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建設業界の人材不足感を長期視野で確認する

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 建設相次ぐ新造住宅。業界は活性化しているように見えるが……

建設業界の人材過不足感の定期調査「建設労働需給調査」

景気回復感に伴う労働市場の急激な変化により、人手不足が社会問題化している。中でも建設業界における不足感が著しい。その実情を国土交通省の定点観測調査「建設労働需給調査」から確認していく。今調査は「建設技能労働者」の需給状況などを職種別、地域別に毎月定点観測的に調査しているもので、調査対象は約3000社と大規模なものである。

過不足率そのものは労働者数の需給状況を業者側から見たもので、プラスなら不足、マイナスなら過剰となる。具体的な過不足率の算出方法は次の通り。「現状の作業量ならこの位の労働者があれば過不足なく作業が進められる」と考えている数に対し、実際どれだけ足りなかったのか、多かったのかが比率として算出される。ニュアンス的に「足りないな」「余ってるな」という類のものでは無いので、不足感の実態が強弱も合わせ良く表れる値といえる。

↑ 過不足率の算出方法
↑ 過不足率の算出方法

この過不足率について、1993年以降の動向(季節調整値)を確認する。また、直近の金融危機が勃発した2007年以降に限ったグラフも合わせて生成する。

↑ 建設技能労働者過不足率推移(季節調整済み)(プラス:不足)(8職種合計)
↑ 建設技能労働者過不足率推移(季節調整済み)(プラス:不足)(8職種合計)
↑ 建設技能労働者過不足率推移(季節調整済み)(プラス:不足)(8職種合計)(2007年以降)
↑ 建設技能労働者過不足率推移(季節調整済み)(プラス:不足)(8職種合計)(2007年以降)

金融危機ぼっ発直前の2006年9月に一度不足感のピークを迎えるも、それ以降は不況化に伴い建設需要も低迷。人材も過剰気味となる。リーマンショックを経て2009年10月には最低値のマイナス2.0%を示し、それ以降は徐々に回復の兆し。

直近では東日本大地震・震災の2011年3月が一つの転換点。震災直後は混乱状態にあったものの、数か月後から復興需要に合わせ人材不足が顕著化し、過不足率は1%台を推移する。そして政権交代に伴う政情の変化(2012年冬)、東京オリンピック開催決定(2013年9月)、さらには消費税率改定に伴う個人向け住宅などの駆け込み需要の発生による建設ラッシュ(2013年後期に顕著化)など、建設市場の需要拡大と人材不足を後押しする事象が続き、過不足率も上昇していく。

最新値となる2014年3月の、全体的な季節調整済みの過不足率はプラス3.3%。これは少なくともデータをすぐに取得できる1993年以降では最大の値を示していることになる。建設業界で深刻な人材不足が叫ばれるのも納得は行く。ただし一部においてイメージ化されているような、人材がまったく集まらないというレベルの不足は、少なくとも全体値としては生じていないことも分かる。

また、大勢としては「景況感の好転による不足感」「金融危機で過剰感」「震災をきっかけにした復興需要や政情変化などによる不足感」という昨今の流れが見て取れる。

業種別に過不足率を確認する

よい機会でもあるので、震災直前の2010年12月以降における、8職種それぞれの過不足率動向をグラフ化しておく。

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↑ 建設労働需給過不足率推移(季節調整済み、職種別、2010年12月-)
↑ 建設労働需給過不足率推移(季節調整済み、職種別、2010年12月-)

建設業界全体の流れとまったく同一の動きをしているのではなく、業種別でもそれぞれ異なる動きを示している。例えば配管工は比較的不足感が大人しいが、それでも去年後半からはやや不足率が上昇していること、電工はこの数か月で突然大きな不足感に見舞われていること、型わく工やとび工は去年の春先から不足感が強まっていること(消費税率改定に伴う住宅需要の急増に伴うものだろう)、鉄筋工は震災を機に不足感が強まり、今現在に至るまで続いていることなどが、変化が起きた時の状況と照らし合わせると把握することができる。

一方で、全体値の推移からも分かる通り、どの職種でも不足感が蔓延していることに違いはない。「建設労働需給調査」の今後の予想項目値を見る限り、この数か月がピークで、今後はむしろこの不足感は沈静化に向かうようだが、今しばらくは厳しい状態が続くことには変わりあるまい。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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