「葬儀でタイツはNG」「アイラインは目尻だけ細く引く」の謎マナー。本当に失礼なのか。
冠婚葬祭は非日常の出来事であるため、日常とは異なる装いやふるまいをする必要がある。特に葬儀の作法やマナーについては、「失礼があってはいけない」と配慮し、事前に調べる人も多いのではないだろうか。今はネットで検索すればマナーについては簡単に知ることができる時代になったが、中には根拠のないおかしなマナーも生み出されている。
「葬儀はストッキング着用。タイツはダメ」のヘンテコマナーに炎上
少し前のことになるが、「葬儀ではく女性のストッキングは透け感のある30デニール以下でなければいけない」というツイートが話題になった。寒い場合は肌色ストッキングと重ねばきすれば良いという。
デニールとはタイツやストッキングなどのレッグウェアに使用される糸の太さ(重さ)の単位のことで、糸が太くなると生地が厚くなり、数字が大きくなっていく。当然、数字が大きくなると防寒性が高くなる。日常でも、冬場は50デニール以上、中には100デニール以上しかはかないという人もいるのではないだろうか。
私が初めて葬儀の現場に足を踏み入れたのは真冬の自宅葬だった。かれこれ25年ほど前になるが、寒風の中、テントの中で記帳する参列者の手が震えていたのを覚えている。
以来、数々の葬儀の現場を目にしているが、真冬は30デニール以下と思われる素材のストッキングを着用している人を見かけることはほとんどない。参列者の多くは高齢者ということもあるが、若い方でも、透け感のある黒ストッキングの着用率はさほど高くないように思う。近年は葬儀会館で行われる葬儀が増えたとはいえ、しっかり防寒していくことにこしたことはない。
また、最近のタイツ(厚手ストッキング)は、昔と違い質感にやぼったさがない。カジュアル感がダメという人は、いつの時代のタイツを言っているのだろうか。
長い髪は耳より低い位置でひとつに結ぶ!?
女性の身だしなみについては、マナークリエーターがあれこれトンデモマナーを作り上げていく傾向にあるように思う。
まず髪型だが、基本的に不潔な印象を与えるボサボサ頭、パーティーに参加するかのような華美なヘアスタイルでなければ失礼にあたらない。手入れがされていて、弔意を示すことができる髪型なら、結ぶとか結ばないとか、そこはあまり問題ではないように思う。
しかし、大抵のマナーサイトには「長い場合はひとつにまとめること」とある。さらに「耳より下の位置で結ぶこと」とご丁寧に位置まで指定。耳より高い位置で結ぶと、華やかな印象になってしまうのでダメというのが理由だそうだが、耳より上だろうが下だろうが、後れ毛がなくまとまっているなら、少なくとも周囲に不快な印象を与えることはない。
またミディアムヘアであっても、「お辞儀をした時に、顔にかからないようにピンで留めるかハーフアップにすること」と細かく指示するマナーサイトもある。こうなるとヘアスタイルだけでも合格圏内に入るためのハードルが一気に上がってしまう。
最近の葬儀系マナーサイトでは、カラーリングも要注意と書いてある。暗めの茶系であれば問題ないが、明るい色でカラーリングしている場合は、染め直すかカラースプレー等で一時的にダークカラーに戻した方が良いと書いてある。誰が最初に言い出したのもわからないヘンテコマナーのひとつで、正解不正解を論じるまでもないと思うが、少なくとも現場では、髪の毛の色で「失礼だ!」と怒る人はいない。
ファンデーションはツヤ感の出るリキッドはNG!?
「葬儀 化粧」「お葬式 化粧」というキーワードで検索すると、お葬式にふさわしい化粧法が多く紹介されている。その中身はほとんど同じで、以下に紹介するような首をかしげたくなるマナーも多い。
おそらく外注のウェブライターが様々な媒体を参考にリライトしているのだろう。
これらが正しいマナーだとするなら、私はマナー警察から取り締まりを受けること間違いなしである。
葬儀は弔意を表す場であり自分をアピールすることが目的ではないから、最低限周囲に配慮したふるまいを心掛けることは重要である。女性のメイクなら、華やかにならないよう色味をおさえ、パールを控えめにする等を心掛けることだけで充分ではないだろうか。
お葬式のパンプスは本革製ではなく布製!?
本革製は殺生を連想させるから使用してはいけない、という慣習はたしかに存在する。しかしそれは爬虫類系、スエード、アニマル革のバッグや小物、毛皮のコートなど、外観上明らかなものは避けたほうが良いということで、本革バッグや本革の靴がすべてダメだというわけではない。
「女性のパンプスは布製が良い」というのは、何年も前から言われていることであるが、バッグこそ布製はあっても、布製のパンプスを目にする機会はほとんどない。
エナメル調など光沢素材を避け、飾りがないものであれば良いのではないだろうか。
ヒールの高さまでをあれこれ指定していることもあるが、サンダルやつま先が空いたオープントゥー、ヒールが高すぎるなどを除けば、歩きやすいパンプスであればOKだろう。見た目がどうこうよりも、歩くときにコツコツ響く音のほうが現場では気になるものだ。
男性の紐靴は避けるべし!?
男性の革靴で紐靴はNGと書いてあるマナーサイトを見たときには、よくこじつけたものだと逆に関心してしまった。理由は靴紐の結び目はほどくことを前提とした蝶結びになるので「繰り返し」を意味するから縁起でもないのだという。しかし一般にフォーマルシューズといえば、紐付きのレースアップシューズである。最もフォーマル度が高いとされるタイプは、内羽根式でつま先に横一文字の切り替えが入っているストレートチップ。外羽根式や、切り替えのないプレーントゥーも、フォーマル度は下がるが一般に格式の高い靴として着用される。
もちろんローファーやモンクストラップシューズがダメというわけではない。しかし社葬や団体葬で、喪主や葬儀委員長がモーニングコートを着用したとき、足元だけ服装に合わないローファーでカジュアル仕様だとしたらどうだろう。全体のバランスを考えてても、格上の靴の着用が自然な着こなしなのでないか。
葬儀は死者を送る儀礼であるから、故人の尊厳を第一に考えることは言うまでもない。弔意の気持ちをどのように伝えるか、本来の意味や自分の置かれている立場などを考え、その場の状況に応じたふるまいや装いを考えて行動することが、マナーの基本ではないだろうか。