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「金正恩訪露」でのロシアからの武器購入は国連制裁下では不可能

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
初の露朝首脳会談を行うプーチン大統領と金正恩委員長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 金正恩委員長のロシア訪問を巡って様々な憶測が流れている。

 その一つに、李永吉軍総参謀長が随行していることから「ロシアとの軍事交流の拡大及び兵器の購入も訪露の目的ではないか」というものもある。

 確かにウラジオストク滞在中に太平洋艦隊基地の視察が予定に入っているが、父・金正日総書記も2002年8月(2回目の訪露)にウラジオストクを訪れた際にこの基地を視察しているので、目新しくも、特異なことでもない。

 北朝鮮にとってロシアの前身の旧ソ連は1990年までは最大の交易対象国であり、戦略物資供給基地でもあった。しかし、旧ソ連崩壊後ロシアが貿易取引で現金決済を要求したことで貿易量が急減。特にロシアが1989年9月の国交樹立を機に韓国に急接近し、経済協力を拡大したことで、露朝関係は相対的に停滞を余儀なくされた。

 貿易規模は2001年の時点で91年の6分の1の水準、約1億5千万ドル程度にまで落ち込んでしまった。それでも、旧ソ連時代も含めて初の最高指導者としてのプーチン大統領の訪朝(2000年7月)と、翌2001年の金正日総書記のこれまた初の訪露(7月)で関係は徐々に修復された。

 「プーチン訪朝」では▲両国間の親善及び協調関係の確認▲侵略行為があった場合の即時相互接触▲NMD(迎撃ミサイルシステム)及びNMD(米本土ミサイル防衛)体系への反対▲経済協力の正常化及び産業分野の協力強化▲国際的犯罪及びテロ防止のための相互協調など11項目に及ぶ共同宣言(「平壌宣言」)が出された。

 「金正日訪露」でも8項目からなる「モスクワ宣言」が発表されたが、「平壌宣言」に比べ3項目少なかった。駐韓米軍の問題とシベリア横断鉄道(TSR)と朝鮮半島縦断鉄道(TKR)の連結の重要性は盛り込まれたものの「平壌宣言」の「侵略行為があった場合の即時相互接触」条項は削除されていた。 

 ロシアは安全保障面ではかつての「軍事同盟」を解消し、南北等距離外交にシフトした。その結果、1961年に旧ソ連との間で結ばれた「友好協力条約」は2002年2月のイワノフ外相の訪朝で「新友好協力条約」に衣替えをせざるを得なかった。

 「平壌宣言」には「締約一方は、締約相手方の主権、独立及び領土保全に反するいかなる行動、措置も取らない」ことが明記されており、「モスクワ宣言」にも「北朝鮮のミサイル計画は平和的計画を帯びており、北朝鮮の主権を尊重する国には脅威とならない」ことが謳われている。

 しかし、実際にはいずれも死文化している。ロシアは北朝鮮が「自主権の問題である」と主張する核・ミサイル開発に反対し、「宇宙の平和利用である」と正当化している人工衛星の発射でも非難し、国連安保理の制裁決議に賛成してきた。

 両国はもはやかつてのような同盟関係にはない。ソ連からロシアになって北朝鮮への武器供給も一方的な援助という形式でなく、現金決済方式となっている。

 故金正日総書記は2001年の初の訪露の際、オムスクあるT-80戦車製造工場を視察したほかスホイ-34戦闘機製造工場を見学していた。

 当時、両国間ではS-300地対空ミサイルや対空レーダーシステムなど10余種類のロシア製先端武器の売却問題が話し合われていた。特に北朝鮮はS―300地対空ミサイルの導入とSU-27戦闘機もしくはMIG-29戦闘機のどちらかの組立生産を欲していた。対空防御網の強化のためのS―300迎撃ミサイルは喉から手が出るほど欲しがっていた。しかし、ロシアは北朝鮮の支払い能力に問題があり、武器売却交渉はいずれも不調に終わっていた。

 金正日総書記は亡くなる4か月前の2011年8月にも金英春人民武力相及び軍需担当の朴道春党書記と朱圭昌党部長らを引き連れ10年ぶりに訪露し、メドベージェフ大統領との首脳会談を前に東シベリアのウランウデにある航空機工場、アビア・ジャボドなどを視察していた。アビア・ジャボドはスホイやミグ戦闘機をはじめMI-8,MI-171などの軍用ヘリコプターなどを生産する工場として知られている。 しかし、この時も兵器を購入することはできなかった。

 仮に、北朝鮮に購入資金があったとしても、また、露朝間に軍事技術分野での協定があったとしても現状は、北朝鮮への武器販売や輸出を禁じた国連制裁決議が撤回されない限り、ロシアとしては武器の売却も軍事技術の協力もできないだろう。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は昨年7月、国連安保理の対北制裁決議を履行するためあらゆる軍事技術の協力を中断することを表明しているからだ。

 しかし、仮に金正恩委員長がプーチン大統領に核放棄を確約し、ロシアが提唱する6か国協議で非核化が進み、国連の制裁が緩和、もしくは解除されるようなことになれば、ロシアは最新兵器の売却に踏み切るかもしれない。金委員長の今回の訪露はそのための布石と考えられなくもない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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