トランプ・ラリーからトランプ・リスクへ
25日にダウ平均は壁となっていた2万ドルをついに突破し、過去最高値を更新した。この日の米10年債利回り(長期金利)も2.5%台に上昇した。トランプ・ラリー復活のように見えたものの、外為市場でドルは主要通貨に対して下落していた。トランプ大統領は保護主義的な政策を次々と実行に移しているが、それに対する反応が外為市場と他の市場で微妙に異なりつつあった。
30日の米国市場では外為市場ではドルが売られ、米国株式市場も下落した。これはトランプ米大統領が27日にテロ懸念国7か国からの入国を制限する大統領制に署名し、これを受けて米国内外から批判の声が強まり、保護主義への懸念も強まったことによる。
トランプ大統領は30日各省庁が新たな規制を導入する場合、少なくとも既存の2つの規制を撤廃するよう求める大統領令に署名した。これによって今ある規制の75%の撤廃を目指す方針とされる。一見、規制緩和が進み株式市場にはプラス要因となりそうながらも、数を求めるだけで内容がまったく伴っていない。
またトランプ大統領は、スティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問を、国家安全保障会議(NSC)のメンバーに加えた。バノン氏は過去にゴールドマン・サックスに勤務、保守派ニュースサイトを立ち上げた経歴を持つ。同サイトをめぐってはバノン氏が先陣を切って「白人至上主義」、「反ユダヤ主義」、「緩い新ナチズム主義的なグループ」へと導いたといった批判が挙がっていた(ロイター)。
トランプ大統領の誕生のタイミングとしては、雇用を中心とした底堅い米国経済、原油価格の堅調さもあって、物価はしっかり。FRBが物価目標としているコアPCEデフレーターは、前年同月比1.7%の上昇となっていた。トランプ氏の減税等の経済政策への期待感もあり、ダウ平均は2万ドルの大台を一時突破した。しかし、さすがにここにきてトランプ氏の政策に対して市場も懸念せざるをえない状況となりつつある。
今回の入国制限を巡っては野党の米民主党だけでなく、与党の米共和党からも批判的な意見が出ていた。グーグルやフェイスブックのほか、マイクロソフトやスターバックス、さらにはトランプ政権にも出身者が多いゴールドマン・サックスですらも排外的な政策を支持しないとの見解を示すなど、民間企業の間からも批判の声が上がってきている。
漠然とした期待感も背景となっていたトランプラリーと呼ばれた相場が、今度はトランプ政権の政策への懸念を強め、トランプリスクとして意識しはじめている。
トランプ大統領は30日、入国禁止措置拘束された人は入国者のごく一部にすぎないとツイッターに投稿し、「空港で起きた大きな問題は、航空会社のコンピューター障害と、抗議する人たちのせいだ」などと主張した(NHK)。
いまのところこのような批判的な意見にはまったく耳を貸そうとしない。この頑なな態度もさらにリスク要因ともなりうる。入国制限などを巡っての景気への影響そのものよりも、トランプ大統領そのものへのリスクが今後強く意識される可能性があり、相場の流れに変化が生じてくる可能性もありうるか。
そして31日にトランプ大統領はホワイトハウスでの製薬会社幹部との会合で、中国や日本が市場で何年も通貨安誘導を繰り広げ米国は、ばかをみていると発言した。資金供給と通貨安誘導で有利な立場にあるとも主張し、日銀の量的緩和政策などを念頭に置いて批判した可能性が出てきた。2月10日の日米首脳会談を前にして、批判の矛先を日本にも向け始めた格好となり、トランプリスクは東京市場でもより強く意志されつつある。