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【選択的夫婦別姓制度】姓を継承していくためには通称使用では限界。子どもに姓を継承できる法律が欲しい。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

これまで夫婦別姓の議論には賛否両論さまざまな意見が出てきています。旧姓を通称使用できれば夫婦別姓制度は必要ないのでは、という意見もあります。今回は鈴木さん(仮名)の実体験を通して、選択的夫婦別姓制度の必要性について考えていきます。

鈴木さんは40代の女性です。三姉妹の次女として生まれた鈴木さんは小さい頃から父親っ子で、大変可愛がられて育ちました。しかし、父親は晩酌の時によく「一人ぐらい男の子が生まれてくれたらよかったのになぁ」と言っていたそうです。「父は何気なく言っていたつもりかもしれませんが、私の心にはしっかりと残っていました。」と鈴木さん。

「父は、よく自分の故郷の話もしてくれました。そして私達三姉妹を自分の故郷にも連れて行ってくれました。そこには父の先祖の墓があり、その近くにある本家は家名を守り、墓を守ってくれていました。しかし実は本家は家名を継続していたけれど、子らが病気で亡くなるなどで養子を迎えたため血縁による継続は途絶えており、血縁のつながりは分家である父や私たち姉妹しかいないのだ、ということも父は教えてくれました。血のつながりがあって家名を継続しているのは私たちしかいない・・・。私はそのことを誇りに思うようになり私たち姉妹のうち誰かが継いでいくのだと、何となく考えるようになりました。」

しかし、鈴木さんの父親は意外にも、それほどこだわっていない様子でした。「娘しか生まれなかった時点で、あきらめた」と話し、自分たちの好きなようにしたらいい、と鈴木さんたちに言ってくれていました。そんな時、姉が長男一人っ子と結婚しました。鈴木さんは「次は私」と漠然と考えるようになり、「私は養子にきてくれる男性としか結婚できないかもしれない」と思っていました。当時の鈴木さんには家名を残すには男性に養子に来てもらうしかない、という知識しかありませんでした。

その後、大学生になって初めて「選択的夫婦別姓」について議論がされているということを知りました。その頃から自分が結婚するには、夫婦の姓は「同姓か別姓か」選択できるようになっているだろう、と思うようになりました。しかし、実際には、そこから何年経っても、選択的夫婦別姓が実現されることはありませんでした。

いよいよ結婚したいと考える相手ができたとき、相手は長男で他に男兄弟のいない人でした。家名を継ぎたいということ、仕事上やアイデンティティの問題で姓を変えたくないと話をしたところ幸いにも相手は理解を示してくれました。しかし、彼の方も姓を変えることは困難です。法的には夫婦別姓での結婚は無理なので、仕方なく鈴木さんたちは事実婚を考えましたが親たちは大反対しました。婚姻届を何度も破きましたが、結局は婚姻届を出して鈴木さんが旧姓を通称として使用することになりました。

結婚で改姓した女性(男性)の旧姓使用は徐々にですが環境が整いつつあります。実際、鈴木さんも旧姓で仕事を続けています。しかし、旧姓(鈴木)を子どもに継承するためにはどうしたらいいのでしょうか?

やがて子どもが生まれた鈴木さん夫婦は、仕方なく子どもの一人に鈴木さんの旧姓(鈴木)を通称で名乗らせています。しかし、姓を継承していく場合、通称使用では限界があります。一日も早く、子どもに姓を継承できるような法律を整えてもらいたいと鈴木さんは望んでいます。このような場合に選択的夫婦別姓制度があれば、ひとつの解決策になるのではないでしょうか。

選択的夫婦別姓の議論がなかなか進まない理由の一つに、姓が違うと家族がバラバラになるという意見があります。これについて鈴木さんは「私の子どもたちは、きょうだいで姓が違いますが、とても仲良くやっていますし、私と姓が違う子も同じ子もみんな私のことを慕ってくれています。姓が違うと家族がバラバラになるというのは、私たち家族には当てはまらないと思います。」と話してくれました。

鈴木さんのように姓が違っても仲良くやっている家族もあれば、同じ姓でも離婚してしまうほど関係が壊れている家族もあります。家族の絆は、同姓か別姓かで決められるほど単純なものではありません。

「実家の名前を継承したい姉妹の会」(略称:姉妹の会)では、鈴木さんのように実家の名前を継承したいと願う女性たちの声を国会議員に届ける活動をしていて、ウェブサイトでは当事者の方々の声を集めています。

この会は「姉妹の会」という名称ですが一人娘さんや、男性(女の子しかいない家の父親、一人娘さんとお付き合いをしている男性など)の声も集めています。

姉妹の会のサイトに寄せられた当事者の声を読むと、夫婦別姓制度の導入を望んでいる方たちがたくさんいらっしゃいます。そろそろ夫婦別姓制度の実現に向けて進み出しても良いのではないでしょうか。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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