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【対談企画】「”生産性”を考えよう」井上一鷹×倉重公太朗 第5回 働き方改革はどこへ向かう?

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

(第5回 働き方改革はどこへ向かう?)

倉重:これまで、MEMEを使って、これは働き方改革における生産性を上げていこうという話をしてきました。今は働き方改革をいろんな企業がやっている中で、井上さんとしては、どうなったらいいなと思っていますか?

井上:まずはこれまで今申し上げたとおり、何を目指すかを決めることが重要ですね。仮説みたいなものを置いて、どうそれを検証してやっていくか。これはもう恥ずかしながらうちの会社もそうで、実はさっき申し上げたフリーアドレスだったんですね。今もある程度柔らかくは残っているんですけれども、フリーアドレスにするということを理由を立てていくと誰も理由を言えないんですよ。

倉重:なるほど。

井上:そういうことが多過ぎて。

倉重:何でこんなことをやっているんだっけな?というのをなくすということですね。

井上:何でかというのを突き詰めると、いろんな会社で聞いていくと、恥ずかしいことに働き方改革したほうがいいじゃんという言葉で終わったりするんですね。

倉重:循環論法ですな。

井上:そうです。何のためかっていったら、「いや、働き方改革でしょう?」みたいな。「それって理由を答えてないじゃん」みたいな。

倉重:そうですね。

井上:ということが起きるので、やっぱりそのイノベーションを起こすためにどういう設計にしたほうがいいとか、個々人のこういうその能力を発現したいからこういう制度を引くとか、そのためにはそれをうまくいっているか、いっていないかというのを何で測ってKPI管理するかみたいなやつを、そこまで堅く言い続けるつもりはないんですけれども、やっぱりその理屈が通っていないやつだと、みんな結構、今の日本人はみんな賢いので「理由分かんねえからやんねえわ」と。運用でグダッて終わるんですよね。

倉重:いい制度だと思って作っても全然魂入らないですね。

井上:そうです。なので、やっぱり何をしたいかということをはっきり決めて、それがうまくいっているかどうかをモニタリングする、この意識をちゃんと持つということが一番だと思うんです。

倉重:だからね、フリーアドレスをやるんだったら、ちゃんとコミュニケーションをこの部とこの部で促進させたいからということでやるなら分かるということですよね。

井上:そうです。

倉重:だからやっぱり集中というのと、コミュニケーションというのを分けて考えようという発想って、今までそんなに多くのオフィスでは持っていなかったんじゃないかなと思うんですね。

井上:そうですね。コミュニケーションを優先するというふうにここ10年、20年は進んできたので。その弊害が今出ているという感じですよね。

倉重:そこで井上さんが作ったラボがあるんですよね。

井上:そうです。「Think Lab」ですね。

Think Lab 公式HP

倉重:そのお話をお願いします。

井上:実は、今、世界で一番集中できるスペースをJINSが作っています。何でかというと、JINS MEMEをやっていて、集中を上げるためにJINSの一社員である僕がいろんな会社に眼鏡を持って行って皆さんの集中を上げましょうと言っていますと。

 そうすると、その営業先でよく言われるのが、「じゃあJINSさんの社員って集中しているんですか」と。

倉重:それは言われますね。「それはよほどできるんでしょうね」みたいな感じですよね。

井上:そう。「すごいんでしょうね」と。で、測ってみたんですね。そうしたらもうボロボロだったんですよ(笑)うちの会社の社員が、これも手前みそですけれども4年前に飯田橋のオフィスに本社を移して、日経が選ぶその年の一番いいオフィスに選んでいただいたようなオフィスなんですよ。

倉重:おお、すごい。

井上:それなのに、集中は全然できていなくて。

倉重:もう、コミュニケーションに寄っていたということですね。

井上:コミュニケーションに寄りまくっているんですね。それ自体はすごくいい効果を示しているんですけれども、やっぱり個々人からアイデアが出てこないという系の感覚にもつながるように。

倉重:深い集中というところまで行けないわけですね。

井上:はい。1人がしっかりものを考えるというふうに、オフィス設計がされていなかったんです。なので、じゃあデータも集まってきているし、何をすると人が集中するかということの研究が一番進められるのは、デバイスを持っている僕らなので。なので、じゃあもう本当に世界で一番集中できると思う仮説の空間を作っちゃおうと。で、去年の12月1日に作ったんですよ。それがThink Labです。

倉重:世界一集中できるオフィスですね。私も訪問させていただきましたが凄かったですね。

井上:東京に高野山を作ろうっていうコンセプトなんです。

倉重:高野山!?なぜ高野山なんです?

井上:これもなかなか話が逸れちゃうんですけれども。石川善樹というヘルスケアの先生と一緒にコンセプトワークをして、石川さんが日本で一番最初に集中に悩んだのは空海だと言い切ったんですね。

 それは何かというと、空海というのは超天才で、ものすごい集中力があったと。で、日本でそのすごい人だから密教の教えを中国に行って、20年かかるその教えを2年で習得して帰ってきている超天才らしいんですね。で、その20年分のその情報をガッと2年でインプットして帰ってきたので、その時に空海が感じたのが「あれ、俺、集中できない」と。要は情報が氾濫し過ぎて外からのインプットが多過ぎると、自分の中でちゃんとこれをマイニングしてものを考える、この力が衰えるんですよね。

倉重:インプットするだけじゃ駄目なんだね。

井上:これが今の僕らと一緒なんですよ。

倉重:ああ、情報にあふれていると。

井上:いつだってスマホが鳴り、いつだって「ちょっといいですか」をやられ。

倉重:常に集中できませんね。

井上:もうずっとね、情報が入ってくる。なので、僕らは空海と同じ状況に入っているんですね。

倉重:なるほど。国民総空海状態。

井上:そう。そこまでみんなが天才ではないですけれども。その時に空海は高野山という、あえて不便な場所にこもるという形で情報を遮断しているんですよね。だから、その山ごもりするとかそういう感覚って、やっぱり自分と向き合うという言葉までいくとだいぶ意識高いですが、そこまで言わなくても情報を遮断しているんですよ。その空間を作らない限り、やっぱり僕らはずっと23分の前にインターセプトされているんで。邪魔されちゃう。

倉重:23分の集中というものをあえて作るということですね。

井上:そうです。だから東京にないんで、その空間を作ろうと。

倉重:私も行きましたけれども、入り口も神社の境内みたいになってますよね。

井上:そうなんですよ。参道を意識して造ってます。

倉重:なんかこう、入り口はだんだん先が細くなっていって、その先に一点の光があるみたいなイメージですよね。

井上:そうそう。

倉重:あれも意識して作っているんですね?

井上:はい。真っ暗な参道を作って、25メートルを1人でゆっくり真っ暗な道を歩くと。それによって緊張感を高めてから、ぱっとリラックスするような開放的なフロアに入る造りになってます。この緊張からリラックスという流れが2~3年前にはやったルーティンという言葉ですね。アスリートって何らかのルーティンをして集中しているじゃないですか。ルーティンって全部緊張からリラックスというルーティンが組めていると、本当に効果を示しているという研究があって。

倉重:なるほど。

井上:僕らでもオフィスワーカーが1人ずつイチローさんみたいだとか、五郎丸さんみたいに持っていても気持ち悪いんで。もう空間上、ここを通ったらそれと同じ効果を示せるという場所を作ってみたという。なので、これ自体もどんどん進化させたいなと思ってラボという考え方でやっていますね。

倉重:やっぱり集中に特化したという設計って、今まであんまりなかったですよね。

井上:そうですね。

倉重:なので、今、各企業のテレワークとかもこれからどんどん増えていくと思うので、ちゃんとその際にはコミュニケーションをする場なのか、それとも集中する場なのかというのをちゃんと分けて、何でも制度も含めて考えていかなきゃいけないですね。

井上:そうですね。もうちょっと言っていいですか。

倉重:是非どうぞ。

井上:これね、場所を分けるだけじゃなくて時間を分けることが大事で。これは僕が最近よく言っているんですけれども、スケジューラーを見ると会議の時間から絶対に埋まっていくんですよ。これは何でかというと、人を押さえなきゃいけなくて、会議室を押さえなきゃいけないんで。変数が多いものから先に固定していかないとスケジュールって組めないんで。

倉重:確かにそうですね。人数が多いと会議の日程調整だけで時間使いますね。

井上:でもイノベーションを起こすためには、集中とコミュニケーション、同じだけ大事なんです。それなのに、じゃあ僕のスケジュールを見て、みんなどういうことを言うかというと、「空いている?」って言うんですね。

倉重:ああ。暇しているわけじゃねえんだよみたいなことですね。

井上:そうそう。会議以外の時間は「空いている」という表現をするのが間違っていて。

倉重:なるほど。

井上:会議と同じだけ大事な集中を予約していないことが問題なんですね。

倉重:じゃあ、井上さんは今、集中時間とかと書いているんですか?

井上:僕は書いています。僕はもうこの同じだけ、できるだけ4時間を本当は集中したいんですけれども、8時間中の半分ね。なんですけれども、多分、仕事上、どっちかというと、僕自体はコミュニケーション側の人間なんですよ。なので、2時間は少なくともその時間を取るというふうに決めていて。

倉重:毎日。

井上:そうです。

倉重:話し掛けるな時間を作っているんですね。

井上:そうです。それでも話し掛けますけれどもね。

倉重:居るとそうなりますよね。

井上:それでも人は本当に話し掛けるんで、空間も時間も切り分けるのが最高なんですが、その意識を持たない限り、やっぱり本当のパフォーマンスは出しにくいなと思ってます。

倉重:でもやっぱり少なくとも意識して、この2時間は集中してこれをやろうとか、自分の中でそうやって意識するだけでも集中力って違いますよね。

井上:あと、やっぱりMEMEで測るとまさに面白いのが、何をするって宣言してから集中したほうが集中が高いんですよ。人ってやっぱりマルチタスクを推奨されてきちゃったので、すぐメールが気になったり。

倉重:ですね。ついつい見ちゃいますね。

井上:ほかのことをしちゃうんですよね。「あ、ポップアップ上がっちゃった」みたいな。

それやるだけで集中がむちゃくちゃ落ちるので。

倉重:確かにそれはわかります。

井上:もうこの1時間、これしかしないという、そのシングルタスク化するというだけで本当にパフォーマンスが上がるので。

倉重:もうWi-Fiも切れってことですね。

井上:そうです。それが一番ですよ。Wi-Fiを切ってスマホを裏返すと。

倉重:なるほど。

井上:スマホを裏返しているやつには、「ちょっといいですか」しないと。

倉重:話し掛けるなルールですね。

井上:これは本当に法案通してほしいぐらいです(笑)いや、本当そうですよ。これは本当に大事です。

倉重:それは分かりやすくていいですよね。「今ちょっと駄目だから」「あ、そう」「あ、裏返っているから今、話し掛けちゃ駄目だ」みたいにね。

井上:それをやってほしいですね。

倉重:本当ですね。働き方って今、変わりつつある最中なんで、だから井上さんみたいにまず見える化しようとか、その上で目的を持っていろいろやってみようというのは、すごくどんなオフィスでも試すべきことだと思います。(最終回へつづく)

【対談協力】井上一鷹

JINS JINS MEME事業部 事業統括リーダー Think Lab兼任

大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。JINS MEME Gr マネジャー、Think Labプロジェクト兼任。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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