渡辺VS永瀬、封じ手直前に両者指すバチバチの駆け引きで、図面作成間に合わじ 王将戦第1局1日目終了
3月1日。佐賀県上峰町・大幸園において王将戦七番勝負第5局▲渡辺明王将(36歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。
第4局は永瀬王座が勝ち、カド番をしのぎました。
名人・棋王をあわせもち、多忙の日々を送る渡辺王将。2月20日には棋王戦五番勝負第2局で勝利をあげました。
26日には静岡市でA級順位戦最終戦の解説。名人戦七番勝負では、斎藤慎太郎八段の挑戦を受けて立つことになりました。
渡辺王将は東京には戻らず、そのまま佐賀へと移動して本局を迎えています。
第5局は渡辺王将が先手番。角換わりの戦型となりました。
25手目。渡辺王将は早くも中段に桂を跳ねて攻めていきます。永瀬王座はまず慎重に受け止めたあと、手早く銀を繰り出して反撃に出ました。
39手目。渡辺王将が金を立って自陣を整備した局面で昼食休憩に入りました。
永瀬王座の昼食はうなぎ丼にローストビーフ。「ひと目、指し過ぎではないか?」と思われるような、重厚な選択でした。
午後に入ってからはスローペースの進行。互いに中住居にかまえ、相掛かりか横歩取りの中盤を思わせるような陣形となりました。
45手目。渡辺王将は端1筋をつっかけて攻めます。
昼食は重厚だった永瀬王座。午後のおやつはさらりとコーヒーだけでした。
17時。外からは「遠き山に日が落ちて」のメロディーが流れる中、永瀬王座は48手目、3筋の歩を突きます。封じ手番が決まるまで、あと1時間。このあたりは時間進行上の駆け引きもあります。
17時44分頃。渡辺王将は5筋に構えた玉を一路左、6筋に寄せます。時間的にここで永瀬王座が封じ手か。そう思われたところで永瀬王座の手が動きました。
17時56分頃。永瀬王座は3筋に桂を跳ねます。もう局面は動かず封じ手確定と思っていた関係者はあわてたことでしょう。その中でも一番あわてたのは記録係の福田晴紀三段だと思われます。
渡辺王将はどう応じるか。桂と桂がぶつかっていますが、同桂成と応じる一手ではありません。しかし渡辺王将はすぐにそう指しました。これは読みが合っていたこともあるでしょうが、封じ手は向こうにさせようという駆け引きでもあったでしょう。
ほどなく18時。立会人の小林健二九段が定刻になったことを告げます。ここで手番の永瀬王座はまださらに時間を使って考えることはできます。しかしすぐに56手目を封じる意思を示しました。
封じ手は記録係が書いた図面をもとに、赤いペンで動かす駒に丸をつけ、矢印で動かす場所を示します。記録係は定刻を迎える前にあらかじめ、もう動かないであろう駒などを記して準備しておくものです。
しかし本局。直前に2手動いては間に合いません。永瀬王座が封じる意思を示してから、福田三段が図面が書き上がるまでに、やや時間がかかりました。
将棋界ではこうしたとき、淡路仁茂(あわじ・ひとしげ)九段の名にちなんで「間に合わじ」と言います。
18時12分。永瀬王座が封じ手を収めた封筒2通を小林九段に預けて、1日目の対局が終わりました。
明日2日目は午前9時に封じ手が開かれ、対局が再開されます。持ち時間は各8時間。昼食休憩をはさんで、夕食休憩はなく、通例では夕方から夜にかけて終局を迎えます。