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KDDI、「自転車スマホ」の視線を分析:歩行者の見落とし率が5割増

佐藤仁学術研究員・著述家
(KDDI)

 KDDI、京都府、au損害保険は、UNN関西学生報道連盟 (京都大学、同志社大学、立命館大学、京都女子大学他) の協力を得て、愛知工科大学の小塚一宏名誉・特任教授監修で「ながらスマホ」をしながら自転車走行した場合の危険性を検証する実証実験を実施。その結果を発表した。

以下がその時の検証動画(KDDI)

 KDDIは2018年2月24日に京都府庁において、京都府を含む関西在住の大学生11名を被験者として、スマートフォンのメッセージ画面を操作しながら自転車を走行した場合、スマートフォンに視線が集中することで、自転車ながらスマホの危険性にどの程度影響するか検証。その結果、通常走行時と自転車ながらスマホ走行時では、下記 (1) (2) (3) に関して明確な差異があることが明らかになった。

(1) 歩行者の認識度合について

歩行者の見落とし回数が通常時「1.3回」から、ながらスマホ時「2.0回」に増加し、歩行者の見落とし率が5割増となった。

(2) 歩行者を認識するまでの時間について

歩行者を認識するまでの時間が通常時「1.0秒」から、ながらスマホ時「1.7秒」に遅れた。

(3) 歩行者を注視する時間について

歩行者を注視する時間は、通常時に比べ、ながらスマホ時で「23%」に減少した。

危険しかない「自転車スマホ」加害者にも被害者にも

 昨年末に、神奈川県川崎市で、電動式自転車に乗りながらスマホ操作をしていた20歳の女子大生が、歩行中の77歳の女性と衝突、歩行者が死亡するという痛ましい事故が発生した。警察は女子大生を書類送検した。いわゆる「自転車スマホ」だ。しかもイヤホンをしながら、左手にスマホで、右手には飲料カップを持っていたようだ。つまり自転車スマホをしていた人が加害者になった。

 自動車に乗りながらのスマホ操作は法律で禁止されており、危険を認識しているが、自転車運転中のスマホ操作「自転車スマホ」も非常に危険である。そして「自転車スマホ」およびイヤホンを装着しての自転車乗車「自転車イヤホン」も道路交通法や都道府県の条例で明確に禁止されており、罰則も定められている。

 「自転車スマホ」をしている人は、自転車を運転しながらも、気持ちはスマホの中のメールやSNS、ゲームまたはイヤホンの音楽にいっている。自動車と違って自転車だから大丈夫、安全ということはない。

 だが「自分だけは大丈夫。周囲がちゃんと見えているから問題ない」と自己中心的な思考に陥っていることが多いのか、日本では「自転車スマホ」をしている人を多く見かける。そして「自転車スマホ」でも「自分だけは大丈夫」ということは絶対にない。今回、KDDIがそれらを数値化して証明したが、明らかに危険である。

 自転車に乗りながらスマホを見ているだけでも危険なのだが、イヤホンはさらに危険である。自転車に乗っている人でイヤホンをしている人が多いが、目(視覚)だけなく、耳(聴覚)も人間にとっては周囲の危険を察知するのに、非常に重要な役割を果たしている。最近はスマホで動画を見ながら、イヤホンで音声を聞きながら自転車に乗っている人も多い。KDDIの実験でも「歩行者の見落とし率が5割増」との結果が出ているように、そのような自転車に乗っている人は歩行者が目に入ってない。もはや恐ろしくて近寄りたくない。

 そして「自転車スマホ」やイヤホンをして自転車に乗っている人は、車を運転している人から見ても、物凄く危険な存在だ。「目の前にいる『自転車スマホ』をしている人は、自分が運転している車の存在にちゃんと気づいているのだろうか」と、緊張感が高まる。なぜなら、自動車の存在に気が付いてないと、"自動車が突然、目の前に飛び出してきて"、大惨事の事故につながるかもしれないからだ。

 「自転車スマホ」は自分の大切な命や人生をかけてまでするものではない。

(以下はKDDIが公表した検証の詳細概要)

1. 自転車ながらスマホ実証実験概要

11名の被験者が視線計測装置を装着して、長さ50m、幅7mのエリアをスマートフォンのメッセージ画面を操作しながら自転車で走行した。途中、歩行者が横切るポイントを4カ所 (3カ所4人)、並行するポイントを4カ所 (左右2カ所ずつ) 設定。

下記パターン1、2、3それぞれ1回ずつ、計33回の計測を実施したところ、9名の被験者から27例の有効な視野映像を得られた。

<パターン1>通常時

<パターン2>ながらスマホ使用時

<パターン3>ながらスマホ使用+イヤホン装着時

2. 自転車ながらスマホ時の視線計測からみえる危険性

実験から得られた視野映像を元に、歩行者やスマホなどに対する目視の様子について、時系列変化を分析した。各対象にどの程度目を向けていたか、対象の種類別でまとめた。歩行者を注視する時間は、通常時と比較して、ながらスマホ使用時は23%、ながらスマホ使用+イヤホン装着時は22%にそれぞれ減少した。

27例の視野映像から注視項目分析を行い、歩行者とスマホ、その他の対象に対する目視の様子について、時系列で各対象にどの程度目を向けていたか、以下の対象の種類別に集計した。

・進行方向もしくは正面方向

・横断歩行者

・並行歩行者

・その他 (車、自転車、三角コーン、目視先を移す途中など上記に該当しないものすべて。まばたき等で視線が得られていない場合も含む。)

3. 歩行者を認識するまでの反応時間

被験者の目視行動の反応遅れの分析にあたり、3パターンでの運転中の目視の様子から、横切る歩行者の行動の変化に対し、その歩行者の目視に移る様子を調査した。その結果、目視にかかる時間は平均で、通常時1.00秒に対し、ながらスマホ使用時1.67秒、ながらスマホ使用+イヤホン装着時1.42秒と遅くなった。

視野映像内に映る歩行者の行動変化に対し、視線が歩行者に移動するまでの時間を被験者の目視行動の反応時間と捉え、通常時を基準として、ながらスマホ使用時、ながらスマホ使用+イヤホン装着時の時間の遅れを調べた。

調査対象とする歩行者の行動変化は以下の通り。

・横断の開始

・歩行の停止

・(実験エリア端まで進んだ後などの) 振り返り・反転

・大幅な歩行速度の変化 (今回の実験では見られず)

なお、視野映像上で同一歩行者の複数回の行動変化がある場合、被験者が最も接近した際の (視野映像内に映る各歩行者の最後の) 行動変化を集計対象とし、それより前の行動変化に対する目視は集計対象とはしなかった。行動変化に対し目視が行われなかった場合、見落としたものとして別途集計した。歩行者を目視している際に行動変化を生じた場合、目視されていても反応時間として得られないため、集計対象としていない。

4. 自転車ながらスマホ時の歩行者の通行の見落とし

3. における、行動変化に対する目視の分析に対し、目視の挙動が見られなかった場合を、見落としたものとして別途集計した。

横切る歩行者4名に対して視線が向けられなかった回数を、被験者9人で平均すると、通常時1.33回に対し、ながらスマホ使用時は2回、ながらスマホ使用+イヤホン装着時は1.56回となった。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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