熟年離婚~顔をみるのも嫌になったら離婚できるか
先月、ビートたけしさん(72)が妻幹子さん(68)と協議離婚しました。
報道によると、事実婚期間を含めた39年間のうち、ほとんどが別居。そして、お二人は月に数回食事をしながら近況報告をしたり、誕生日などの節目にも会うなどして、お互いの存在を確認していたようです。
お二人は、70代と60代という、熟年で離婚を決断されました。実際に、定年退職を目前に、妻から突然離婚を切り出されてパニックに陥る夫がいるという話も耳にします。そこで、今回は熟年離婚について考えてみたいと思います。
離婚の二つの形
民法が定める離婚は、次の二つがあります。
1.協議離婚
夫婦の間に離婚の合意がまとまり、それを戸籍法の定めるところに従い届け出ることによって成立します(民法763条)。
2.裁判離婚
民法の定める一定の離婚原因がある場合に離婚の訴えが認められ、判決によって成立します(民法770条)。
裁判離婚は、夫婦の一方が離婚に同意しないにもかかわらず、一方が離婚請求するものです。したがって、これを認めてもよいだけの離婚を正当化しうる理由(=離婚原因)が必要になります。民法は、770条1項で5つの離婚原因をあげています。
民法770条(裁判上の離婚)
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
今回は、しばしば熟年離婚で関わってくる「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(以下「5号」といいます)について深掘りしてみましょう。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは
5号に該当する典型的なケースは、相手方の顔をみるのも嫌なほど婚姻を継続しがたいと感じるようになった場合です。一方がこのように婚姻継続の意思を失ってしまえば、結婚は破綻したといわざるをえません。双方がそのように思っていれば協議離婚で解決できます。
しかし、裁判離婚の場合には、他方は離婚に反対しています。
この場合、5号に該当するだけの事情があるかどうかについては、相手方が離婚されてもやむをえないだけの、つまり、もし同じ立場に置かれたら、誰でも婚姻継続の意思を失うであろうことが必要になります。判例で5号にあたるとされている事由としては、次の7つが挙げられます。
判例で「5号」にあたるとされている事由
1.暴行・虐待(DV)
2.同居に堪えないような重大な侮辱
3.犯罪行為
4.浪費癖、勤労意欲の欠如
5.性生活の不一致
~性交不能、正当な理由のない性交拒否、異常な性行為の要求など
6.精神的な事由
~お互いの性格、人生観や生活感覚の不一致、愛情の喪失など
7.他方配偶者の親族との不和
これらの事情に加えて、2~3年程度の別居があれば、5号に該当すると判断されやすいようです。
熟年離婚と破綻認定
熟年離婚の典型的パターンは、夫婦として長年共同生活を継続していても、一方は、その間にお互いの生き方や価値観が相違し、隔たり、一方が他方との共同生活に終止符を打ち、残りの人生を納得のいくものにしたいと思い離婚を決意する。離婚を請求された他方は、離婚に至る理由に思い当たることがなく、とまどい、離婚請求を理不尽として反発する。そうなると、長年共に生活をしてきたこともあって、協議離婚の成立は困難になります。
裁判離婚を選択しても、裁判官が破綻を認定せず、再度の和合の試みを説くことも多いようです。5号をめぐる判例をご紹介します。
【判例1】
80歳を超える夫からの離婚請求について、1年半余の別居で5号に該当するとした。
【判例2】
夫からうつ病の妻に対する離婚請求について、別居は2年に及ぶが、うつ病の治療やうつ病に対する夫の理解が深まれば、婚姻関係の改善も期待できるとして、婚姻の破綻を認定せず、5号に当らない
お互い胸を開いて話し合う
結婚生活に不仲は起こりうるし、円満な夫婦生活に回復するように努力を強いることが不可能なことも当然あります。 破綻した、形式だけの婚姻は、婚姻外の性的関係(いわゆる「不倫」)を生むこともありうるなど婚姻の価値を否定することにもなりかねません。 破綻した婚姻から当事者を開放し、再婚や自立の自由を保障することが、民法が掲げる離婚の第一の目的です。したがって、離婚を否定的に捉える必要はないと思います。
しかし、長年夫婦共同生活を過ごしてきた二人には、二人で築いてきたものがきっとあるはずです。
熟年離婚が頭をよぎったら、まずは、夫婦が胸を開いて、お互いの想いや辛さ、あるいは至らなかった点を真剣に納得いくまで語り合うことが必要ではないでしょうか(ただし、DVなど話合いが困難な場合は除く)。長年を共に過ごした二人なら、きっとできるはずです。決断を下すのはその後でも遅くないのではないでしょうか。
以上参考『家族法 第5版』(二宮周平著、新世社)