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世界を知る指揮官の下で名古屋ダイヤモンドドルフィンズがBリーグU15の頂点に!

青木崇Basketball Writer
末広コーチの話に耳を傾けるU15名古屋の選手たち 写真提供/B.LEAGUE

 3月28日から東京体育館で開催されたB.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2021は、名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15が秋田ノーザンハピネッツU15を58対57のスコアで競り勝ち、初の頂点に立った。チームを率いる末広朋也コーチは、現職に就くまで長年男子日本代表のテクニカル・スタッフを務め、世界のバスケットボールを緻密に分析し、現場でさまざまな経験を積んできた人物である。

 末広コーチが2018年4月から名古屋のU15をコーチするようになって3年。この大会の1年目が予選敗退、昨年がベスト16だったことを考えれば、この優勝は子どもたちの育成方針が正しい方向に進んでいることの証。その軸は、『個のスキル』『個の駆け引き』のレベルアップだ。末広がこのような考えを持つきっかけとなったのは、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)を軸に世界と戦い、マリ、韓国、エジプトから勝利を手にした2017年のU19ワールドカップである。末広コーチはその理由を次のように話す。

「結局どういうフォーメーションをやろうとも、個で潰されてしまったら絶対にアドバンテージは取れない。絶対に個なんです。自分よりもフィジカルが強い相手だったり、自分よりもスピードが速い相手に対してでも、個の駆け引きで打開していかなければいけないというのが絶対なので、本当にそれがベースになっているのは間違いないです。フォーメーションを先に教えて、個を発揮させないようにすることを僕は絶対にしないです。個がありきでちょっと最初のエントリーだけ工夫してみようか、くらいです。結局は個がどう打破するか。個が打破できたら相手のヘルプが多くなってくる。そこで(次の)2手3手が増えていくのでその練習をしていけばいい。結局は絶対に個ですね。

 エジプトの時、僕も日本のチームはすごくいいディフェンスをして頑張っていたんですね。準優勝だったイタリアに2点差(の惜敗)というゲームをしたんですけど、何回やっても勝てないなと思ったのが(優勝した)カナダだったんです。100点ゲームをされたんです。100対70くらいだったかな(実際は100対75)。カナダには完全にボディアップに行って、ヘルプでしっかり寄っていたんです。ちゃんと日本の選手はやるべきことを全部やっているのに、それでも上回られてしまうのを目の当たりにして、やはり個だなということになりました。やはり原点はそこですね。あのカナダ戦の衝撃は忘れられないですね」

 今年初めて取材したB.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2021は、選手たちがミスをしても拍手をして激励するというコーチの多さに好印象を持った。その中でも、末広コーチはほぼ全ポゼッションで拍手を送っていたことに加え、選手がすぐに気づいてしっかり判断できるような指示をしていた。秋田との決勝戦、名古屋の選手たちは残り1分を切って非常に緊迫した状況の中でも、最後まで冷静に駆け引きの重要性を理解してプレーをしていたのが、いい意味で衝撃的だった。

選手たちの的確な判断によって、1点差で決勝戦を制した名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15 写真提供/B.LEAGUE
選手たちの的確な判断によって、1点差で決勝戦を制した名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15 写真提供/B.LEAGUE

 試合時間残り52秒、2点リードしていた秋田が2本目のフリースローを落としたものの、名古屋はリバウンドを奪うことができず、直後にファウルをコールされてしまう。しかし、フリースローの2本目になるまでの間に、名古屋の選手たちはハドルをしっかり組み、ファウルアウトになった中西真那斗と交代で出てきた関口創介も口を開き、次に何をすべきかを5人で確認していた。

 秋田が2本ともフリースローをミスした後のリバウンド争い、名古屋はしっかりとボックスアウトを行い、関口がタップしたボールを玉井心が確保する。直後のオフェンスで永里叶多のレイアップは決まらなかったものの、木下遥陽がオフェンス・リバウンドから得点。名古屋は55対55の同点に追いつく。

 残り36.4秒、秋田はタイムアウト後のオフェンスでレイアップに持ち込みながらもリングに嫌われ、セカンドチャンスの機会でもシュートを決められない。残り24秒でリバウンドを奪った玉井は、時間を使い切ってのラストショットよりも3対1という数的有利をモノにできるという判断からバスケットにアタック。そのままフィニッシュして勝ち越せたのは、末広コーチが力を入れてきた個のスキルと駆け引きの両立させたという意味でも素晴らしいプレーだった。

 残り19.2秒に秋田がタイムアウトを取った時、末広コーチは次のことを選手たちに話していた。それは、3Pシュートを打たせないこととドライブで2点取られても同点だからOKという2点。秋田戦はドライブへのディフェンス対応を重視するゲームプランだったが、この時だけは3Pを打たせないように選手たちが寄せていた。ドライブを決められて追いつかれたものの、名古屋の選手たちは自分たちにラストチャンスが来ると理解しており、ゴール下にいた関口もハンズアップするだけで、ディフェンスで無理をしなかった。末広コーチは次のように振り返る。

「ファイナルを通して、スリーの寄りよりもドライブをケアすることを優先していたんですけど、最後のあのワンプレーに関しては(ノースリーで)深くまで行ったのが素晴らしいと思いますし、ドライブされた後にペイントで争おうとしたんですけど、それをやめたんです。ノースリーで、2点取られたとしても延長戦だよねと指示しました。それをしっかり喋りながらやり続けたというのは、中学生でなかなかできないものだなと思っています。(3年生の)彼らが3年間やってきたものをしっかり出せたかな、自立していた部分が常にできていたかなと思いました」

 これも正に個の駆け引きから生まれた結果。残り9.7秒で後半2回目のタイムアウトを請求した末広コーチは、必ず永里か玉井にボールを預けること、改めて決められなくても延長ということを選手たちに伝えた。決まれば優勝、決められなくても延長という局面で、永里が強気なドライブでアタックするという個の力で打開した結果、残り4.3秒でファウルをもらったのである。

 永里のフリースロー1本目が決まった後、名古屋の選手たちは新たな駆け引きで動いた。秋田にタイムアウトが残っていないことを把握していた玉井と関口は、リバウンドのポジションに入っていく。2本目が外れた直後の奪い合いで秋田ボールのアウト・オブ・バウンズという判定になったものの、3.3秒まで時計は動いた。また、ロングパスをさせないように5人でディフェンスできる体制を名古屋が整えられたことで、秋田は3Pラインの数mうしろからランニングショットを打つしかなかったのである。

「あの冷静さには僕もすごく驚きました。簡単なことではないです」と末広コーチが語るくらい、名古屋の選手たちはしっかりと状況を判断してプレーしていた。介入しすぎることなく、選手の成長を妨げない個を重視したスタイルで結果を出したことで、33歳の若き指揮官が大きな自信を掴み、U15世代を育成することへの新たなモチベーションを手にしたのは間違いない。

「僕自身も3年間積み重ねてきたから今がある。今後もいろいろなことを積み重ねて、トライ&エラーを繰り返していきたいです」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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