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「M-1グランプリ2007」準優勝の「トータルテンボス」が明かす「M-1」で自分たちが負けた意味

中西正男芸能記者
「M-1グランプリ」への思いを語る「トータルテンボス」の大村朋宏(右)と藤田憲右

 「和牛」「ミキ」ら決勝常連組が準決勝で敗れ、波乱の展開を見せている「M-1グランプリ」。2007年に「M-1」で準優勝したお笑いコンビ「トータルテンボス」が今だからこそ語れる大会への思いを明かしました。「『M-1』は甲子園みたいなもので、青春でした」と振り返る大村朋宏さん(44)、藤田憲右さん(43)が「僕たちが優勝しなかったのには意味があると思うようになりました」と今の本音を語りました。

10年と15年

 藤田:僕はずっと野球をやってきて、今でも草野球のチームを作って年間30試合くらいはやってるんですけど、今思うと「M-1」って高校野球の“甲子園”みたいなものだったなと思います。

 甲子園は高校3年間しか目指せない。「M-1」も目指せる期間が決まっている。そして、甲子園で活躍しても、全員が必ずプロのスター選手になれるわけではない。このはかなさというのかな、当事者にとってはすごく大変なことでした。ただ、今から思うと、そのはかなさも良かったのかなと思いもします。

 大村:僕らの時は出場資格の区切りが10年で、さらに若さがほとばしる感じがあったかなと。まさに青春という感じでしたね。

 藤田:今は区切りが15年。もちろん、それはそれで意味もあるし、流れもあることだったと思います。ただ、僕らは10年の時の「M-1」しか体感してないし、どうしてもそこへの思い入れがある。

 当時は“発明の『M-1』”だったと思うんです。若い人が独自の発想を見せる。今までになかった形を見せる。拙さがあったとしても、それ以上に若者の熱意みたいなものがあったのかなと。

 15年になると、40歳前くらいの人も普通に出てきて、こうなると、また競技が違ってくる。発明よりも、練り上げられた技術力勝負になるというか。

 重ねて言いますけど、それはそれで意味もあるだろうし、良い悪いじゃない。ただ、この5年の差で、技術力がある人間が勝ちやすくなる戦いにはなったと思います。

 大村:技術プラス面白さですもんね。だから、今はレベルがとんでもないことになっちゃってる。僕らが「笑い飯」「千鳥」「麒麟」らとやりあっていた時とは、全然違いますから。

 15年でなく、もし10年で区切ったとしても、レベルは上がっていると思います。確実に面白くなってますもん。ただ、手前味噌ながら、そこに少しは僕らも関係しているというか、過去の「M-1」で先人たちがいろいろなものを発明し、そこを磨いてきた流れを今の人たちは見て、そこをスタートラインにできる。だから、今の人たちがものすごく面白いのも然るべき流れだなとは思います。

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優勝しなかった意味

 藤田:今になってまた思いますけど、やっぱり「M-1」はデカいですよ。僕にとって、最初はきっかけに過ぎなかったんです。「あれに出たら売れる!」という。頑張るため目の前にぶら下げるニンジン的な感じで。

 ただ、そうやって本気で漫才に取り組むことによって、漫才の勉強をするようになる。すると、もっと漫才のことが好きになる。結果、売れるためのきっかけではなく、漫才が好きになるきっかけを「M-1」にもらいました。

 もちろん、実際、良い思いもたくさんさせてもらいましたしね。最初に決勝に行った頃(2004年)はまだバイトもしてましたけど、決勝に出てバイト生活ともおさらばできた。どこまでも、大きな流れをもらったと思います。

 大村:もちろん優勝したかったです。そのためにやってきましたから。ただ、1位ではなく2位というのにも意味があるのかなとも思います。自由というか、1位の“絶対にヘタはこけない”という枷(かせ)がないというか…。

 藤田:あとは、相手だと思いますね。負けた相手が「サンドウィッチマン」で良かったと思います。当然、悔しさはありましたけど、あいつらは今や好感度ナンバーワン芸人にもなった。あれが他のコンビだったら、もっと、ただただ悔しかっただけだと思いますけど、やっぱ、ヤツらがあそこで優勝したからこそ今がある。

 もちろん、あいつらが面白かったから優勝したんです。それが大前提で、それ以外、根本的にはないんです。でも、何なんですかね、今になって思うと「あそこでどちらが優勝していた方が世の中に貢献できたんだろう」という感覚も出てきて、そう考えると、絶対的にあいつらだよなと。自分でも不思議なところもありますけど、今、そんな思いにもなってきたんですよね。

 大村:ま、オレたちが優勝しても、好感度ナンバーワン芸人には絶対になってないですからね(笑)。あそこまで売れてもないと思いますし。変に物分かりが良くなったわけではないんでしょうけど、それは思います。

競技としての進化

 藤田:ある若手が昔の「M-1」の映像をふと見返した時に、驚いたらしいんです。面白くないと。これって、すごく刺激的で不遜な言葉に聞こえるかもしれませんけど、それが正直な思いだと思います。

 スポーツもそうですけど、年々記録は上がっていくし、レベルも上がっていく。競技は年々進化するものですから。オレも、この前、サッカーの“ドーハの悲劇”の試合を見返してみたんですけど、今のサッカーの感覚からしたらスピードもないし、驚きましたもん。

 日々、今の選手はこれまでの選手の積み重ねを踏みしめて次を目指しているんですから、そりゃ、そうなりますよね。だから、今、オレたちが「M-1」に出ても、勝てる気がしないです。

 大村:ただ、そこで“今の僕ら”が出てもお手上げだと僕は思いたくないですけどね。2007年の時の僕らが今の大会に出たら厳しいかもしれません。でも、2019年の僕らはその頃よりもレベルは上がっていると思いますし、僕らも過去の積み重ねをもとに次を目指し続けてますからね。

 具体的に言うと、2007年で当時の「M-1」の出場資格がなくなって、目標を見失ったところもありました。だけど、そこからも全国ツアーをやり、日々ネタを作ってきました。

 その中で、5年ほど前からですかね。“幅広い層を笑わせる”という大変さにぶつかり、なんとかそこをぶち破ろうと思って、やっと最近、そこの光が見えてきたんです。そういう面では、進化しているのかなと。

 これまでは自分たちと同じ世代かそれより少し若い世代を笑わせるということが圧倒的にメインでしたけど、そのままいくと、僕たちで笑ってくださる層がすごく狭いまま推移してしまう。なんとか、そこを広げる。それがやっと見えてきたかなと。

 藤田:本当にそうなんだと思うけど、だいぶ、まじめな話をガッチリしてるよな(笑)。ま、でも、どうしても熱がこもってしまうのが「M-1」の話なんですよね。

 大村:ただ、野球の話になった時の藤田の真面目さには負けるけどね。そのモードになったら「お前、正気か」と思うくらい、何一つ、面白いこと言わないから(笑)。

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(撮影・中西正男)

■トータルテンボス

1975年4月3日生まれの大村朋宏(おおむら・ともひろ)と75年12月30日生まれの藤田憲右(ふじた・けんすけ)が98年にコンビ結成。静岡の小中学校の同級生で、ともにNSC東京校3期生。2004年、06年、07年と「M-1グランプリ」で決勝に進出し、07年は準優勝。野球好き芸人としても知られ、子どもたちに野球の楽しさを伝えるイベント「よしもとエンジョイベースボール~ひたすらに野球を楽しむイベント~」(12月22日、明治神宮野球場)にも参加する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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