し通す場合が多い。

言い換えれば、意図的な虚偽記入が行われるとすれば、収入であれば、実際に受けていた寄附を表に出したくない、支出の場合は、その使い道を表に出したくないという動機があったということになる。

一般的には、収支報告書の記載の「間違い」「過誤」「失念」で済まされることが多い政治資金規正法違反事件だが、今回の薗浦議員のような「政治資金パーティ過少記載」というのは、そういう説明で済む事件ではない。

政治資金パーティの収入4000万円をなぜ記載しなかったかといえば、表に出せない目的で使ったとしか考えられないからだ。

実は、私自身も検察の現場にいた時、20年ほど前のことになるが、長崎地検次席検事時代に「自民党長崎県連事件」という検察の独自捜査を手掛けたことがある。公職選挙法違反と政治資金規正法違反で、自民党の地方組織である長崎県連の公共工事からの資金の収奪構造の核心に迫る事件だった。

このとき、最終段階で我々長崎地検捜査班が立件した事件が、自民党長崎県連が行った大規模な政治資金パーティでの収入の過少記載だった。1億5000万円くらいの収入のほかに、3000万円ほど隠された収入があった。

その隠された収入部分は裏金に回されていた。その裏金の使い方にも、当然、問題があった。

政治資金パーティの収入を除外するという収支報告書の虚偽記入・過少記載の政治資金規正法違反は、「実態悪」を伴っている可能性が極めて高い。今回の事件でも不記載にかかる4000万円のお金は一体何に使ったのか、という点が問題になる。 

今のところは収支報告書への過少記載のところに焦点が当たっていて、それについて秘書からメールで報告が行われていたこと、薗浦議員も特捜部の任意聴取で、過少記載の認識はあったと供述をしていることが報じられている。

過少記載をすることを秘書から報告を受けて知っていた、ということだけではなく、何のための過少記載なのか、なぜ過少記載せざるを得ないのか。それは、その分のお金を裏金にして別の目的で使っているからだ。その点について薗浦議員自身がどのように認識していたのか、どのように関わっていたのか、というところが最大の問題だ。

そこで今後の捜査の展開だが、何と言っても注目されるのは、薗浦議員が逮捕されるのかどうかだ。

国会議員には、会期中は「不逮捕特権」があるが、今は国会の閉会中なので、院の許諾がなくても逮捕することは可能だ。ただ、国会議員というのは、国民に選挙で選ばれた政治家なので、もちろん慎重に逮捕の判断をしなければならない。

12月15日の毎日新聞で、薗浦議員が秘書に罪証隠滅の指示をしたということ、それについて秘書がやり取りを録音していた、ということが報じられている。毎日新聞の報道によると、通帳に記載された収支のメモ書きを消去するよう求めたようだ。

4000万円という過少に記載したお金のことは表の会計帳簿には書けない。政治資金規正法上、収支報告書の記載に対応する会計帳簿が本来備え付けられていなければならないが、そこに書かれていれば、当然、収支報告書にも書かなければならなくなる。収入から除外して裏金にした金をどうしたのかを一応記録しておかなければならないとすると、裏帳簿のようなものがあるか、あるいは大雑把に書くとすれば通帳にメモ書きするということになる。

そのメモ書きを消せと、記載を消去するよう求めたということになると、これは重大な罪証隠滅、証拠隠滅ということになる。

既に述べたように、政治資金パーティの収入を4000万円も隠して裏金にしていたとすると、政治資金規正法違反のなかでも極めて悪質な犯罪、実態悪を伴った犯罪とみるべきだ。

そういう相当処罰価値のある犯罪なので、そういう犯罪に関して国会議員が秘書に罪証隠滅の指示を行っていたということになれば、これは、逮捕は免れないように思われる。

検察の内部で慎重に検討しているのだと思うが、1月の通常国会が始まる前に20日間の捜査が終わる今の時期に早く逮捕した方が良い、という判断になる可能性は十分にある。

問題は、この事件が、自民党にとって、そして日本の政治にとってどのような意味があるかということだが、私はこのような政治資金パーティの収入の一部を隠して裏金化するというやり方、これは決して薗浦議員個人の問題ではないように思える。

20年前、自民党長崎県連事件の政治資金パーティの事件の際、被疑者を逮捕することに対して、検察の内部で相当強い消極方向への力が強烈に働いた。結局、逮捕は見送ることとなり、在宅で略式起訴した。

企業団体献金が原則禁止されて政党支部を通じて例外的に認められるだけになったという「政治資金改革」の中で、政治資金パーティによってまとまったお金を裏金化するという手段が、自民党議員のなかで一般的に使われていたのではないかという印象を、当時、私は持っていた。

今回、同じような政治資金パーティをめぐる虚偽記載・虚偽記入事件ということになるわけで、私は、20年の間、脈々とそういう方法が自民党の中で、一部の政治家たちに受け継がれてきたのではないかという疑いを持っている。

ぜひ今回の事件を契機に、東京地検特捜部は、徹底的に政治資金パーティを巡る疑惑に迫ってもらいたい。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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