沢尻エリカ氏の自首は成立するか 尿の本鑑定「シロ」だったMDMA事件の焦点は
合成麻薬MDMAの所持容疑で逮捕された女優の沢尻エリカ氏。警察が尿の本鑑定を行ったところ、逮捕時の簡易鑑定と同じく「陰性」だったという。今後の展開は――。
使用罪による立件は?
まず、尿の本鑑定が陰性だったということは、今後、MDMAなどの規制薬物の使用罪で立件・再逮捕される展開はなくなったということを意味する。体格や使用量などによって個人差はあるものの、MDMAやコカイン、ヘロインの尿中残存期間は3~4日なので、例えば本人が1週間前に使用したといった供述をしていても、尿の本鑑定で陰性になるという事態はある。
毛髪には90日程度は残るので、念のため毛髪鑑定も行うかもしれないが、これで陽性だというだけでは、使用罪で立件するのは困難だ。尿鑑定以上に振り幅が大きく、最終使用の時期を客観的に特定しにくいからだ。常習性を裏付けることができる程度だ。
自白以外にその内容を補強する証拠が必要だというのが刑事裁判の基本的なルールなので、どれだけ本人が長期間にわたって常習的に使用していたと供述しても、尿鑑定のように最終使用を裏付ける客観的な証拠がなければ、使用罪では立件できないということになる。
ほかの薬物は?
報道によると、本人は警察による取調べで次のように供述しているという。
・10年以上前から、大麻やMDMA、LSD、コカインを使用していた。
・日常的にブラジャーの中に規制薬物を隠し持っていた。
・毎日ではないが、毎週のペースで使用しており、その時の気分で、手もとにある規制薬物を使用していた。
・これまで有名人が薬物事件で逮捕されるたびに私も危ないんじゃないかと注意していたが、私のところには警察は来ないだろうと思っていた。
・今回のMDMAは、逮捕前に訪れていた東京渋谷のクラブではなく、数週間前に別のクラブのイベント会場で、偶然に男性からプレゼントされたものである。
これらの供述が事実であれば、長年にわたってさまざまな規制薬物を使い分けてきた「ベテラン」だと分かる。
それでも、結局のところ警察による捜索では所持罪で逮捕したMDMAしか発見・押収されていない。したがって、どれだけ自白があっても、これ以外の薬物の所持罪などで立件されることはない。
MDMAの譲受罪は?
では、そのMDMAに注目し、入手先に対する突き上げ捜査を行うことで、その人物からMDMAを譲り受けたという事実で立件・再逮捕されるということはないだろうか。
MDMAは所持や使用だけでなく、譲り渡しや譲り受けも規制されている。営利目的がなければ、法定刑は7年以下の懲役だ。
しかし、これはあくまで入手先に関する本人の話が本当のことで、しかも譲り渡した人物がどこの誰か特定できることが大前提だ。入手先に迷惑をかけたくないからと虚実を織り交ぜて供述していれば、特定など困難だ。
入手先が特定できても、譲り渡したとされる人物にその事実を否認されたらそれまでだ。特にさまざまなルートからあらゆる規制薬物を入手していたということになると、たとえ本人が真実を語っていたとしても、本当にその話に乗っかっていいのかという疑念が残る。捜査当局では「ヤク中の話は信用するな」とまで言われているほどだ。
その意味で、譲受罪で立件・再逮捕されるといった展開も考えにくい。
所持罪は「自首」に当たる?
そこで今後の焦点は、もっぱら所持罪の捜査や刑事処分ということになる。所持の事実は客観的に明らかであるうえ、本人も自分のものであると認めているという。ただ、気になる点もある。
すなわち、当初、警察はMDMAとは別の規制薬物に関する情報を得たうえで、1ヶ月間にわたって内偵捜査を進めていた。過去に大麻疑惑が報じられていたので、おそらく今回も大麻か、さらに深みにハマった覚せい剤ではなかったかと思われる。
警察は、本人が逮捕前日に訪れた東京渋谷のクラブでこれらを入手、使用したと睨み、今回のXデーに至った。しかし、本人の所持品検査では狙いをつけていた規制薬物は見つからなかった。
その後、東京・目黒区の自宅を捜索したが、それでも狙いの規制薬物は発見されなかった。いわゆる「空振り」だ。そうしたところ、本人が自ら棚の上にあったアクセサリーケースの中敷きの下にMDMAを隠していると述べ、袋に入った粉末入りのカプセル2錠を取り出したという。
警察の狙いとは違ったが、うち1錠を鑑定した結果、中には約0.09グラムの粉末が入っており、MDMAを含んでいることが分かった。そこで、本人をMDMAの所持容疑で緊急逮捕したというわけだ。
規制薬物はその種類ごとに規制する法令や規制内容、刑罰の軽重などが異なる。そうすると、MDMAの所持罪に関しては「自首」が成立するとも考えられ、刑を減軽することが可能となる。
この点は、警察がMDMAの所持について事前にどこまで把握できていたかが重要だ。自宅を捜索するための令状をどのような容疑や証拠に基づいて得ていたのかがポイントとなる。刑法が自首について「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と規定しているからだ。
例えば、警察の狙いが大麻でMDMAは予想外だったのであれば、本人がその所持を自己申告しなければ、警察には発覚していなかったかもしれない。この点は、間違いなく弁護人も主張するはずだ。
所持罪の捜査や起訴は?
また、所持量がわずかであるのも気になる点だ。カプセル2錠のうち1錠分だけで緊急逮捕されているということは、逮捕前の簡易鑑定では残りの1錠は陰性か鑑定不能だったということだ。現在は本鑑定の結果待ちというところだろう。
ただ、覚せい剤に関する事案だが、簡易鑑定で陽性、本鑑定で陰性という逆の例もあり、簡易鑑定よりも本鑑定のほうが正確であるのは確かだ。尿鑑定と同じく陰性で終わるかもしれないが、たとえ陽性でもカプセル2錠分しか所持していなかったことに変わりはない。
俗に「エクスタシー」などと呼ばれているMDMAだが、本来は白色粉末であるものの、通常は「混ぜもの」がなされたうえで赤や黄、青など色付きの錠剤として密売されている。
カプセル入りということは、純粋なMDMAだったか、あるいは形状から一見してMDMAだと疑われる錠剤をすり潰し、カプセルに入れて通常の薬のように見せかけて流通されていたかだ。それでも、長年にわたって常習的に使用してきたというわりには所持量が極めて少ないのも事実だ。
となると、まずは10日間の勾留期限が来る11月26日が一つのヤマとなる。
検察は規制薬物の使用歴や過去の使用状況、常習性、入手に至った経緯や状況などに関して捜査を尽くす必要があるとして、さらに10日間の勾留延長を求めることだろう。常習者であるにもかかわらず所持量が少ないということは、いつでも好きなタイミングで使いたい分量の規制薬物を入手できるルートがあったと見られるからだ。
果たして裁判官がこの延長請求を認めるのか、特に使用罪など余罪の立件が見込めない単純な所持罪の事案に対し、丸々10日間の延長を認めるのか。この点は、これからの弁護活動にも大きく左右されることだろう。
また、勾留延長の有無とは別に、所持罪で起訴されるか否かも注目だ。MDMAの所持は覚せい剤よりも一段ほど罪が軽い。所持量が少なく、初犯であり、自首も考えられる事案だ。「何のための所持か」という疑問に客観的な観点から明確な答えを示してくれる尿鑑定の結果もシロだった。
ただ、それでも使用可能な分量や形状のMDMAを所持していたことは確かだ。MDMAは視覚、聴覚を変化させ、多幸感を覚えるが、強い精神的依存性を持ち、不安不眠などに悩まされる規制薬物だ。注射器やパイプなどを使う覚せい剤と異なり、基本的に服用して使用するものだから痕跡が残りにくい。覚せい剤に比べてハードルが低く、「ゲートウェイドラッグ」として若者にも蔓延しているゆえんだ。
規制薬物に対する常習性や依存性、親和性が高く、社会的に注目を集めている事案であることからしても、検察が起訴猶予という選択をすることは考えにくい。「一罰百戒」の観点から、起訴して公開の法廷で裁判を受けてもらうという展開に至るのではないか。(了)