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最後まで「冤罪」を主張したリアルナンパアカデミー塾長と「性的同意」

小川たまかライター
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 明日3月12日、3件の準強制性交等罪で逮捕されたナンパ塾「リアルナンパアカデミー(通称RNA)」の「塾長」である、渡部直樹こと渡部泰介に判決が言い渡される。

 検察側は懲役14年と、パソコンやハードディスクの没収を求めている。被告人側は無罪を主張しているが、共犯者らに実刑判決が下っていることなどから、厳しい判決が出ると予想される。

 判決を前に、ここ数年聞くことが増えた「性的同意」という言葉とともに、事件を振り返ってみたい。

「冤罪を防ぐ」目的だった?動画撮影

 この事件では、犯行の様子がICレコーダーやスマートフォンで撮影された動画・画像に残されていた。はじめに逮捕されたRNAメンバー(塾生)たちのスマートフォンに残された動画から、芋づる式に余罪が掘り起こされることになった。

 路上やクラブで女性をナンパし、罰ゲームで飲酒させ、泥酔した女性と性交に及ぶのが彼らのやり方だった。

 なぜ犯行の様子が撮影されていたのか。それは塾生たちの間で、映像や画像が戦果のように共有されていたからだ。彼らは状況を逐一LINEで共有し、「即(ナンパした女性とその日のうちに性交すること)」の回数を競い合っていた。

 さらにもうひとつ、RNA内では「冤罪を防ぐ」目的で記録を残すことが奨励されていた。

 録音や映像に残されていたのは、性行為の場面だけではない。女性たちとゲームしたり酒を飲んだりする様子も記録されていた。女性たちがその場を楽しんでいた、ことを記録する目的だ。

 しかし共犯者らの裁判において、これらの動画は役に立たなかった。性行為を行なっている際の動画は、むしろ準強制性交等罪の構成要件である「抗拒不能(抵抗できない状態のこと/この事件の場合は泥酔状態)」を証明する物証となったのだ。

「肝心な場面の記録がないのは不自然」

 「和姦の証拠になると思っていた動画がその逆になったのだから、考えが浅いとしか言いようがない」とは、事件関係者の言葉だ。

 同意がある性交ならば、彼らは同意を取った場面こそ撮影すれば良かった。けれど、そのような記録が証拠として法廷に出ることはなかった。

 検察側は下記のように指摘している。

「仮に口頭での同意がなされていたのであれば、その場面さえ記録に残せばその後の性行為の場面などは不要であるのに肝心な場面の記録がないというのは不自然極まりない

「冤罪」を恐れながら同意を取らない不思議

 逮捕前からSNSで「和姦の動画を残すこと自体が悪いと言う人は単純に頭が悪い。冤罪の可能性を0にしてから言うべき」などと投稿していた渡部。

 最終意見陳述の際にも「日本では非常に多くの冤罪が生まれてきている」など、警察・検察による、あるいは被害者や共犯者の「虚偽の証言」による「冤罪」を強調した。

 渡部には同種の前科があり、その経験から再度逮捕・起訴されることを恐れて記録を残すことにこだわったのかもしれない。

 私が何とも言えない気持ちになるのは、それほど冤罪を恐れる彼が、女性から「性的同意」の確認を取ることにはほとんど無関心だったように見えることだ。

 渡部は10年以上前からナンパ術をマニュアルにして販売していた。初級・中級・上級とあり、内容は声かけのテクニックから性犯罪についての法知識、性病、職業による女性の見分けかたなど多岐に渡る。

 「女の子ゲット7ヶ条」と書かれた箇所には「第1条 主導権を取る」「第4条 男としての魅力を感じさせる」「第7条 性欲を起こさせる」などとあり、性欲を起こさせる方法として、酒を飲むことや下ネタトークの活用が有効だと説明されている。あるいは、スキンシップやボディタッチで刺激しよう、と。

 この中で言葉によるアプローチがおざなりにされているのはなぜなのだろう。

 明確に申し出た場合、断られるからだろうか?

 断られて傷つくのがカッコ悪いからだろうか?

 はっきりと言葉に出すのは「野暮」だからだろうか?

 そもそも同意を取るつもりがなかったのか?

 野暮であったとしても、「冤罪」をこれほど恐れるのであれば、明確に言葉での同意を取ることが最善策であると思うのだが。「魅力を感じさせる」ならまだしも、罰ゲームで酒を飲ませたり、断りづらい雰囲気をつくったりすることは逆効果ではなかっただろうか。

 ナンパ術やコミュニケーション術を説いてはいるが、実際にやっていることはなし崩し的に性交に及ぶこと。このような性交の回数が多いことが、なんの自慢になるのかわからない。

【参考1】

「性的同意」について、子ども向けの動画は↓こんなものもあります。大変わかりやすいと思います。

性的同意をはぐらかす習慣、今のままでいいのか

 確かに、性的なアプローチを曖昧にぼかす習慣はあるだろうし、女性側でも「たとえ同意していても明確にYesを言うのは恥ずかしい」と言う人もいる。

 けれど大事なことを曖昧にぼかす「文化」の中で、無自覚に行われてきた性暴力があることを、そろそろ大人たちがはっきりと自覚しなければいけないと思う。もう2020年ですし、オリンピックを開催する、国際的に開かれた国である……ならば……。

 リアルナンパアカデミーの一連の犯行は悪質であり、「彼らと自分は違う」と思う男女は多いだろう。しかし、根底にある「なるべく性的同意をはぐらかす習慣」には、覚えがある人も多いのではないか。

 羞恥心は文化や習慣によって作られる。性的同意をおろそかにする習慣や、性的なアプローチの中での曖昧さを「美徳」とするような文化を、次世代に引き継いで良いのか。今、考えるときだと思う。

【参考2】

今年の国際女性デー(3月8日)に合わせて公開された動画もあります。こちらは伊藤詩織さんがナレーション、小林エリカさんが作画を担当するなど、日本のクリエイターたちが作成した動画です。

 渡部は法廷で、ある被害者が自分から下ネタを話していたから性的にオープンな性格であったと主張した。しかしたとえ性的にオープンな性格であったとしても、その場で性行為に同意することはイコールではない。どんな服を着ていても「性的同意」ではないことと同じだ。

 この被害者は、「渡部に魅力を感じていなかった」と性行為の同意がなかったことを法廷で証言した。

女性を陥れながら「冤罪」を恐れる矛盾

 これまで渡部被告の裁判を傍聴して、彼が被害者らを「女(オンナ)A、女B」と呼び、「嘘つき」と罵しる場面を見てきた。その様子から感じたのは、女性への並々ならぬ不信感だ。

 以前、別の記事で書いたことがあるが、RNA塾生の公判を最初から傍聴していた高橋ユキさんは、渡部について「女性だけ守られて俺らが悪者になるのは許せない、という感じも受けたので、『女好き』というアカウント名ながら、実は女が嫌いなのかなとも思いました」と語っている。※渡部のツイッターアカウント名は「女好き@RNA」で、塾生からは「女好きさん」「ずきさん」などと呼ばれていた。

 渡部はRNAの運営で生計を立てていたと思われ、検察側は「常習性が高く、職業的犯行」であることを厳しく指摘している。女性への不信感は、自分がナンパをビジネスにし、女性を食い物にしていたことの後ろめたさの裏返しではなかったのだろうか。

 女性に自分から近づき、ゲームでわざと負けさせるなど悪意ある手口を使いながら「冤罪」を恐れる矛盾を、この裁判に見た。

【関連記事】

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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