「トップガン」をアカデミー賞から排除しろ。抗議の声が上がるワケ
アカデミー賞授賞式まで、残すところ4日。本投票も西海岸時間7日午後5時に締め切られ、あとは結果を待つだけだ。そんな中、作品部門を含め6部門で候補入りした「トップガン マーヴェリック」に資格があるかを見直せという声が上がっている。
アカデミー賞の主催者である映画芸術科学アカデミーに対してそう抗議するのは、トロントを拠点とするウクライナ人コミュニティの団体Ukrainian World Congress(UWC)。「トップガン マーヴェリック」の製作資金提供に、ロシアのビリオネア、ドミトリー・リボロフレフが絡んでいたと最近になって判明したことが理由だ。
この事実が浮上したきっかけは、今年1月、プロダクション会社ニュー・リパブリックの元プレジデント、ブラッドリー・フィッシャーが起こした訴訟。彼は雇用契約更新に当たって提示された条件を拒否した結果、ニュー・リパブリックを解雇されたとして、1,500万ドルの支払いを求めている。その訴状の中で、ニュー・リパブリックとリボロフレフの密な関係が言及されているのだ。
パンデミックで映画館がクローズし、映画業界が不安のまっただ中にあった2020年、ニュー・リパブリックは、「トップガン マーヴェリック」「ミッション:インポッシブル」の続編を含むパラマウント・ピクチャーズの映画10本に対し、最大25%の製作費を提供する契約を結んだ。CEOで創業者のブライアン・オリヴァーは、過去に「Los Angeles Times」の取材で、ニュー・リパブリックが“モナコやスペインを拠点にする富豪ら”の支援を得ていることを認めている。リボロフレフの主な居住地はモナコ。フィッシャーは、訴状の中で、ニュー・リパブリックとパラマウントの10本契約の資金の多くも、ニュー・リパブリックのサイレントパートナーであるリボロフレフから来たものだと述べている。
現地時間今週月曜、アカデミーのプレジデント、ジャネット・ヤンに向けて送った公開状で、UWCのプレジデント、ポール・グロッドは、「ロシアがハリウッドに影響を与えていることに我々は強い危機感を覚える」と、強く批判。オリジナルの「トップガン」と対照的に、続編でロシアが出てこなかったのも、リボロフレフの意向が反映されたものではないかとの疑問も投げかけた。グロッドは、「Los Angeles Times」の取材に対しても、「ロシアは政治や選挙にも影響を与えようと試みてきた。ハリウッドにも同じことをしようとしていると考えるのは妥当だろう。だからこそ、我々は、今明らかになったこの事実に大きな懸念を持っているのだ」と語っている。
手紙が公開されたのが投票締め切りギリギリだったとあり、この報道が受賞結果に与える影響はかなり限定的だと思われる。しかし、ウクライナ侵攻から1年が経過した今、ロシアへの世界的非難は高まるばかりだ。そんな状況下で、ロシアがかかわったとされる作品がなんらかの部門で受賞した場合、みんなで素直に喜べるのか、微妙な雰囲気がただようのか、予想がつかない。
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」も資金源に問題があった
授賞式の前ではなかったものの、やはりオスカーに候補入りしたヒット映画の資金源が問題視されたことは、過去にもある。レオナルド・ディカプリオ主演、マーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013)だ。
この映画の製作費1億ドルは、マレーシア人のプロデューサー、リザ・アジズが創設したプロダクション会社レッド・グラニットが「作品にはまったく口出ししない」というおいしい条件も含めた上で、100%提供した。レッド・グラニットとディカプリオのプロダクション会社アピアン・ウェイは、同じビル内にオフィスを構えるなど密な関係を築くも、後になって、映画の製作資金はマレーシアの首相ナジブ・ラザクの義理の息子であるアジズが国民のための投資プログラム、ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)から不正に流用したものと判明。アジズはこの件で2019年、マレーシアで逮捕された。同年、レッド・グラニットはマレーシア政府に5,700万ドルを返還したが、アメリカ政府は同社が1MDBから盗んだ金額は45億ドルにも上ると見ている。
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