Yahoo!ニュース

マイクロソフトの「廉価版」新型ゲーム機 低価格でPS5の“刺客”になれるか

河村鳴紘サブカル専門ライター
新型ゲーム機Xbox SX(左)と廉価版のXbox SS=MS提供

 マイクロソフト(MS)は、新型ゲーム機「Xbox Series X(Xbox SX)」(499ドル、4万9980円)の廉価版「Xbox Series S(Xbox SS)」(299ドル、3万2980円)を11月10日に発売すると発表しました。新たな試みとなる後者は、価格を武器に、ソニーの新型ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」の“刺客”になるでしょうか。

◇低価格を強みに

 MSは、自社のゲーム機「Xbox」シリーズで、ソニーの「プレイステーション」シリーズと2001年以降、競争を繰り広げています。現行機の争いでは、PS4が1億1000万台を突破したのに対し、Xbox Oneは5000万台に届いてないとされています。MSは、現在、Xbox Oneの出荷数を発表していませんが、相当の差をつけられ「比較されたくない」と告白したようなものです。

 Xbox Oneの敗因ですが、その理由の一つに、PS4より100ドル高かった価格があります。だからビジネスの視点では、Xbox SXが価格の対策をしてくるとは予想できたわけですが、いきなり200ドル安い廉価版を出すという、思い切った手を出すあたり、ゲームビジネスへの意気込みを感じます。そしてXbox SSがPS5に対する、価格での“刺客”であることは明白です。

 Xbox SSですが、まとめると「次世代のゲーム体験を、コンパクトなサイズ(Xboxシリーズで最小)、求めやすい価格で買える」……という触れ込みです。PS5の価格が発表されてないので判断は尚早とはいえ、任天堂のゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」(299.99ドル)より安い価格は、確かに「売り」にはなります。

◇中途半端な商品になる可能性も

 ポイントは、Xbox SSが、Xbox SXより性能面で劣るのは仕方ないにしても、ライトユーザーに気にならない程度なのか、どこまで遜色(そんしょく)なく遊べるかです。新型ゲーム機の売りの一つはグラフィックですが、ゲーム業界の関係者やコアユーザーが見て区別がついても、ライトユーザーが区別がつかないほどの高品質なレベルであれば、売れる可能性はあるでしょう。それだけ低い価格はアドバンテージがあります。

 いずれにしても、Xbox SSのコストパフォーマンスの評価は、実際にゲーム機を触って初めて分かることです。11月10日になれば、両機を体験した上で比較する記事が出て、購入者の感想がネットにはあふれるでしょう。そこでXbox SSに厳しい評価が下れば、「中途半端な商品」として忘れ去られることになるでしょう。

 ですがMSとしては、Xbox SSには過度の期待はせず、価格を重視した商品を出して、消費者の選択肢を増やすなど、打てる手は打っておく……という感じではないでしょうか。なぜならMSが売りたい本命は高性能・高単価のXbox SXです。

◇自社製品の脅威になる?

 ですが、おかしなこともあります。Xbox SSが、低価格とは思えないほどコストパフォーマンスに優れ、ライバルであるPS5を脅かすほど売れたとして、それはXbox SXの脅威になることを意味します。商品の生産のバランスは、売れる方にシフトチェンジすればいいわけです。しかし、MSはこれまでゲームの高性能化に力を入れてきた“哲学”があり、廉価版のヒットは、戦略の修正を迫られるわけです。

 任天堂もソニーも、ゲーム機の量産効果、不要な機能の削除による価格値下げはしてきたことですし、それは戦略的に理解できます。しかし今回のMSのように、最初からゲーム機自体のスペックを落とす廉価版を並べて出すというのは、メインの商品(Xbox SX)を否定するような矛盾を感じるのは確かです。後々、斬新な戦略として受け止められるのか、そうでないのか。いずれにしても大胆な挑戦であるのは間違いないし、「なりふり構わず」というMSの本気と捉えることもできます。

 ちなみにMSの2020年6月期の通期決算は、クラウド事業の好調もあり、売上高が約15兆円、純利益は4.7兆円です。ソニーの2020年3月期の通期決算の売上高は約8兆円です。MSがソニーと正面から戦える数少ない企業なのですね。

 ともあれ、熱心なゲームファンで、新商品を先に買う「アーリーアダプター」は、高くとも高性能のXbox SXを買い求めるでしょう。そんな中でXbox SSが、どのような売れ方をするかです。ライバルのソニーが慌てるぐらいの“刺客”になれば、無料ゲームでにぎわうスマートフォンに押されっぱなしの家庭用ゲーム機が、活気づきそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事