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マイノリティを知ることは多様性を持つことである〜マイノリティの発信を続けるサイト〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
いろんな形や色がある。それが人間であり、それが自然。(写真:アフロ)

先日ブラジルで閉幕したリオオリンピック・パラリンピックでは、公開プロポーズが立て続けにあったという報道がありました。そしてその多くは同性婚だったことも、世界を驚かせました。人口の約7割がカトリック教徒であるブラジル。カトリックでは原則的に同性愛に否定的ですが、それでもブラジルでは2013年に同性婚が事実上認められたそうです。

この報道は、同性婚のみならず、あらゆるマイノリティについて考える良いきっかけだと筆者は考えます。ますます多様性が増す世界で、均一さの高い日本がこれからどう世界の潮流についていくのか。

その答えの一つに筆者は「マイノリティへの理解」があると考えています。マイノリティと一言で言っても色々あります。性的マイノリティである同性愛や、目が見えないなどの障害、犯罪の被害者、外国人であることなど・・・

これらのマイノリティを理解するためには、まずマイノリティーについて「知る」ことが最も大切です。同性愛者の友人がいたら、同性婚への理解も進むと思いませんか。

そこで本記事では、他メディアとは違った記事を載せていることで、今静かな話題を呼んでいるサイトをご紹介します。このsoar(ソア)というサイトから、いくつか記事をご紹介しましょう。

円形脱毛症の若い女性が作る、世界一優しいスカーフ

世界一優しいスカーフのイメージ
世界一優しいスカーフのイメージ

(イラスト:花咲マリサさん)

「円形脱毛症」という病名、一度は聞いたことがあると思います。名前の有名さの割にはあまり知られていませんが、実はこの病気って難病なのです。病気自体は約2000年前からその存在を指摘されており、アメリカでは人口の0.1%もいて日本でも同程度いると思われる、髪の毛が抜けてしまう病気です。その原因は未だにはっきりしておらず、一般にストレスが関与していると言われますが、ストレスの関連のない患者さんも多く、自己免疫が関与しているのではと専門家の間では議論されています。どんな年齢でもどんな人種も男女問わず起こる病気で、私にとってもこの記事をお読みの方も他人事ではありません。

命には関わりませんが、「髪の毛が抜ける」という症状の特性上、人前に出づらくなったり学校や会社に行けなくなったりと、QOL(Quality of Life; 生活の質)を大きく下げる病気です。

そんな病気になってしまった角田真住(つのだ・ますみ)さん。二児の母のときに円形脱毛症を発症し、「髪の毛がない経験が生かせることがあるんじゃないか」とビジネススクールに通い考えた結果、肌に優しいスカーフを作る会社を立ち上げました。そしてクラウドファンディングでの達成を経て、現在「世界一優しいスカーフ」を販売中とのことです。

筆者はがんの治療を専門とする医師ですから、抗がん剤により脱毛になった患者さんにお会いすることがよくあります。女性に多いのですが、脱毛により「家の外に出られない」「人に会えない」と社会活動が制限されてしまうことも・・・。しかしこんなスカーフがあれば、少しはそういう方の気持ちも上がるのではないかと思うのです。しかも高額になりがちなウィッグよりも手に入れやすい値段であれば、とても便利ですよね。

記事はこちらです。

ネット夜回りで若者の自殺予防を

ネットを使ったいわゆる「夜回り」で、若者の自殺予防を試みているサイトがあります。

あまり知られていませんが、日本人の20歳代、30歳代の死因の第一位は病気や怪我ではなく「自殺」なのです(厚生労働省ホームページより)。

その若い人の自殺に対して、ネットでアプローチをする「OVA(オーヴァ)」というサイト。その手法とは、自殺に関連した用語を検索した人がOVAのサイトにすぐアクセスすることが出来る、検索連動型広告でした。

この世から消えてしまいたいという理由はなんにせよ、おそらく周りに相談できる人もおらず、やむにやまれず「死にたい」と検索するのでしょう。この圧倒的なマイノリティであり孤独を救うことが出来るかもしれない、そんなサービスです。

記事はこちらです。

このsoarというサイトには、他にも「大人の発達障害」や「犯罪の被害者」、「大切な人を喪った人」や「難病や病気で苦しむ人」などというマイノリティに光を当て、支援をしている人たちに取材しています。

soarを始めた人へインタビュー

筆者は、このsoarを始めた工藤瑞穂さんにインタビューを行いました。

写真中央が工藤さん
写真中央が工藤さん

Q. なぜこのようなメディアを始めたのですか?

A. 私は幼少期から野口英世の伝記が好きで、弱い立場の人をサポートしたいという思いがありました。そして大人になり、身近な人が統合失調症を発症し戸惑ったことがあり、もし病気が進む前にプラスになるような情報を手に入れていたら、今よりもいい対処ができたかもしれないと思ったことがあります。

例えば身近な人が病気になったり障害があるとわかった時、いい情報が必要な人のもとに届いていないことが多い。そして情報があってもネガティブな描き方が多く、希望の持てる情報が少ないのです。私は埋もれている素晴らしい情報を届けたいと思い、soarを作りました。しかも明るくおしゃれなデザインで、ポジティブに発信したかったのです。

Q. なぜマイノリティの方に注目したのですか?

A. マイノリティの方々は「かわいそうだな」と思われがちですが、実際お会いするとパワフルで生命力に溢れている方が多い。そのエネルギーや真摯なあり方に、私も自らの生き方を問われるほどです。

私たちsoarは、社会的マイノリティの定義とは「人は生まれながらに自分のなかに力や可能性を持っているのに、環境や外的要因のせいでそれが発揮できない状況にいる人」だと考えています。たまたまいい情報やツール、活動に出会えなかっただけで弱い立場になった人もいます

Q. soarという名前の由来を教えて下さい。

A. soarは、「鳥が空高く羽ばたく、気持ちが高揚する」という意味です。誰もが鳥が羽ばたいて空を飛び回るように生きてほしいという願いを込めて、この名前をつけました。

Q. soarを始めてから、どんな反響がありましたか?

A. 記事を読んで、実際に行動が変わったという方がいらっしゃいました。たとえば家族を亡くされた方がずっと苦しんでいらして、soarのグリーフケアの記事を読んでグリーフケアのワークショップに行かれたり、双極性障害などの記事を読んで、「もしかしたら」と思い病院に行ったらその診断がついたりということもあったそうです。

他にも、スクールカウンセラーやセラピスト、福祉関係者など、大切な仕事をしているのに普段あまり注目されにくい職業の方にスポットライトを当てた記事を、他の同業の方が喜んで読んで下さっています。

Q. 今後はどんな記事を載せる予定ですか?

A. うつやLGBTは世間でよく認知されているので記事も読まれるのですが、もっと知られていない病気や障害、そして今あまり課題感を持たれず「盲点」になっているような分野を取り上げたいと思います。たとえば親御さんがうつ病であるお子さんや、自死遺族のご家族などです。

記事のスタイルとしては、「インタビュアーとインタビューイが話しているのをそっと覗いているような」親近感のある記事を作りたいと思っています。マイノリティについて「知ってもらう」というよりは、「友達になる」という感じがいい。偏見や差別はなかなか無くせないけれど、友達になれば決して他人事ではなくなり、自分のこととして考えられると思うんです。

Q. 今後の展開は?

A. 「教育」にもチャレンジしたい思っています。soarの記事に登場した方に小学校で一緒に講演してもらうなど、小さいうちから多様性に触れることの大切さを考えています。先日も、教職員向けにLGBT当事者の方に講演していただきました。また、企業と一緒に「働き方」について考えたい。働き方が影響してうつや病気を発症する方は多いですから。「どうすれば誰もが働きやすい職場をつくれるのか」を企業と一緒に模索するというプロジェクトも行っています。

マイノリティについてまずその存在を知り、どんな人がいるのか、どういう状況なのかを知ることから、多様性は始まります。一度、ご覧になってマイノリティについて考えてみませんか。

soar

(参考)

日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2010

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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