アリババの根幹を揺るがすかもしれない特許について
「中国のEC最大手”アリババ”創業者”ジャック・マー”が沈黙を破った背景に”巨額特許訴訟”」という記事(デイリー新潮)を読みました。
昨年4月に、東京港区にある特許管理会社BWBがアリババとそのグループ会社を相手に東京地裁で特許権侵害訴訟を起こしたとのことです。新潮によれば、この訴訟が事業者としてのアリババの根幹を揺るがす可能性もあるとのことです。
特許情報をサーチするまでもなく、BWB社のウェブサイトに特許番号が載っていました。特許6047679号です。登録日は2016年11月25日、発明の名称は「商取引システム、管理サーバおよびプログラム」、出願日は2016年5月13日です。同等特許は米国、韓国、ロシア、台湾、インドネシア、シンガポール、ブラジルで権利化済みであり、中国、インド、ベトナム、タイ、カナダ、香港で審査中とのことです。
出願人は株式会社ACDという会社であり、2021年にBWB社に特許権が移転されています。ACD社はANAホールディングス傘下で中国関連の事業を行なっている普通の会社です。この特許はACD社のEKKYO.NETというシステムのベースのようです。ACD社とBWB社の関係は不明です。
デイリー新潮の有料部分に訴訟関連の情報が載っているそうですが、ここではその情報は引用せず、公開情報のみに基づいてこの特許が技術的にどういうものなのかを見ていくことにしましょう。
本特許発明は、経済圏をまたいだ物流における通関処理を円滑化することを目的とした発明です。いわゆる、ビジネス方法特許の一種です。特許公報から引用したタイトル画像の図を見るとわかりやすいでしょう。500が(商品を購入する)ユーザーの端末、200がECサイトのサーバー、300が管理サーバー(特許対象のアプリケーションが稼働するサーバー)、400が通関認証サーバー(税関のサーバー)です。
特許発明のポイントは、ユーザーが商品購入を行なってから通関手続を行なうのではなく、事前に通関処理を行なっておいてからECサイトに商品を(関税等の通関情報と併せて)掲載することで、海外からの注文時の納期を迅速化すると共に顧客に安心感を与えられるというものです。税関が事前通関を行なう制度がある前提であれば、こういうシステム設計になるのは必然的な気もしますが、審査段階ではうまく限定を行なうことで、新規性・進歩性の問題をクリアーしています(ここの詳細は別記事で書くかもしれません)。
特許情報プラットフォームで公開されている情報から見ると、この特許には無効審判が請求されており、訂正審判も2回行なわれています。裁判の中で新規性・進歩性を欠くとの主張がアリババ側により行なわれ、それに対してBWB側が権利範囲の限定により対応するという典型的な特許権侵害訴訟の構図になっていることがわかります。原告・被告のどちらかが圧倒的有利ということはなく、拮抗状態にあることが推測されます。もし、裁判資料を閲覧できればこの点も別記事で書こうかと思います。