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【アイスホッケー】アメリカ最北のプロスポーツチームが「最後の戦い」に挑む!!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
NHLのチャンピオンに二度輝いたアラスカ生まれのスコット・ゴメス(写真:ロイター/アフロ)

NHLは明後日(現地時間)の試合をもって、レギュラーシーズンが終了するのを前に、ウエスタンカンファレンスは、プレーオフに進む8チームが決定。

対してイースタンでは「最後の一つ」の出場権を懸けて、トロント メイプルリーフス、ニューヨーク アイランダーズ、タンパベイ ライトニング の3チームが、しのぎを削っています。

▼アメリカ最北のプロスポーツチーム

一方、NHLの二つ下のリーグに相当するECHLのレギュラーシーズンも、明後日で終了しますが、「最後の戦い」に挑むチームがあります。

バンクーバー カナックスのアフィリエイトチームのアラスカ エイセスです!

チームの歴史を振り返ると、1989年にアラスカ州最大の都市・アンカレッジをホームタウンとするセミプロチームとして誕生し(当時はアンカレッジ エイセス)、地域リーグへ参戦。

その後、2003年にNHLの二つ下のリーグに相当するECHLへ加盟。「アメリカ最北のプロスポーツチーム」として、新たな一歩を踏み出しました。

▼アラスカ生まれの選手がNHLで頭角を現す!

北米4大スポーツのチームとアフィリエイト(=マイナーチームの役割を担うプロリーグ加盟のチーム)契約を結んだチームが誕生するより早く、アラスカ生まれの選手がNHLで頭角を現していました。

その筆頭は、ニュージャージー デビルスにドラフト指名されたスコット ・ゴメス!!

アラスカ生まれのスコット・ゴメス(Photo:Jiro Kato)
アラスカ生まれのスコット・ゴメス(Photo:Jiro Kato)

1998年のドラフトで、1巡目(全体27番目)指名を受けたゴメスは、アンカレッジの生まれ。

翌年にNHLデビューを飾ると、CFとして巧みなパスから得点を演出。オールスターゲームに出場しただけでなく、カルダートロフィー(最優秀新人賞)に輝くほどの働きで、スタンレーカップ(優勝トロフィー)を勝ち取る原動力になりました。

さらにゴメスは、3季後にもスタンレーカップを獲得。またアメリカ代表に選出され、ワールドカップやオリンピックにも出場。

この活躍に触発されて、マット・カール(DF・現ナッシュビル プレデターズ)や、ブランドン・ドゥビンスキ(FW・現コロンバス ブルージャケッツ)ら、チームの主力を担うアラスカ生まれのNHLプレーヤーが頭角を現していったのです。

▼故郷を愛し続けるゴメス

アンカレッジ生まれのトッププレーヤーとして活躍したゴメスは、故郷のアラスカへの想いを忘れませんでした。

12季前(2004-05)にNHLの労使交渉が難航し、開幕の見通しが立たなかった際には、「こんな時だからこそ、故郷に戻ってプレーをしよう!」との思いからアンカレッジへ戻って、アラスカ エイセスの一員に。

5季前(2012-13)にも労使交渉が難航し、1月半ばまで開幕がずれ込んだ際も、再びアラスカ エイセスでプレーをしました

さらにゴメスは、現役晩年にスコット・ゴメス財団を設立。

アラスカ州や、アンカレッジ市の財政難によって補助金の打ち切りが決まり、活動終了の危機に直面していた高校の女子チームへ、支援の手を差し伸べました。

ゴメスが設立した財団は、女子チームに限らず、子供たちへ用具を提供するなどして、故郷のアイスホッケーを支え続けています。

▼景気の低迷が最北のプロスポーツチームを襲う

ゴメスの奮起はあるものの、近年のアラスカを取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ません。

地理的な要因から、物流コストが高くつき、アメリカ経済の活況さに乗ることができずにいる上、かつて太平洋路線の航空便が給油地として立ち寄った頃に比べると、観光業も振るわない模様。

近年は原油価格の下落もあって景気も低迷。「全米50州の中で失業率は2番目に高い」との報道も見られるほどです。

このような状況の中、アメリカ最北のプロスポーツチームも、スポンサー収入や観客動員数が伸び悩み、大きな影響を受けています。

▼最北の州がホームタウンのために・・・

さらに、アラスカ州をホームタウンにしていることも、チームの経営に打撃を与えています。

ECHLは「イーストコーストホッケーリーグ」の名で設立されたことでも明らかなとおり、元々はアメリカ東海岸のチームを中心に構成されていました。

その後、北米のマイナーリーグの再編によって、東海岸以外にもフランチャイズが増えていきましたが、現在加盟している27チームのホームタウンマップ(←クリックするとご覧なれます)をご覧いただくと一目瞭然で、大半のチームが東海岸近辺を中心とするイースタンタイムの都市に、フランチャイズを置いています。

最多優勝回数(3回=他に2チームあり)を誇るアラスカは、ECHLに加盟し続けてきましたが、NHLチームのような移動コストをかけるわけにはいかず、一度の遠征で多くの試合を消化します。そのためホームゲームが半月ほどないことも、珍しくはありません。

アラスカと対戦するチームも、移動と滞在費用を抑えるため、3連戦を4日間で消化するカードがほとんどで、なかには3連戦を3日間で終わらせるカードも組まれます。

景気が低迷する中、よほどの熱心なファンでなければ、同じチームとの顔合わせに、3試合も続けて足を運ぼうとは思わない模様で、最北の州がホームタウンであるが故の苦しみが、チームを悩ませてしまっているのです。

▼27季の歴史にピリオド

このような状況から、アラスカは、

15年前にチームオーナーとなった ジェリー・マッキ―は、「本当に難しい決断だった。まるで家族を失うような気持ちだ」という断腸の思いを、現地のテレビ局の取材に対し明かしていました。

▼「最後の戦い」に挑む!

現在アラスカは、レギュラーシーズン最後のカードとなるホームゲーム3連戦(vsアイダホ スチールヘッズ)に挑んでいます。

3連戦を迎える前の時点で、アラスカはウエスタンの「9位」

上位8チームが進めるプレーオフスポットのうち、既に7つの行方は決まり、残りは「あと1チームだけ!」とあって、白星を手にしたかった一昨日の初戦では、完封負けを喫してしまいました・・・。

逆転でプレーオフスポットをつかむためには、

アラスカが「残り2試合を(オーバータイムまでもつれずに)2連勝」

した上に、

現在8位のユタ グリズリーズが「残り2試合を(オーバータイムまでもつれずに)2連敗」

するしか道はありません。

自らの勝利だけでは及ばず、他力本願となってしまいましたが、アラスカは有終の美を飾るべく、プレーオフへ進むことができるのでしょうか !?

それとも、レギュラーシーズンで敗れ去ってしまうのでしょうか !?

アメリカ最北のプロスポーツチームは、「最後の戦い」に挑みます!

▼筆者追記(日本時間8日)

アラスカは現地7日の試合に完封負けを喫し、レギュラーシーズン1試合を残して、プレーオフ進出の望みが絶たれてしまいました。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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