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やるのか、やらないのか、北朝鮮の5度目の核実験

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ハムレットの心境の金正恩第一書記

北朝鮮の36年ぶりの労働党大会(5月6日)開催まで残り4日と迫った。国際社会の最大の関心は党大会を前に北朝鮮が5度目の核実験を強行するかに向けられている。

北朝鮮はいつでも核実験をやれる状態にあるようだ。咸鏡北道吉州郡豊渓里にある実験場が準備万端であることが確認されたことから韓国でも「後は金正恩(第一書記)の決断次第」(朴槿恵大統領)と、警戒を怠ってない。

過去4度の核実験はいずれも、月曜から水曜日にかけて行われている。

1回目(2006年10月9日)と2回目は(2009年5月25日)月曜日に、3回目(2013年2月12日)は火曜日、そして4回目(2016年1月6日)は水曜日だった。いずれも午前10-12時(日本時間12時半)の間に行われている。

過去のデータに基づけば、実験があるとすれば、2-4日の間の可能性が高い。特に3日は党大会に向けて全国で繰り広げられてきた「70日戦闘」キャンペーンの最終日であり、朴大統領が北朝鮮の友好国であるイランの訪問を終え、帰国の途に着く日と重なる。

党大会前の核実験の可能性が取り沙汰されている最大の根拠は、金正恩第一書記が3月10日にスカッドミサイルの発射に立ち会った際「新たに研究製作した核弾頭の威力を判定するための核爆発実験と、核攻撃能力を高めるのに必要な実験を続けていかなければならない」と発言したことだ。金第一書記は5日後の3月15日にも弾頭ミサイルの大気圏再突入の模擬実験を視察し「核攻撃能力の信頼性をさらに高めるため、早い時期に核弾頭の爆発実験と核弾頭装着が可能なあらゆる種類の弾道ロケット(ミサイル)試験発射を断行せよ」と関係者に指示していた。

金第一書記のこの命令に基づき北朝鮮がミサイルについてはノドン(3月18日)、KN-09(3月21日)、地対空迎撃ミサイル(4月1日)、ムスダン(4月15日)、SLBM=潜水艦弾道ミサイル(4月23日)と連続的に発射実験を行ってきたことから核実験も早晩必ず行うものとみられている。

5度目の核実験が、再度の水爆実験になるのか、新たに開発したウラン型爆弾を使用するのか、それとも、小型化された核弾頭の爆発実験になるのかは不明だが、金第一書記の言葉通りならば、核弾頭の爆発実験の可能性が最も高い。

北朝鮮が核実験を行う可能性の高い根拠は、何も金正恩発言だけではない。

オバマ大統領が韓米連合軍事演習を中断すれば、核実験を中止するという北朝鮮の李スヨン外相の提案を拒否し、金第一書記を「無責任で、近寄りたくない人物」と揶揄したことも決め手となっている。また、李外相にニューヨークに派遣し、国連の場で「核には核で対応する」と発言させたこともその予兆とみなされている。

この他にも北朝鮮高官が3月にロシアを訪問し、「我々の戦闘能力を軽視していると驚くことになる。党大会前に高い戦闘能力を見せつけることになる」と間接的に通告していることや、4月30日の外務省代弁人声明で「核で対抗するのは自衛措置である」と触れていることもその証左となっている。何よりも、党大会開催に向けた国威発揚として核実験こそが必須であると北朝鮮指導部がみなしていることに尽きる。

しかし、それでも党大会前にやらない可能性も残されている。

その理由は、第一に、核実験を強行すれば、国連安保理による経済制裁がさらに強まることである。

現状の制裁のままならば、抜け道もあり、まだ耐え忍び、長期戦、持久戦に持ち込むことも可能だが、更なる追加制裁となれば、経済が持たない恐れがある。前回の制裁決議「2270」に盛り込まれなかった▲原油の全面中断▲海外人力(5万人=2~3億ドル)の送金停止▲セカンダリーボイコット(北朝鮮と取引する第三国への制裁)などが新たに加われば、党大会の目標である経済の再建も人民生活の向上もおぼつかない。

第二に、長年友好関係にあった中国とロシアとの関係が決定的に悪化し、見放される恐れがあることだ。ベトナムなど国交のある東南アジアの国々やエジプトやイランなど中東の北朝鮮の友好国までもが国連安保理に同調すれば、完全に孤立無援状態に陥ってしまう。

中国とロシアは北京での外相会談(4月29日)で北朝鮮に対して「無責任な追加挑発を自制せよ」と、両国共に核実験を絶対に容認しないと警告している。一旦関係がこじれれば、修復を図るのは容易ではない。経済支援、協力も期待できなくなる。

第三に、ムスダンミサイルを失敗しても繰り返しているのは、核実験の代わりと考えられなくもないことだ。

国連安保理は北朝鮮が再三にわたってミサイルを発射し、国連決議に違反しても報道向けの非難声明に留め、新たな追加措置は講じていない。しかし、核実験となると、新たな制裁決議が採択され、制裁措置はより強力になる。

やるべきか、やらざるべきか、党大会を前に金第一書記はハムレットの心境にあるのかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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