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世界1位シェフラーが「誤解」で逮捕され、それでも全米プロ2日目を無事スタートした仰天の顛末 #ゴルフ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

5月17日(米国時間)の早朝、世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーが、全米プロ会場の目の前で、手錠をかけられ、逮捕・連行されたという驚きのニュースが世界中を駆け抜けた。

そして、約2時間後に釈放されたシェフラーは、今度は警官にエスコートされて全米プロ会場に戻り、なんとか2日目のスタートに間に合った。だが、それを「とりあえず良かった」と言っていいのかどうか。それさえも、今はまだわからない状況である。

複数の米メディアによると、17日の早朝、全米プロ会場であるケンタッキー州のバルハラCC前の道路で、全米プロ会場へ物品を搬入する業者の男性従業員がシャトルバスに跳ねられ、命を落とした。

その事故の影響で周辺道路は大渋滞。会場に向かっていたシェフラーも渋滞に巻き込まれたという。

だが、シェフラーの弁護士が後に出した声明によると、シェフラーは選手が大会から貸与されているコーテシーカーに乗っており、選手であることを示すクレデンシャルも外側から見える場所に置いた状態で運転していたため、1人の警官が中央分離帯に設けてあるUターン・レーンを通って進んでいくよう指示してくれたという。

しかし、クラブハウス近くまで進んだところで、今度は別の警官から「止まれ」の指示をジェスチャーのようなシグナルで出され、「そのとき、(シェフラーは)その指示を誤解し、逮捕につながった」と声明には書かれている。

最初の警官は「中央のレーンを進んでいいよ」と指示。その指示に従って前進していたシェフラーに、別の警官は「止まれ」をハンド・シグナルで示したが、シェフラーはそれを「止まれ」とは受け取らず、そのまま進んでしまった、ということのようだ。

警官の指示に従わず、車を止めなかったシェフラーは、すぐさまレックレス・ドライビング(危険運転)など4つの容疑で逮捕された。

手錠をかけられ、ジェイル(拘置所)へ連行されたシェフラーは、オレンジ色の囚人服を着せられてマグショット(顔写真)も撮影された。そのマグショットは瞬く間に全米へ、世界へと出回って、大騒動と化した。

手錠をかけられたのは午前6時35分。逮捕が記録されたのは7時28分。

手錠をかけた警官は、シェフラーが選手用のコーテシーカーに乗っていたこと、彼が選手であること、別の警官の指示に従って前進していたことなどは知らなかった様子だと一部の米メディアは報じている。

だが、いずれにしても米国では、警官の指示に従わない場合は即刻、「危険人物」「危険行為」とみなされ、逮捕されることは少なくなく、シェフラーの「誤解」によって、よりによって世界ナンバー1の選手が、よりによってメジャー大会の会場の目の前で逮捕されるという前代未聞の事態に発展した。

米スポーツイラストレイテッドによると、警官から停止するよう指示されても止まらなかったシェフラーの車を体を張って制止しようと試みた警官は、シェフラーの車に引きずられ、左手首と膝を負傷して病院へ緊急搬送されたとのこと。そして「80ドル相当の警官の制服は修繕できないほど破れてしまっている」とも記されており、そのためシェフラーは警官に対する暴行罪にも問われている。

だが、シェフラーの弁護士の声明では「シェフラーは何一つ間違った行動は取っていなかったと複数の目撃者が証言している」とされており、そこには大きな食い違いが見られる。

ともあれ、シェフラーは8時40分に拘束が解かれ、自由の身になった。そして、ほんの2時間前には警官から手錠をかけられて連行されたばかりだというのに、2時間後は逆に警官にエスコートされて、全米プロ会場へ急行。

9時12分にバルハラに到着すると、シェフラー自身も声明を出し、「(警官から)求められた行動を僕が取り違えるという大きな誤解があった。警官の指示を無視するつもりは決してなかった。この出来事は横に置き、今日のゴルフに集中したい」。

シェフラーの姿を目にした途端、リッキー・ファウラーは「大丈夫?」と声をかけ、シェフラーも「大丈夫」と笑顔さえ浮かべながら答えた。バルハラのギャラリーは「スコッティ!スコッティ!」とシェフラーを温かく迎え、軽くウォーミングアップしたシェフラーは10時08分に10番から無事ティオフ。

いきなりバーディーを奪い、リーダーボードを昇っていったところは、さすが世界一、さすがマスターズ2勝の強さを感じさせられた。

とはいえ、仰天の逮捕劇は後味が悪いドタバタ劇であり、シェフラーは全米プロをプレーしているものの、無罪放免となったわけではない。

米スポーツイラストレイテッドによると、米国の元地方検事のマーク・マーフィー氏は、逮捕されたシェフラーがすぐに自由の身となり、試合の場に戻ってプレーできていることは「スーパースターに対するスペシャルケース。いつもこうなるべきものだと思われてしまっては大いに困る」と眉をひそめ、ケンタッキー州の黒人社会からの反応などを併せて考えると、「ともすると一触即発の危険性を感じさせる重大な出来事」と重々しく語ったとのこと。

裁判所で行われるシェフラーの罪状認否は、全米プロ終了後の5月21日、午前9時に設定されており、その行方が注目される。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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