本当に強かった日本代表ロコ・ソラーレと、4年に一度から今度こそ脱却したいカーリング競技
銀メダル獲得、閉会式に参加して一夜明けた21日、北京五輪で躍動したカーリング女子日本代表のロコ・ソラーレは成田空港に帰国した。
昨年9月末にワールドツアー参加のためにまずはカナダへ発ち、カルガリーを拠点に各地を転戦。12月にオランダ・レーワルデンで開催される五輪最終予選に出場するためにスイス・ルツェルンの事前合宿を経て、オランダ入り。見事にチームとして2大会連続の五輪出場を決めた。
ただ、同時期に新型コロナウイルス、特にオミクロン株の世界的な蔓延がはじまり、チームは帰国時の隔離措置や練習拠点確保などを考慮した結果、オランダから帰国せず国外のホームタウンであるカルガリーに戻り年末年始を過ごした。
「ちょっとホームシックになった」などと藤澤五月は苦笑いで振り返ったが、それでも順調にカルガリーで最終調整を続ける。北京五輪の開会式は2月4日だったが、女子カーリングの初戦は2月10日からだったのでオープニングセレモニーをパスし、北京入りは2月5日の0時過ぎ。本橋麻里が「今回は選手の健康面も考えて競技に特化したスケジュールを組ませていただいた」と語ったとおり、時差調整や9日の公式練習参加などを考えると、無駄のない日程で動けていた。これもいま考えれば勝因だったのかもしれない。
実は2月4日にカナダ発から北京入りまでの間に成田空港でトランジットをしているが、厳密には4時間だけの滞在で入国はしていない。実に143日ぶりの日本だ。
国内では視聴率の上位を独占したように日本中がその健闘を称えているが、特筆すべきはロコ・ソラーレが「女子単独出場」で健闘し、日本カーリング史上初の五輪のファイナルに進出したことだ。
クオリファイ(プレーオフ進出)を果たした国は男子がスウェーデン、イギリス、カナダ、アメリカ。女子がイギリス、日本、スウェーデン、スイスだ。日本以外のスウェーデン、イギリス、カナダ、スイス、アメリカは男女とミックスダブルス(以下MD)のカーリング3種目すべてにチームを派遣している。
もちろん各国ごとに情報共有の方法は異なるので一概には言えないが、アイスの状況やストーンのチェック、あとは戦術的にも客観的な「目」が増えることでプラスはあってもマイナスにはならないだろう。特にバブル開催となった今大会は選手村に入るパスも限られていたため、参加種目が増えればそのパスが増え、トレーナーやメンタルトレーナー、スコアラーなど各国の協会スタッフなども入村、あるいは会場の出入りができる。人員を送り込めるのは国際大会ではメリットだ。ロコ・ソラーレとのファイナルではイギリス男子が応援にかけつけ、スタンドから国旗を振り声援を送っていた。これもイギリスの選手にとっては大きな力になっただろう。逆に言えばロコ・ソラーレは孤軍奮闘して銀メダルを獲得したともいえる、本当に強いチームの戦いぶりだった。
その一方で今回、男子とMDでの出場が叶わなかった事実は、選手、関係者一同、カーリング界全体で重く受け止めないといけない。国力というと大層に響くが、そういう意味ではロコ・ソラーレを除いて日本は世界に後れをとっている。
実例を挙げていくと平昌五輪で初めて正式採用されたMD、2度目の五輪を制したのはイタリアだった。4年後のミラノ・コルティナダンペッツォ大会のホスト国だ。2030年のホスト国の最有力候補である日本は4年後までにこの準備ができるだろうか。
イタリアだけではない。オーストラリアは男女の4人制での出場はいまだないが、今大会はMDでオーストラリアカーリング史上初の五輪出場を果たしている。男子のディーン・ヒューイットと女子のタリ・ギルがペアを組んだのは平昌五輪直後だったが、コーチに世界的カーラーである平昌で初代MD五輪王者となったジョン・モリスを招聘して、強化に成功。中国もフィンランドのMDのパイオニア的存在で平昌出場のトミ・ランタマキをヘッドコーチに任命するなど、打つ手が早かった豪、中ともに2勝を挙げる。
日本は藤澤五月と山口剛史(SC軽井沢クラブ)のペアが日本代表として世界選手権に出場し2018年、2019年と2年連続5位と好成績を収めているが、当時、コーチとして帯同していたJDリンドは「サツキ(藤澤)とヤマ(山口)のチャレンジだから僕も一緒に戦えて光栄だったけれど」と前置きしたうえで「日本はダブルスに本気で取り組むならば、専任コーチを早くつけるべきだ」とメディアに向かって繰り返し発言していた。4年前にだ。その声はJCA(日本カーリング協会)のしかるべき部署に届かなかったのだろうか。
しかし、今回の北京五輪には強化委員長の柳等氏が協会関係者として唯一、現地入りしている。
強化部署のトップとして、MDにおけるイタリアの躍進や、他国や他競技の強化のノウハウについての情報交換、JOC(日本オリンピック委員会)へのカーリング競技のアピール、MDと男女の種目兼任による選手のパフォーマンスへの影響、選抜制で結果を出したイギリスの強化策、海外の指導者やトップチームの動向、遠征先の候補のピックアップ、海外の列強チームの日本への合宿の誘致などなど、中長期的な強化プランについて考察あるいは分析して、必ずや多岐にわたる効果的なレポートを提出してくれるはずだ。期待したい。
もうひとつ、お金の問題も論じる必要がある。例えば報奨金だ。
ロコ・ソラーレにはJOCから規定どおり、銀メダル獲得の選手ひとりにつき200万円が支払われる。
それに加えて、例えば日本スケート連盟は同額が連盟から追加して支払われる予定だが、日本カーリング協会からの独自の報奨金はゼロだ。これは競技人口なども関係してくるので、難しい部分ではあるが、4年前の平昌五輪時にも報じられていた問題でもある。
前述の柳等強化委員長が当時、共同通信や朝日新聞など複数メディアの取材に応じ「お金がないので、ない袖は振れない」とコメントしたことが話題になったが、流行語大賞を獲得するようなフィーバーのあと4年かけていまだ、その袖がないというのは違和感がある。
実際にカーリング協会は多くの役員が無報酬で活動している。日本選手権レベルの大会でもタイマーや競技委員などは雀の涙ほどの日当を受け取るのみで、場合によっては身銭を切って大会運営に携わっているケースもある。その熱意と献身には本当に頭が下がる。
その一方で、これだけの盛り上がりと質の高いエンターテインメントを生むスポーツなのだから、この現状を清貧や美談と解釈しては決してならない。現状のまま4年、また次の4年と、いたずらにメジャー化のチャンスをつぶしてきたのではないだろうか。場合によってはロコ・ソラーレを、他チームのスター選手を広告塔にしてもいい。お金がないなら集める努力をしてきたのだろうか。
また、今回の五輪、男子で金、女子とMDが銅メダルを獲得したスウェーデンの公式ウェアを手掛けたのはユニクロだった。男子でベスト4に進出したアメリカ代表にはトヨタ、MD金メダルのイタリア代表にはスズキ、現地法人ではあるが日本から世界に出た誰もが知る大企業がスポンサーとしてついている。果たしてこれでもカーリングはお金が集まりにくいのだろうか。
ロコ・ソラーレの快挙に水を差すつもりは一切ない。むしろお金もプランもご褒美もない中で大きな結果を出したチーム力には脱帽だ。4年後、まだ日本が獲得していない色のメダルを彼女たちが、あるいは彼女たちを倒すライバルが獲得するために。今回の熱狂を男子、MDでも共に味わい、何倍にも増幅させるために。カーリングを4年に一度のスポーツから今度こそ脱却させるために。
ミラノ・コルティナダンペッツォ2026の開幕まであとたったの1445日だそうだ。アイス内外でやるべきことは山積している。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】