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新型コロナとクーデター。“ミャンマー住みます芸人”を直撃する苦悩

中西正男芸能記者
“ミャンマー住みます芸人”のお笑いトリオ「タイガース」の阿部直也さん

 2018年に“ミャンマー住みます芸人”としてヤンゴンに移住したお笑いトリオ「タイガース」の阿部直也さん(31)。吉本興業の芸人がアジア各国に住み、日本とアジアの架け橋になることを目指す「住みますアジアプロジェクト」の一環でミャンマーを拠点にすることとなりましたが、新型コロナ禍で昨年3月に帰国。そして、クーデターにより、二重にミャンマーに戻れない状況が続いていますが、その中で思うこととは。

まさかこんなことに

 去年の3月末に、ミャンマーでも新型コロナが広がり、向こうの医療体制も心配だということで日本に戻ってきたんです。

 ただ、最初、日本にいることはほとんど知らせずにいました。

 というのも、1カ月くらいですぐにミャンマーに戻るんだろうなと思っていたので、大々的に「戻ってきました!」はアナウンスしてなかったんですけど、その間にクーデターも起こり…。まさか、こんなことになって、こんなに長く日本にいることになるとは思いもしなかったです。

「バイトせずに暮らせる!」

 そもそも“ミャンマー住みます芸人”になったのは、同期の影響も大きかったんです。

 同期で先にベトナムやインドネシアの住みます芸人になっているメンバーがいて、いろいろと話は聞いていたし、吉本から言質で暮らすための固定給的なもの出る。

 アルバイトをせずに暮らせるというのは、芸人にとって一つのステップアップですし、そんな部分への思いもあって、ミャンマー行きを志願したんです。

 あと、これは同期だから言えるんですけど、日本にいて、そんなにオモロイとは思ってなかったヤツが現地でYouTubeをアップしていたら1000万回再生になっていたりもして「あいつであれくらいいけるんやったら、いけそうやな…」という計算もありました(笑)。

テレビ番組のレギュラーも

 ただ、僕は今まで一回も海外に行ったこともなかったので、ミャンマーでは衝撃だらけでしたけどね。

 一つは、頻繁に停電があるんです。季節にもよるんですけど、一日に何回もあります。

 現地についてすぐ、ミャンマーでお仕事をされている日本人の方々とお食事をさせてもらう機会があったんですけど、いきなり部屋が真っ暗になるんですよ。

 こっちからしたら「なんや!!」となるじゃないですか。でも、皆さんからしたら「こんなにはしゃぐ人、久々に見たわね」みたいな感じになってて。

 と言いつつ、僕も住んで3カ月くらいしたら、もう当たり前みたいに暗闇の中で食事するようになってましたしね。

 現地の日本人の方がいろいろな人を数珠つなぎ的に紹介してくださって、いろいろとお仕事をいただけるようにもなっていきました。

 テレビでのレギュラーももらえましたし、劇場はないので学校を借りてライブをやってましたし、いろいろ活動をさせてもらってました。

 時折、街でいわゆる“顔がさす”というか、気づかれることもありましたし「なんか、テレビで見たことがある外国人」くらいのイメージだったのかなと思います。

 収入は吉本から固定給に加え、仕事をした分のギャラはその都度もらっていたので、ミャンマーの平均月収よりは上の収入をいただいてました。

 いろいろと本当にありがたい流れだったんですけど、何がありがたいって、ミャンマーは人が基本的にエエ人が多いんです。そこも本当に感謝するしかないところです。

 ただ、コロナ、そして、クーデターもそこに重なって、なかなか戻れない日々が続いています。戻れるめども一向に立たないし、とにかく、日本で芸人を続けるため、ミャンマー語を使ったネタをやったりもしています。

 僕らみたいな外国から来た人間でも、クーデターの噂みたいなことは現地で聞いてはいました。ただ、言うても、そんなん起こるわけないと、どこか安心してもいました。やっぱり、自分は平和が当たり前の中で生きてきたんやなと思い知らされもしました。

 クーデターの映像なんかを見てると、本当に自分が住んでいたところかと思うくらい、なんとも複雑な気持ちにもなります。

芸人ならではの難しさ

 いつ戻れるかも分からないし、また、お笑いなので、皆さんに笑ってもらう状況がないと成立しない。

 僕が例えば、お医者さんとか建設会社の人だったら、向こうに戻る戻り方もいろいろあるんでしょうけど、芸人ですから。向こうの人を笑わせる。そこまで、いったいどれくらいの時間がかかるんだろう。いろいろ考えもします。

 今はこんな状況ですけど、自分としては“ミャンマー住みます芸人”になって良かったと思っています。

 ミャンマーで生活してたら「日本って、どんな国?」と聞かれますし、日本に戻ってきたら「ミャンマーって、どんな国?」と聞かれます。

 僕なんかがおこがましいですけど、ある時はミャンマーを背負って、ある時は日本を背負って。そんな中で見えてくるものも多々ありますし、確実に人間としての視野はものすごく広くなったと感じています。

 なかなか先の見えない日々が続きますけど、いつか、そうやって互いの国からもらったものを使って、どんな形ででも恩返しができれば。エエ格好をするわけではなく(笑)、本当にそう思います。

(撮影・中西正男)

■阿部直也(あべ・なおや)

1989年3月9日生まれ。大阪府出身。NSC東京校13期生。コンビなどを経て、現在はトリオ「タイガース」として活動中。2018年から「ミャンマー住みます芸人」となり、ヤンゴンを拠点にするが、20年3月に新型コロナ下で日本に帰国。今年2月からのミャンマーの政変で、さらにミャンマーでの仕事再開の目処が立たない状況が続いている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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