数の論理と法令から読み解く大阪府市のドタバタ劇
大阪府・大阪市の方面が「大阪都構想」をめぐって相変わらずドタバタしております。橋下徹さんって、本当に、筆者の地方自治に関する法令の勉強を促進してくれる方です。
さて、現在、大阪府議会、大阪市議会では、いずれも松井・橋下与党(府:維新・みんな/市:維新)は過半数に満たない少数派に止まっています。しかし、大阪市を解体する「大阪都構想」については、なかなか、橋下市長、松井府知事の強引な推進手法が止まらない状態です。この辺りについて、なぜそういう事が起こるのかについて、余りまともな解説がないので、自分で調べてみました。
大阪府市の協議会の構成
まず、大阪府・大阪市特別区設置協議会(以下「府・市協議会」とします)のホームページに規約等が掲載されており、府・市境議会の委員の選定について以下の定めがあります。
大阪府・大阪市特別区設置協議会規約
(組織)
第5条 協議会は、会長及び委員19人をもって組織する。
2 会長は、次に掲げる者のうちから、これらの者の協議を経て、大阪府知事及び大阪市長が選任する。
(1)大阪府知事
(2)大阪市長
(3)大阪府の議会の議長及び大阪府の議会が推薦した大阪府の議会の議員■9人
(4)大阪市の議会の議長及び大阪市の議会が推薦した大阪市の議会の議員■9人
3 会長は、協議会を代表し、会務を総理する。
(後略)
この規約を見る限りは、府知事、市長以外の協議会の委員は、府・市それぞれの「議会の議長及び議会」が推薦した議員が就任することになっています。当面の問題点は、この議会での委員の推薦がどのような手続で行われているかです。この点についてもほとんど報道がないのですが、断片的な報道からすると、それぞれの議会の運営委員会で協議会の委員の人選をしているようです。
強権発動しているのは府議会の運営委員会
そして、府・市の協議会の一連の強行運営について、鍵を握っているのはどうやら大阪府議会の運営委員会です。
朝日新聞 2014年6月28日06時57分
大阪維新の会(代表・橋下徹大阪市長)が掲げる大阪都構想の実現に向け、大阪府議会の議会運営委員会は27日、都構想の案をつくる法定協議会から反対派委員の差し替えを決めた。維新が採決を強行。7月中にも特別区の区割りも含めた都構想案をまとめる。実現に必要な府議会と大阪市議会の可決は見込めないため、知事や市長による「専決処分」も検討している。
大阪府議会では、少数与党ながら、運営委員会の多数派と委員長は維新が握っているため、このような強行策が可能なようです(大阪府議会ホームページ参照)。一方の大阪市議会(正式には「市会」というようですが)はというと、運営委員会の多数派を野党(自民、公明、民主、共産など)などが握っており、運営委員長は公明党なので(大阪市会のページ参照)、上記のような委員の差し替えができません。そこで市議会が取った対応は、議会の議決による府・市協議会の欠席戦術でした。
朝日新聞 2014年7月3日16時09分
維新が強行した法定協の委員差し替えに反発した4会派は、多数を握る市議会で市議会枠の委員9人の欠席を決定。これに対し、維新は3日朝、府議会の議会運営委員会で公明党委員2人を維新に差し替え、委員の半数以上の出席という開催要件をぎりぎりで満たした。維新の市議3人は参考人として座った。
その結果、府議会による委員差し替えの後の7月3日の府・市協議会から、下記のように、府議会選出の維新・みんなの委員+松井知事+橋下市長という原則11名の委員による不正常な形で府・市協議会の審理が進み、7月23日の大阪市の解体と特別区への区割り案の議決に至ったわけです。詳しくは、下記サイトにある議事録をご覧下さい。これ自体は、府・市協議会設置時には想定していなかった条例・規約制定上のエラーだと思いますが、違法と言えるかは微妙だと思います。地方自治法にしろ、条例にしろ、手続的なルール(必ずしも明文規定とは限りません)を無視して強行策を採ることはあまり想定されてないので、一度エラーが起こると、その先に何の担保もなかったりするんですよね。
出席者:浅田均会長、松井一郎委員、橋下徹委員、岡沢健二委員、横倉廉幸委員、今井豊委員、大橋一功委員、三田勝久委員、新田谷修司委員、紀田馨委員、置田浩之委員
市議会の条例案の可決と市長による再議に意味はあるか
そして、橋下市長に対抗すべく、大阪市議会が打った次の手は、条例の制定による、府・市協議会の委員の選定方法の法定化です。これについては、橋下市長が「再議権」を行使し、「一事不再議」の原則のため臨時議会での条例制定は失敗におわり、9月議会での再議となりますが、可決には3分の2の賛成が必要で、橋下与党の更なる分裂頼みになります。
読売テレビ 08/12 00:18
市議会の野党会派は、法定協議会に野党委員の人数を元に戻す条例案と、公募校長の採用を抑制する条例案を提出。野党賛成多数で可決されたが、橋下市長が審議の再議権を行使。結局両案とも廃案に。橋下市長の再議権の行使はこれで3度目。全国的にも異例。
地方自治法
第百七十六条 普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日(条例 の制定若しくは改廃又は予算に関する議決については、その送付を受けた日)から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。
○2 前項の規定による議会の議決が再議に付された議決と同じ議決であるときは、その議決は、確定する。
○3 前項の規定による議決のうち条例の制定若しくは改廃又は予算に関するものについては、出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。
(後略)
大阪市会会議規則
(一事不再議)
第12条 市会において議決した議案は、同会期中再び提出することができない。
しかし、すでに述べたように、一連の強行運営について、鍵を握っているのは大阪府議会です。大阪市議会で委員の定数を元に戻す条例を制定しても意味が無いように思います。実際、橋下市長が再議に付す際に示した理由は要するに「今でも会派の比率通りに委員を決めている」というものです。
興味のある方は理由書の2ページ目以下に、橋下市長が自分で書いたんじゃないか、と思うような詳しい補足説明があるので読んでみてください(リンク先の「議員提出議案第17号大阪市会における大阪府・大阪市特別区設置協議会委員の推薦手続に関する条例案の再議について」でPDFを読めます。こちら。)。2ページ目以下はどうでもよいとして、この理由自体はまともなんじゃないか、と思います。筆者には、市議会でこのような条例案を出して橋下与党に揺さぶりを掛ける意味がよく分かりません。むしろ、府議会でこそ、こういう条例が必要なんじゃないでしょうか。しかし、府議会は少数与党とはいえ、維新や元維新の議員がそれなりの数おり、可決の展望がないでしょうか。そういう動きが見られません。
結局、府・市協議会を、議会の構成比率に基づいて正常に運営できるか否かは、府議会自民党が、来年の統一地方選挙も睨んで府議会与党の維新の議員を切り崩し、運営委員会の運営を野党が握れるかどうかにかかっているように思います。
そもそも専決処分で住民投票はできるのか
というわけで、このエントリの結論は、「当面、ドタバタ劇は終わらない」ということになります。
そして、これは再論になりますが、そもそも、橋下市長、松井府知事が府・市協議会の運営をドタバタと強行し、専決処分をしたところで、来年の統一地方選挙と同時に大阪市解体の住民投票を実施できるのでしょうか。それについては「「大阪都構想」の住民投票は橋下市長の独断で実施できるのか」もご参照ください。現在、せっかく臨時の市議会が開かれているので、この点は是非、野党議員から、大阪市選挙管理委員会に問いただして頂きたいところです。