Yahoo!ニュース

大東製糖が手がけるベーカリー&レストラン「Farm to Me SUGAR FACTORY」

清水美穂子ブレッドジャーナリスト
パンとスプレッドから始まるランチコース(筆者撮影)

種子島に自社農園を持つ製糖メーカーの大東製糖が9月1日、東京・清澄白河の隅田川沿い(東京都江東区常盤1-4-4)にベーカリー&レストラン「Farm to Me SUGAR FACTORY」をオープンした。

同社は2007年より2023年まで15年余、東京駅の百貨店、大丸東京でベーカリー「カーラ・アウレリア」を直営していたが、今回の移転リニューアルを機に砂糖以外の原材料も一から見直し、生産者や製造工程などをできるかぎり可視化できるようなものづくりにシフトしている。またすべての商品においてマーガリンはバターに、メインとなる小麦粉は国産に切り替えるなどし、製法もブラッシュアップしている。

食事と合わせるカンパーニュやドイツパンが揃う(筆者撮影)
食事と合わせるカンパーニュやドイツパンが揃う(筆者撮影)

「ブランバゲット」は黒糖入りのバゲット(筆者撮影)
「ブランバゲット」は黒糖入りのバゲット(筆者撮影)

砂糖はパンづくりにおいて酵母の栄養になったり、焼き色をよくしたり、保水力を高めたり、硬くなるのを防いだり、卵や酵母の匂いをマスキングするなどの機能を持つ。製糖メーカーの直営店として15年「カーラ・アウレリア」で自社製品のプロモーションを行ってきたが、次の15年を考えた時、ターミナル駅の百貨店での不特定多数に向けた商売ではなく、駅から数分歩く路面店での特定少数に向けた構想が生まれた。「一万人でなく千人でいい。支持してくれるお客さまがいれば、市場は小さくても中身が豊かになり、このビジネスモデルは可能だと思っています」。代表取締役の木村成克さんは言う。

「今まで、他店との違いをどう出すかなどアピールの仕方に時間をとられてきましたが、これからは本当にやりたいこと、こうあるべきだと考えることを目指していきます。お客さまにわざわざここまで来てもらうからには、なぜそれをつくっているのか明確な理由と自信を持ったものに限定して提供していきたいと思います」。

1階ベーカリー。右手で各種砂糖や紅茶の販売も(筆者撮影)
1階ベーカリー。右手で各種砂糖や紅茶の販売も(筆者撮影)

一階はベーカリーで、奥に厨房、手前の売り場にはパンのほかに素焚糖、加工黒糖、モラセスシュガー、赤糖、キャンディーメープルシュガーなどの各種砂糖やシロップ、サトウキビ酢など自社製品、パンに用いている大麦粉や自家製の各種クリームなどが家庭向けの小パッケージで販売されている。二階には商品開発ラボやセミナーのできる個室があり、三階には隅田川を一望できるレストランを併設。料理の監修は「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフが行っている。食材や景色で季節の移り変わりを体感しながら、料理とパンのマリアージュを堪能する時間は豊かで、ゆるやかに流れていく。

隅田川を一望できるレストランの内装は種子島の風土がテーマ(筆者撮影)
隅田川を一望できるレストランの内装は種子島の風土がテーマ(筆者撮影)

ランチコース(税込2200円)ではパンに合わせる前菜6品の他、季節のスープ、サラダそしてメインの料理を5種類から2つ選ぶようになっている。

カンパーニュに庄内ポークのリエット、しっとりとした高加水パンにひよこ豆のフムス、ライ麦パンにサーモンとサワークリーム、ブリオッシュにルバーブのジャムと自家製リコッタなど、あれこれと合わせてみる時間が楽しい。

パンは少なめに盛られているので、なくなればパンステーションへ行って、好みのものを好きなだけ追加してもらうことができる。そこにはバゲット、カンパーニュ、ライ麦パン、ブリオッシュ、高加水パンなどこの店の定番がローフのまま積んであり、その都度切り分け、温めて渡してくれる。ベーカリー&レストランならではサービスだろう。

パンは好きなだけおかわりできる。左から高加水パン、カンパーニュ、ライ麦パン、右上はブリオッシュ(筆者撮影)
パンは好きなだけおかわりできる。左から高加水パン、カンパーニュ、ライ麦パン、右上はブリオッシュ(筆者撮影)

夜はラム酒がお勧めとのこと。大東製糖はさとうきびの産業振興と環境保全を目的に、種子島にラム酒の蒸留所をつくった。そのように一次産業と深く結びついた食の価値の創造や、加工メーカーとのコラボ、食育セミナーなどもこのベーカリー&レストランの施設内で続々予定されている。

植物でFの文字。屋上にある銀色の物体は精糖の工程で使われる真空結晶缶(筆者撮影)
植物でFの文字。屋上にある銀色の物体は精糖の工程で使われる真空結晶缶(筆者撮影)

ブレッドジャーナリスト

東京出身。2000年より総合情報サイトAll Aboutでガイドを務めることにより、パンに特化した取材執筆活動を開始。注目のベーカリーとつくり手についてWeb、TV、ラジオ、新聞、雑誌等メディアで発信、紹介する一方で、消費者動向やトレンド情報を業界に提供、ベーカリーと消費者の相互理解を深める活動をしている。取材執筆、企画監修、講師、各種コンテスト審査員、コンサルティングなども行う。主な著書『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)『日々のパン手帖 パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)『おいしいパン屋さんのつくりかた』(ソフトバンククリエイティブ)他

清水美穂子の最近の記事