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台風19号の被災ストレスから身を守る対策 いま必要なこと

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
台風19号各地に被害(写真:ロイター/アフロ)

台風19号の被害は時間が経過するにつれて被害の大きさが明らかになってきました。また復旧時期の見通しもはっきりしない部分が多く、避難所での生活が長引く可能性が大きくなってきました。こうした中で今、少しでも健康リスクを減らす対策を考えたいものです。

寒い場所での血圧注意

心配なのは、このところの急激な気温低下と交感神経の緊張による被災ストレスにより、血圧が上昇するリスクです。普段は血圧に問題がない方でも、慣れない環境の中で血圧が上昇すると心血管障害や脳血管障害を発症しやすくなります。避難が長引く場合は、避難所に血圧計の配備をして血圧を測定できるようにしてはいかがでしょう。頭、肩こりがひどい、めまいがする、などの症状がある方は早めにそれを周りの方に伝えてください。また寒い状態での戸外での片付けで普段は問題がない方も血圧が上がることがありますから、「いつもは大丈夫だから」と我慢せずに不調を周囲の方に伝えるようにしてください。

ストレスをのりきる呼吸

ストレスによる交感神経の緊張を和らげるためにゆったりとした深い呼吸が必要なことは知られています。ところが「深呼吸してください」と言われても緊張状態にあり身体がこわばっていると、肩甲骨を拡げることができずに深く息を吸うことが難しくなることが多いのです。このような場合は、「唇を少し開けて細く長く息を吐いてから吸う」と深い呼吸ができます。また吸う息の倍の長さで息を吐くようにしていると、深く息ができて気分が落ち着きますし、血圧も安定します。

マスクや首に巻くタオルも

ストレスで免疫状態が低下し風邪などをひきやすくなることも心配です。避難所は乾燥している場合も多く、また集団生活での風邪やインフルエンザなどもこの季節注意したいものです。マスクをしていると自分の吐く息で乾燥を防ぐこともできますので避難所にマスクの配備していただけるといいと思います。睡眠の確保もストレスを乗り切るために必要です。睡眠の質が低下しやすい場合、目の上にタオルなどを置いたり、マスクをしたりすると、外部の刺激を軽減できるはずです。また首のまわりにタオルを巻くと寒さを感じにくくなり、足の先を温かくしておくと寝つきやすくなります。足元を温かくするソックスやレッグウォーマーなども役に立つと思います。

ストレッチで心のケアを

避難生活での運動不足はエコノミークラス症候群のリスクになることが知られていますが、体を動かすことは心のケアにもつながります。言葉でつらさを表現しにくい子どもなどが身体を通してストレスを軽くすることができることは、東日本大震災などでの経験で明らかです。避難所は机や筆記道具なども不足していてものを書いたりすることができず、つらい気持ちを表現することができにくい状況になります。そんな環境では背伸びしたり身体を左右にひねったり簡単なストレッチは効果があるといえます。狭い場所でも少しでも身体を緩めておくことは心を緩めることにつながります。ちょっと身体を動かすことは心のケアに役立つことを覚えておいていただきたいと思います。

我慢しすぎの心理リスク

心理的に気がかりなのが我慢しすぎによるリスクです。水を飲むのを我慢してトイレに行かないようにすることは血管障害を起こしやすくしますし、「みんなが我慢しているから」と体調が悪くても言い出せなかったり、寒くても我慢してしまう方がいることが気がかりです。まず我慢をしすぎない、体調が変だと感じたらまわりに伝えることをためらわないでください。また、まわりに体調が悪そうな方がいたら「どうですか?体調は大丈夫ですか?」などの声掛けをしていただきたいと思います。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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