日本国内でサル痘の報告が増加 サル痘についてこれまでに分かっていること
2023年に入り、日本国内におけるサル痘の報告が増加しています。
改めてサル痘の現在の流行状況、感染経路、症状、診断、予防について知っておきましょう。
※サル痘は英語で"Monkeypox"と呼ばれていましたが、差別や偏見を助長する可能性があることから2022年11月に"Mpox"という名称に変更されました。これに合わせて日本国内でも「M痘」と呼ばれることがありますが、厚生労働省は現在も「サル痘」の名称を用いていることから本稿もこれに合わせてサル痘と記載しています。
世界におけるサル痘の発生状況は?
2022年5月に始まったサル痘の世界的な流行は、2023年2月10日時点で110の国と地域に広がっており、これまでに85,800例のサル痘患者が世界で報告されており、97人の方が亡くなっています。
特にアメリカでは30,000例を超える大規模な流行となっています。
しかし、世界における新規感染者数は、2022年8月頃には1日1000例を超えていましたが、その後減少に転じ、現在は1日30例程度にまで減っています。
日本国内でサル痘の報告が増加
一方、日本では2023年に入り新たに診断されるサル痘患者が増加しています。
これまでに19例のサル痘の患者が報告されていますが、このうち10例以上が2023年になってからの約40日の間に報告されています。
海外では減少しているのとは対照的に、日本国内では増加が懸念される状況です。
サル痘はどのように世界で広がったのか?
サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告されたサル痘ウイルスによる動物由来感染症です。
サル痘という名前ですが、サルも感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミやリスなどのげっ歯類と考えられています。
西アフリカや中央アフリカでは、ときにこれらのげっ歯類からヒトに感染し、さらにヒトからヒトに感染することで、その地域で散発的な流行がみられていました。
2022年5月から始まった今回の流行は、このヒトからヒトへの感染が世界の都市部に拡大したことによります。
これまでに分かっている確定例は大半が男性患者であり、20代から40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。
例えば、世界16カ国528例の報告では、症例のうち98%が男性とセックスをする男性(MSM)であり、年齢の中央値は38歳でした。
この528例のうち95%が性交渉に関連した接触による感染が原因と考えられており、これらの感染者は性交渉のパートナーが多いという特徴があります。
サル痘の症状は?
サル痘は1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難と言われています。
しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。古典的には、発熱、頭痛、リンパ節の腫れなど先行する症状が数日持続してから皮疹が出現します。
皮疹は顔面から出現して、全身へと拡大していくとされ、全身の皮疹がある一時点においてすべて同一段階の状態で、赤い発疹から水ぶくれ、そしてかさぶたになっていくというのが典型的とされます。
しかし、今回のサル痘の流行では、これまでに知られていた特徴と異なる症状も報告されています。
前述の今回の流行における16カ国528例の報告では、潜伏期は約7日で、発熱、頭痛、リンパ節の腫れなど先行する症状がない症例も半数ほどあり、また皮疹の状態もそれぞれの部位で進み具合が異なる事例が報告されています。
症状として頻度が高かったのは、
・皮疹(95%)
・発熱(62%)
・リンパ節の腫れ(56%)
・疲労感(41%)
・筋肉痛(31%)
・咽頭炎(21%)
・頭痛(21%)
・直腸炎/肛門の痛み(14%)
・気分の落ち込み(10%)
とのことでした。
皮疹の部位も肛門や生殖器でみられる頻度が最も多く(73%)、体幹・四肢(55%)、顔(25%)、手のひら・足の裏(10%)と続きます。
これまでの報告とは異なり、口の中の粘膜や直腸にも病変がみられることも特徴の一つです。
稀な合併症として心筋炎や喉頭蓋炎も起こるようです。
サル痘の皮疹は天然痘と非常に似ており、水疱という水ぶくれが見られることが特徴です。
同様に水痘(水ぼうそう)も水疱が見られます。これまでは水ぶくれの時期、かさぶたになった時期など様々な時期の皮疹が混在するのが水痘の特徴であり、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴とされていましたが、今回の流行ではサル痘でも様々な時期の皮疹が混在することがあるようです。
ただし、皮疹の部位が生殖器に多い、というのは今回の流行におけるサル痘の大きな特徴となります。
天然痘と比べると、サル痘では首の後ろなどのリンパ節が腫れることが多いと言われています。
天然痘や水痘以外には、性感染症である梅毒や性器ヘルペスといった疾患も似たような症状を呈することがあります。
サル痘の治療や予防は?
サル痘の治療は原則として対症療法となります。
アメリカやイギリスなど海外ではシドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど天然痘に対する治療薬が承認されており、実際に投与も行われていますが、日本ではこれらの治療薬は現時点では未承認です。
国立国際医療研究センター病院では、このうちTecovirimatを投与して有効性や安全性を検証する臨床研究が行われています。
またサル痘は、
・サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する
・サル痘に感染した人の飛沫を浴びる(飛沫感染)
・サル痘に感染した人の体液・皮膚病変(発疹部位)に触れる(接触感染)
によって感染することが分かっています。
前述の通り、今回の流行ではゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多く、性交渉の際の接触が感染の要因になっていると考えられていますが、性交渉とは関連のない皮膚などを介した感染事例も報告されています。
天然痘を予防する種痘(痘そうワクチン)はサル痘にも有効です。
コンゴ民主共和国でのサル痘の調査では、天然痘ワクチンを接種していた人は、していなかった人よりもサル痘に感染するリスクが5.2倍低かったと報告されています。
しかし、1976年以降日本では種痘は行われていませんので、昭和50年以降に生まれた方は接種していません。
同じく国立国際医療研究センター病院では、サル痘の濃厚接触者や医療従事者を対象に痘そうワクチンを接種し有効性と安全性を検証する臨床研究が行われています。
現在は男性同士の性交渉に関連した接触感染による事例が多くなっていますが、性交渉とは関係なく感染が起こることもあります。
サル痘についての正しい知識を持って、適切な感染対策を心がけましょう。