小出恵介さんの事件について法的に違法でない可能性が高い-弁護士が解説
*数日前にも本件に関する記事をアップさせていただきましたが、同業者からの的確な指摘をいただき、再検討して改めて記事にさせていただきました。また当然ながら本稿は法的観点の解説であって、倫理、道徳を議論する目的ではありません。
俳優の小出恵介さんが当時17歳の女性と飲酒の上、性行為(類似行為も含みます。以下同じ)に及んだということで問題視されています。
芸能人と18歳未満との性行為については、少し前に狩野英孝さんの件でも問題となりましたが、筆者はその時も記事にさせていただき、「法律上18歳未満の相手との性行為は原則問題なし!!狩野さんが処罰される可能性はほぼゼロ」と述べていました。
結果論ではありますが、実際に狩野さんが処罰されたという話は聞きません。
今回の小出恵介さんの事件については、狩野さんの件に比べて違法行為を認められる可能性が高いとは思いますが、それでも法的に問題なしとの結論になる可能性も十分あると考えます。まずはもう一度、18歳未満を相手とする性行為についておさらいします。
淫行が問題になるのは相手が18歳未満の場合のみ!(未成年ではない)
まず、報道や専門家のコメントで、本件の相手女性が「未成年」(つまり20歳未満)であったという書き方で問題定義しているものが非常に多いですが、これは誤りで、いわゆる淫行として、相手の年齢が問題になる可能性があるのは「18歳未満」の場合です。
18歳以上の相手と性行為を行ったことで処罰対象となる可能性があるのは、売春のように有償である場合(その場合も売春そのものが直ちに処罰対象となるわけではありません)や、暴行・脅迫を用いたり(強制わいせつ・強姦罪になります)、相手が飲酒等によって抵抗できない状態になっている時に(準強制わいせつ・準強姦罪になります)、性行為に及んだ場合です。
逆に、相手が18歳未満であるからこそ問題になるのは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童買春禁止法)に規定される児童買春(18歳以上と異なり売春そのものが処罰対象)のほか、特に本件で問題となるいわゆる淫行条例(本件では大阪府青少年健全育成条例)や児童福祉法に規定されている淫らな性行為(淫行)に該当する場合です(児童福祉法の場合は、雇用・師弟・親族というベースになる上下関係が前提となるようですので、本稿では淫行条例を中心に述べます)。
それぞれ、保護の対象である「青少年」や「児童」の定義として、”18歳未満の者”と定義されています。
ちなみに、相手が13歳未満の場合には、いかなる場合も許されず、刑法において強姦罪等で処罰されることになります。
法的には相手が18歳未満でも原則的に問題なし!
そして、相手が18歳未満であっても、それだけで処罰対象になるわけではありません。
そもそも国民の行為は原則的に尊重されて自由が認められており、何らかの目的(公共の福祉)のためにどうしても規制しなければならない行為のみ禁止されています(憲法第13条)。
性行為については、性的自己決定権という人間の尊厳・人格を基礎づける極めて重要で根本的な権利が問題となるわけですから、当然、その権利を国家が制約するのは最小限度でなければなりません。
この観点から言えば、未成年にとっても、未成年を保護するつもりで広く性行為を規制することは、未成年の性的自己決定権を狭めることにもなり、単純に規制すれば良いということにはなりません。
そして、法律上、許されない性行為とは何かと言えば、さきほどの淫行条例において禁止されている淫行です。
重要なのは、18歳未満との性行為が一律に禁止されているわけではなく、原則的には問題はないが、例外的に淫行が禁止されているという点です。
(あくまでも、「法的」には、18歳未満との性行為というだけで問題になるわけではないという趣旨であって、倫理、道徳については議論の対象外としていますし、当然ながら、違法の疑いのある交際や性行為を奨励しているわけではありません。)
淫行とは何か、淫行を処罰する趣旨は?
淫行とは何か、そもそも淫行を処罰する趣旨は何かということはこれまで何度も議論されてきており、特に法律家の中で有名なのが昭和60年10月23日の最高裁判決(福岡県青少年保護育成条例違反被告事件)です。
この判決の中で、裁判所は、淫行を処罰する趣旨については、
「一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によって精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとした」
としており、このような趣旨からすれば、処罰すべき淫行とは、
「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう」
とし、また、単に反倫理的あるいは不純な性行為を指すものでもないと述べられています。
上記最高裁判決の淫行の定義を読み解くと、「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為」(第1類型と言うようです)という具体的な手段を前提とする性行為を淫行の具体例として示しつつ、「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」(第2類型と言うようです)を広く淫行の定義としていることがわかります。
本件で問題となる大阪府の淫行条例はどのような規定になっているか?
基本的に全国の淫行条例の規定や運用については、この上記最高裁判決を参考にしているのですが、大阪府の淫行条例については、上記第1類型のみを処罰対象としており、第2類型については処罰対象としていません。
さらに、第1類型についても、上記最高裁判決は淫行に至る具体的な手段について「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等」と述べていますが、大阪府の淫行条例では「青少年を威迫し、欺き、又は困惑」させる場合にさらに手段を限定し、誘惑等により淫行に至る場合を除外しており、上記最高裁判決やその他全国の他の多くの都道府県において定められている淫行条例よりもかなり処罰範囲を限定していることがわかります。
そもそも全国的に淫行条例として処罰の対象になるのは、第2類型が中心のようで、大阪府の淫行条例では処罰例は少ないようです。
では、本件の小出さんの一連の行為の違法性についてはどう考えるべきか?
小出さんの行為が報道のとおりであれば、一連の行為が、相手女性を誘惑した性行為、あるいは、相手女性を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為であったと認定される可能性はありますが、これは上記の第2類型のため処罰されず、他方、第1類型である、相手女性を威迫し、欺き、又は困惑させて性行為に至ったとまでは言えない可能性が高いのではないかと思います。
としますと、小出さんの一連の行為について、社会的、倫理的、道徳的な問題はさておき、法的には違法ではないと認定される可能性は高いと考えます。
大阪府の淫行条例について、これだけ淫行の範囲を狭めているのは、悪く言えば淫行する者にとって甘いと言えるのかもしれませんが、他方、それだけ性的自己決定権を重視していると言えるのかもしれません。
そもそも、法律家の間でも、人の行いとして、そもそも性的欲望を満足させるために行われるのが性行為であって、それを処罰する必要があるのかという議論は昔からあり、児童買春や強姦のように明らかに違法性がある性行為ではない性行為については、およそ倫理や道徳の問題であって、法律で規制する必要はないという判断をしているのかもしれません。
他方、仮に相手女性がシングルマザーであったり、乗り気であったり、さらにはハニートラップであったりした場合に小出さんの違法性に影響するか??
一部の記事では、相手女性はシングルマザーであったし、そもそも相手女性も乗り気で、さらに言えば本件はハニートラップであったのではないかといった憶測まで出ているようです。
まず、相手女性がシングルマザーであったとしても、青少年であることに変わりはなく、淫行条例の保護対象であることに変わりはありません(ただし18歳未満であっても、婚姻までしていれば青少年とは扱われなくなります(大阪府青少年健全育成条例第3条第1項))。
そもそも、18歳未満でシングルマザーになること自体は、当然ながら違法ではなく、本人の自己決定権の範囲内ですから、単にシングルマザーということで相手女性にも非があったかのような論調はあまりに偏見に過ぎると思われます。
ただ、仮に相手女性が、小出さんとの性行為について乗り気であった場合やハニートラップであった場合には、小出さんが相手女性を威迫し、欺き、又は困惑させて性行為に至ったと認定できる可能性はさらに低くなりますので、小出さんの行為が違法行為であると評価される可能性は一層低くなると思われます。
しかしながら、これは大阪府等の処罰範囲が限定された淫行条例に限った話で、例えば筆者の出身地にある三重県青少年健全育成条例のように、上記最高裁判決の第2類型も処罰対象としている場合には、本件の小出恵介さんの一連の行為が違法行為であると認定される可能性は高くなります。
このように、同じ行為であっても、その行為地がたまたま大阪府であるか、違う都道府県であるかによって結論が真逆になる可能性があるのは不公平であるといった指摘もあるのですが、憲法上、各都道府県に条例制定権が認められている以上、地方自治として都道府県ごとに条例の内容に差が生じることは元より憲法が予定していると言うほかありません(憲法第94条)。
ちなみに相手女性による金銭請求についてはどのような問題があるか?
相手女性が小出さんに対して多額の金銭請求を行ったという報道があります。
しかし、小出さん自身は、相手女性の内心に関係なく、現に17歳と知っていた相手女性に対して性行為に及んでいることや、本件が違法行為と認定される可能性もなくはないこと等からすれば、相手女性が被害者であるとして小出さんに対して示談交渉すること自体は、その態様が脅迫的であるといった特段の事情がない限り、違法性があると認定するのは難しいのではないかと思います。
※本事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。