もう就活で悩まない。今、必要な【ネオ・キャリアデザイン】とは。
就活が始まると耳にすることが増える「キャリアデザイン」という言葉。ぼんやりとは理解しているけど、いまひとつ本質を掴めていないという学生が多いだろう。ただ、安心して欲しい。社会に出た大人たちでさえも、「キャリアデザイン」を理解できている人は少ない。
人生100年時代と言われ、ビジネスパーソンが「現役」として働く時間がぐんと長くなった今、企業選びにも、生き生きと働き続けるためにも、「キャリアデザイン」のアップデートが欠かせない。今回は、法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授をゲストに招き、スペシャル対談として就活のお悩みに少しでもヒントになるような情報をお送りします。
まずは「キャリアデザイン」という言葉を、正しく理解することがスタート
佐藤裕)今回は、意外と正確に理解されていない「キャリアデザイン」の本質についてお話しできればと思います。まず、社会に出る前に知っておくべき「キャリアデザイン」の基礎について、田中教授はどのようにお考えですか?
田中)まず、「キャリアデザインの基礎」を語る前に、ひと括りに「キャリアデザイン」と言っても、世代間で認識や取り組みのズレがあることを、若い世代には知っておいてもらいたいですね。
佐藤裕)今、そのズレが企業内でも大きな問題になっていますよね。
田中)そうなんです。「キャリアデザイン」という考え方が世に浸透し始めて、まだ15年足らず。40歳以上のビジネスパーソンは、キャリアデザインを学生時代に考える機会はほとんどありませんでした。その点では、現役学生の方が理解度は高いですよ。
佐藤裕)企業戦士として過ごしてきたバブル入社組の中には、未だに「個人のことを考えるキャリアデザインは、組織(会社)にとってマイナスになる」と勘違いしている人がいますからね。
田中)時代に合っていないですよね。そんな考えを持つ人が、人事の採用担当や組織の上層部にいる企業は、これからの時代に必要なキャリア形成にブレーキがかかるリスクが非常に高いと思った方がいいです。「会社を繁栄させるために個人のパフォーマンスを最大限発揮する」と捉えて、きちんと会社に貢献する仕組みになっているのが、本来のキャリアデザインの考え方です。
間違った「キャリアデザイン」が、自分自身を苦しめる。
佐藤裕)現在の「キャリアデザイン」をきちんと理解するために、山登りに例えると分かりやすいと思います。企業を山とするなら、これまでのように目の前にそびえる山の頂上だけを目指すのではなく、途中の景色を楽しむ人や、登り方のスキルを磨く人など、それぞれの目標や目的の設定があっていい。また、その目標や目的も、テクノロジーの進化やビジネス・雇用環境の変化、さらには個人の価値観の変化に合わせて、その都度変えていく。
田中)その考え方は、分かりやすいですね。私の考える「キャリアデザイン」も裕さんと同じで、ある種「ネオ・キャリアデザイン」と呼ぶべきものです。これまでのキャリアデザインをアップデートしたものになります。今の自分のスキルやパフォーマンスをA地点とした時に、そこからゴールへ向かい直線的にキャリアを積んでいく目標達成型とは違って、しなやかに道筋を作っていく螺旋型のようなイメージです。「キャリアデザイン= 自分探し(自己分析)」と勘違いする学生がいるけど、それがいちばん怖い!
佐藤裕)同感です。人はアップデートして当然なのに、自己分析によって「僕はこうなんだ!」と決めつけてしまっては、成長する機会を奪ってしまうことになりますからね。
田中)例えば10年前に決めたことを今も目標にしている人がどれだけいるか。1度決めた目標に囚われ過ぎると、途中で心が折れてしまったり、時代や社会の移り変わりに順応できない人が出てきてしまいます。間違った認識が、自分自身を苦しめることがあるのを覚えておいてほしいのです。
生き生きと働くために、今からできることがある
佐藤裕)これまでは、新卒で入社した会社でただなんとなく働いていても、そのまま定年を迎えられることが一般的でした。しかし、これからの働き方は自分で考えて、「キャリア」を形成していかなければなりません。主体性が無い人には、ある意味で、酷な時代です。自分のキャリアを自分で考えられるようになるためにも、学生には社会人になる準備として、もっと思考力を磨いてほしい。
田中)授業やゼミを通じて、私も同じことを感じています。昔からあることですが、今の若い世代の同調圧力は以前よりもさらに強くなっています。Instagramの「いいね」が少ないと、その投稿を消すこともあるとか。
佐藤裕)その自己承認欲求は異常ですね。
田中)まわりと違う価値観を避けて同調することで、結果として自分で考える主体性が減退している。これは、「キャリアデザイン」の観点からも、大きな障壁になるでしょう。
佐藤裕)主体性に加え、読解する能力が低下していると思うのですが、どのように感じますか?
田中)リテラシー(読解記述力)に関しても、非常に落ちていると思います。例えば、全国大学生活共同組合連合会が実施した学生調査では、1日の読書時間「0分」という学生が48% という驚愕の結果が出ています。あわせて、学習時間も年々、減少しています。リテラシーを高める機会が決定的に不足しているのです。一方で、YouTubeなどのネットコンテンツで奇抜な番組の視聴率が高い傾向にある。世の中全体がガヤみたいな感じ。社会で働くための基礎教養として、今まで知らなかった知識を得るために本を読んだり、古典を知ることはものすごく大事なことです。
佐藤裕)ネットで得る情報だけに頼るのは危険ですよね。ネットの情報は、過去の検索履歴などから興味関心を分析されて、情報がレコメンドされている。その結果、自分の興味のある情報にしか触れにくい状態になっていることに気づくべきですね。
田中)結局、美容のインスグラムばかり見ている人には、それに関連する次の情報が表示されやすくなっているから、興味を広げることを断絶してします。今の時代、意識的に知らない情報を得る機会を求めていかなくてはなりません。
佐藤裕)実際に、田中教授の授業では、情報をインプットすることをものすごくやっていますよね。読解力を得るために、田中教授のゼミで取り入れていることはありますか? それが学生たちのヒントになると思うのですが…。
田中)うちのゼミでは、毎週英文のレポートを渡して読ませるという課題を与えています。そうすると学生は、自分の関心のあるとこだけ読み込んできて発表するんですが、それではダメ。知識というのは自分の関心のある領域から遠いものほど、それまで知らなかった膨大な情報があるわけだから学びが大きい。はじめのうちは関心の無いことを学ぶのはストレスに感じるかもしれないけど、そのストレス=トレーニング負荷こそ、極めて人間らしい学びだと思え!と伝えています。
佐藤裕)その教えは「キャリア開発」にも応用できるものですね。
田中)そうやって多くの知識を得ると、自分の主観だけでなく、さまざまな視点から物事を捉える客観性が養われます。社会に出てからユーザーに自分が作ったものを売る際、それが売れなかった場合に相手の立場に立って考えてソリューションを導き出す。これは、どの分野のビジネスにおいても必要な能力です。就活を控えた学生や転職を考える人が、キャリアデザインをする上でも活かせるはずです。
佐藤裕)「キャリアデザイン」とは、未来を想像して、到達したい未来に行きつくための道筋を描くことだから情報を持ってないと、できないことですもんね。そうでないと間違った「キャリアデザイン」をしてしまう。きっと、企業を知る上でIR資料が最も有益な情報であることも学生は知らないでしょうね。本当に無知ほど、怖いことはない。
就活生は、企業説明会を斜めから読み解く能力を身に付けろ
田中)私のゼミでは「IR資料は絶対読め!」って言ってるんですよ。いわゆる株主への説明資料だから現在の経営状況や会社の長期戦略といった基礎情報が詰まっている。上場企業は、それをweb公開しているから、こんなに有益な情報はありませんよ。
佐藤裕)きっと企業説明会よりも有益だと思う。学生にウソをついているとまでは言わないけど、結局、採用担当者が会社説明会で話すことって、その会社が学生に伝えたいことで構成されているから。その点、IR資料は客観的な事実ですもんね。
田中)はじめは、なんか右肩上がりでグラフが推移しているな程度の読解力でも、繰り返し続ければ、徐々に読めるようになっていく。だから学生には、IR資料のURLをLINEで友達に拡散しろって言っています。IR資料をまとめた日記を学生生活の4年間毎日続けたら1400社以上です!これだけで、きっと就職活動で大きくリードできる。きっと圧勝しますよ。
変わらなきゃいけないのは学生だけじゃない!「壁なき産学連携」が急務
佐藤裕)結局、学生たちは未開発なだけなんですよね。「キャリアデザイン」の分野を仕事として扱う我々は、そんな現状に危機感を抱いていますが、社会はまだまだ呑気ですよね。
田中)大学側も次世代育成というビジョンを明確に打ち出すべきなのです。企業と連携して、次世代を育てて行くのです。
佐藤裕:時代の移り変わりの中で、学生だけではなく、企業、国、大学の三位一体となった取り組みを、いよいよ急いで行わなければいけないタイミングですね。
田中)私も、同じ危機感があります。ゼミ生にはインターンへの参加を積極的に促していて、社会で働くための基礎教養と実践的なビジネスを学ばせています。すると、入学当初は「先生になりたい」という学生が、企業でのキャリア体験を通じて、3年生には広告代理店にいきますと変化する。きっと、身近で見てきた輝く大人に憧れるんですよね。この「変身=トランスフォーム」を促進させる実践的な学びこそが大学の価値なのです。
佐藤裕)実践的な経験を多く積むと、新たに憧れるものが出てくることもあるし、もともとの憧れが強まることもあるということですね。
田中)従来型の就職活動は、企業・就活生の双方にメリットが少ない、非効率な選別だと早く気づくべきなのです。アスリートが自身のパフォーマンスよりも高い水準の環境で練習を行い、徐々に実践にフィットさせていくように、学生が実践形式で、社会で揉まれる環境を整備すべき。
佐藤裕)アメリカや、成長著しい中国では、ビジネスの実践経験を持たないまま社会に出るなんて、考えられないことですからね。どれだけ、日本が出遅れているか…。
田中)インターンを通じて優秀な学生を採用するシステムを日本でも積極的に推進できるように、学校教育とビジネス界が断絶された現状を変えなくてはいけない。古き悪しき体質から脱却し、時代にあったシステムを構築するために、もっと多くの民間経験者を講師や教授、キャリアセンターのスタッフとして採用し、「壁なき産学連携」に取り組んでいかなければならないと感じています。
佐藤裕)「ネオ・キャリアデザイン」に本気で取り組むには、そういった構造改革が急務ですね。
今、学生がまずやるべきこと
就活=「キャリアデザイン」になりがちですが、シンプルにキャリアをデザインするための情報を持ち合わせていないという気付きに向き合うことが重要になります。
これから20年の日本のビジネス環境の成長予測が出来なければどんな企業からスタートすべきか?新卒からどんなスキルを身に付けるべきなのか?はイメージ出来ないはずです。
目先の企業を選択する「就社活動」ではなく、変化する世の中でも自分らしくHappyにはたらく、人生を豊かにデザインするために必要な環境、スキルという視点で活動する「就職活動」にシフトすることがカギです。
自己分析も過去の自分の性格や行動原理、思考を整理して仕事を探す=間違ったキャリアデザインを描くので入社3年もすれば新しい価値観を持った自分とコンフリクトを起こして違和感を感じて早期退職をするのは明確ですから、未来の情報を沢山持つことで今、何をすべきか?を明確にしていくことが「ネオ・キャリアデザイン」のベースになるということ。
新型コロナウイルスの影響で就活状況は最悪です。
すでに内定取り消し、入社延期や採用枠縮小が実際に起きている状況だからこそ、冷静に「就社」から「就職」に意識を切り替えて情報の整理をすることをお勧めしたい。いよいよ「古い就活」から「新しい就活」へシフトするタイミングが来たのです。
はたらくを楽しもう。
田中 研之輔
法政大学キャリアデザイン学部教授
キャリア論 一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。博士(社会学)。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトを数多く手がける。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修』、『先生は教えてくれない就活のトリセツ』、『覚醒せよ、わが身体。』、『丼家の経営』等。企業の取締役、社外顧問を17社歴任。(連載/特集)日経ビジネス・日経STYLE U22・日経doors・日本の人事部・プレジデントオンライン・NewsPicks 他多数。新刊『プロティアン:70歳まで第一線働き続ける最強のキャリア資本術』、最新刊『ビジトレ:今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』
佐藤裕
はたらクリエイティブディレクター
若者の“はたらく”に対するワクワクや期待を創造する活動を行う。これまで15万人以上の学生と接点を持ち、年間200本の講演・講義を実施。現在活動はアジア各国での外国人学生の日本就職支援にまで広がり、文部科学省の留学支援プログラム「CAMPUS Asia Program」の外部評価委員に選出され、グローバルでも多くの活動を行っている。2019年2月にはハーバード大学の特別講師を務めた経験を持つ。また、パーソルホールディングス株式会社ではグループ新卒採用統括責任者、パーソルキャリア株式会社 エバンジェリスト、株式会社ベネッセi-キャリア特任研究員、株式会社パーソル総合研究所客員研究員、関西学院大学フェロー、デジタルハリウッド大学の非常勤講としての肩書きも持つ。新刊『新しい就活』