あつーい夏にも心が涼む鍾乳洞と数々の滝めぐりを満喫 奥多摩「関東ふれあいの道」トレッキング
△マイナー登山道をあるく△(0007)
首都圏の山岳丘陵地帯をぐるりと結んで歩くことができる「関東ふれあいの道」のうち東京都内に設定されたトレッキングルートのひとつ。東京都にも森、滝や渓谷など豊かな自然と景観があることを実感できます。
<趣意>
あまりメジャーではないマイナーな登山道。ちょっと気になってはいたもののなかなか行く機会のなかった山道を歩いてみました。
<関東ふれあいの道「鍾乳洞と滝の道」の魅力>
(1)渓流と滝の道
「関東ふれあいの道」として設定されているルート上は前半と後半どちらも渓流・渓谷歩きが楽しめてさらにいくつもの滝を間近に観望できるスポットにも恵まれています。
(2)馬頭刈尾根に連なる”つづら岩”
五日市方面から御岳山・大岳山へ繋がる馬頭刈尾根の途中にそびえる長い岩壁は見上げればなかなかの迫力があります。またその近辺が露岩帯となっておりちょっと歩き応えのある登山道となっています。
<概要>
関東ふれあいの道・東京都「5.鍾乳洞と滝の道」
所在地: 東京都あきる野市、西多摩郡檜原村
”関東ふれあいの道”は環境省の長距離自然歩道構想に基づき首都圏の各自治体により整備されたトレッキングコース。首都圏自然歩道ともいう。
「大岳鍾乳洞入口」バス停から「千足」バス停までの間の渓谷と馬頭刈尾根を結ぶルート。距離はおよそ9km強。
<トレッキングコース>
「大岳鍾乳洞入口」バス停を起点に大岳沢を経て馬頭刈尾根に上がり、つづら岩まで稜線を歩いて綾滝、天狗ノ滝と続く渓流に沿って「千足」バス停に下山するルート。”関東ふれあいの道”として設定されている行程とは逆の順路。最後は設定ルートから足を伸ばして払沢ノ滝に立ち寄ります。
■養沢神社から大岳沢・大滝まで
「大岳鍾乳洞入口」バス停からスタートです。すぐそばに養沢神社があります。大正の頃に合祀により創建されたそうですが、土地柄のせいでしょうか荘重な雰囲気に包まれています。鳥居の左右にたつ龍を模したような石像が印象的。赤い大岳橋の脇から簡易舗装の林道へ入ります。
およそ30分ほど歩くと大岳鍾乳洞に到着です。せっかくですので立ち寄ってみました。洞内は一周約30分。大きな鍾乳石などはありませんが、身をかがめて手を使わないと通り抜けられないような狭い通路もあり、さながら洞窟探検の気分が味わえます。洞内には豊富な水の流れもあり、まだ生きている鍾乳洞であることが分かります。
大岳鍾乳洞を出て登山道を先へ進みます。林道が終わるといよいよ山道が始まります。苔むした岩も多い渓流沿いの道がしばらく続きます。近場でいいますと御岳山のロックガーデンよりも手付かずの自然に近いシチュエーションといった趣きです。奥へ進んでいくといよいよ大滝です。落差30mほどあるそうで、とくに落水の勢いが非常に強く対面の岩壁にぶつかる音とともになかなか迫力があります。
■大滝から馬頭刈尾根と富士見台まで
大滝をぐるっと高巻きするように滝上に登り切ります。青い空の下、新緑と涼しげな沢の流れが心地よい道を進みながら徐々に高度を上げていきます。やがて渓流から外れてついに馬頭刈尾根の斜面に取り付きます。直登気味に斜面を登り詰めていきます。このときはアジサイたちが小さな花をたくさん咲かせていました。息が切れますが可憐な花にすこし心を慰められます。
アジサイの群落が終わり、後半の雑木林のなか木の階段路が断続し稜線へ詰めていきます。ようやく右手に、馬頭刈尾根に連なるであろう山が見え始めて、周囲にササダケが出てくるとやっと稜線に上がってくることができました。馬頭刈尾根を右手へ進めば大岳山へ、左手に進めば”つづら岩”のある「関東ふれあいの道」のルートです。
ササダケのなかの稜線を進みます。右手には麓の集落も見えています。しばらく稜線を歩いていくと木立の間に富士山の姿を拝むことができます。この先に富士見台という展望スポットがあり三か所ほど見晴らしの良いところがあります。富士見台には東屋もあり格好の休憩適地となっています。富士見台は大怒田山(おおぬたやま)というピークに該当するようです。
■富士見台から”つづら岩”そして綾滝まで
富士見台の先でちょっとした露岩を越えると左手にピラミディカルな山が見えます。山容からすると大岳山でしょうか。鉄梯子もかかる急斜面のゾーンを抜けると、その先の正面に大きな岩壁が立ちはだかります。”つづら岩”です。岩壁を左手にその基底部につけられた道をトラバースするように進みます。”つづら岩”はけっこう長い岩壁になります。見上げるとクライミングする人なら登ってみたくなりそうにそびえる壁です。
”つづら岩”が終盤に差しかかると分岐点です。そのまま稜線伝いに進むルートは十里木(日帰り温泉施設「瀬音の湯」がある)にもつながっています。右手に斜面を下っていく道が今回の「関東ふれあいの道」のルートになりますので、”綾滝・天狗ノ滝”と記載のある道標に従い下っていきます。
綾滝まではかなりな急斜面が続きます。しばらく下っていくと綾滝が現れます。岩壁に沿ってゆったりと水が落ちてくる風情。沢に深みがあるので滝壺へは近づくのは難しそうです。むしろすこし下った位置から見上げる方が全体像の見栄えがよさそうです。綾滝を過ぎて天狗ノ滝に向かってふたたび下ります。
■綾滝から天狗ノ滝を経て「千足」バス停まで
綾滝から先は渓流沿いの道が続きます。途中で渡渉点が何ヶ所かあります。沢沿いにぐんぐんと下っていくとやがて木立の合間に天狗ノ滝が視界に入ってきます。天狗ノ滝を通らない巻き道もありますが、せっかくですので滝へ向かいます。足元が不安定な急斜面を下りきると右手に天狗ノ滝の全容が見えてきます。
天狗ノ滝はなかなかの大迫力を実感できます。ワイドに流れ落ちてくる滝までかなり近づくけます。水しぶきと涼しげな空気があたりに漂っています。渓流を対岸に渡り高巻きするようにいったん上がってふたたび下ると左手に小天狗ノ滝になります。天狗ノ滝と小天狗ノ滝は多段階構造のようになっています。その中間の踊り場のような沢を渡渉してきたことになります。
小天狗ノ滝を過ぎて道を下れば舗装された林道に合流します。林道を下っていき都道205号線に出て左手に少し歩けば「千足」バス停です。「関東ふれあいの道」のルートはここまでです。武蔵五日市駅と藤倉の間を路線バスが運行しています。運行本数が少ないですがタイミングがよければここからバスに乗車して帰路についてもいいでしょう。
■「千足」バス停から払沢ノ滝まで
今回は滝見がメインの登山ですのでせっかくですから締めに払沢ノ滝を見に足を伸ばしたいと思います。都道205号線を武蔵五日市駅方面へ歩きます。15分ほどで「払沢の滝入口」バス停にたどりつきます。人気のお豆腐屋さん「ちとせ屋」脇から分岐した坂を上がっていき払沢ノ滝へ向かいます。大きな看板がありますのでこれに従い沢沿いの道へ入って20分ほど進むと左手に滝が姿を現します。
沢沿いの道は整備されており格好のお散歩道といった雰囲気です。滝の近くになりますと濡れた岩床を歩きますが比較的近く滝へ寄ることもできます。払沢ノ滝は数段に断続しておりすべて合わせると落差は60mほどになるそうです。奥多摩を代表する滝のひとつになります。撮影もいい感じで撮り放題。ふたたび道を戻り「払沢ノ滝入口」バス停が今回のゴールです。
[行程表]
※標準的タイムによる目安(休憩含まず)
「大岳鍾乳洞入口」バス停→ 大岳鍾乳洞(30分)→ 大滝(30分)→ 馬頭刈尾根・稜線(80分)→ 富士見台(15分)→ つづら岩(30分)→ 綾滝(40分)→ 天狗ノ滝(20分)→ 林道(20分)→ 「千足」バス停(10分)→ 「払沢の滝入口」バス停(15分)→ 払沢ノ滝(20分)→ 「払沢の滝入口」バス停(20分)
コースタイム/ 5時間30分程度
標高差/ 800m程度(大岳鍾乳洞入口バス停:360m、馬頭刈尾根合流点:約1060m、「千足」バス停:290m)
<トレッキングコースの補足>
要所に道標があるので迷うことはあまりないと思います。ただし渡渉点などは分かりづらいところもあります。小さく目立たない道標しかないため見落とさないように注意が必要です。
[水場やトイレなど]
水場は登山道上にはありません。
トイレは大岳鍾乳洞入口バス停、千足バス停手前の林道途中、払沢の滝入口バス停、払沢ノ滝遊歩道入口にあります。
[難易度・危険個所など]
とくに大きな難所や危険個所などはあまりありません。
渡渉点がいくつかあり川の中に足を踏み入れるところもあります。苦手な方はストックがあった方がいいかと思われます。雨中や大雨後は水量が増えたり川の流れが変わって渡渉しやすいポイントが変わることもありますので周囲をよく確認してください。川の中の石は浮石もあるので踏む際には注意が必要です。
馬頭刈尾根に取り付く斜面はどちら側も急傾斜を直登気味に登り上げます。
[アクセス]
●往路
JR五日市線「武蔵五日市」駅から路線バス(西東京バス)で「大岳鍾乳洞入口」バス手まで約30分。
●帰路
「払沢の滝入口」バス停から路線バス(西東京バス)でJR五日市線「武蔵五日市」駅まで約25分。
《補足》
「大岳鍾乳洞入口」バス停への路線バス(上養沢行き)の車両は小型のため大人数によるグループ登山の場合は注意が必要です。
[コースマップ]
東京都がパンフレットとコースマップを提供しています。本記事末尾の参考リンク欄をご参照ください。
<関連情報>
[売店等]
大岳鍾乳洞には売店がありドリンク類を販売しています。
千足バス停、払沢の滝入口バス停には自動販売機があります。
「ちとせ屋」
払沢の滝入口バス停そばにある豆腐店。豆腐ドーナツ、豆乳や豆腐アイスなどを販売しています。
[日帰り温泉など]
瀬音の湯 武蔵五日市駅行きバス「十里木」バス停そば
[お食事処]
払沢の滝入口バス停から滝への遊歩道の間にレストランやカフェが3軒ほどあります。
”瀬音の湯”内には食堂があります。
「寿庵忠左衛門」 蕎麦/武蔵五日市駅
「ほうとう佐五兵衛」 ほうとう/武蔵五日市駅
「黒茶屋」 懐石・割烹/武蔵五日市駅
[付近の山]
御岳山・大岳山
日の出山
浅間尾根・浅間嶺
三頭山
関東ふれあいの道
<こんな方にオススメ>
(1)滝が好き
(2)渓流沿いの道をトレッキングしたい
(3)鍾乳洞などの地質や地学に興味がある
<私的な雑感>
関東ふれあいの道「鍾乳洞と滝の道」は数多くの滝を間近で観望しその迫力を実感できる滝巡りのトレッキングコースという印象です。
今回は”関東ふれあいの道”で紹介されているルートとは順路を逆にして歩いています。理由としては武蔵五日市駅~上養沢間のバスの運行本数が少ないためです。タイミング悪くうっかり乗り逃がしてしまいますと、何もないような場所で2時間待ちなどになりかねません。払沢の滝入口バス停であれば1時間に1本ほどの間隔でバスもありますし近くにお茶でも飲みながら過ごせるお店もあります。
今回のルートで難点を挙げるとしますと、ルート上にこれといったピークはありません。今回ご紹介したスタート地点やゴール地点のどちらから登ったとしても馬頭刈尾根の稜線に登りあがりますが、その間に際立った山頂があるわけではありません。ピークハントがない登山やトレッキングに興味がない方には物足りないかもしれません。そのためでしょうか、”関東ふれあいの道”として整備されていますが、歩かれる方は少ないようです。
馬頭刈尾根への登降を除けば、どちら側から歩き始めても前半と後半どちらも渓流歩きを楽しめるところがこのルートの大きな楽しみのひとつといえると思います。前述もしましたが、奥多摩・御岳山のロックガーデンのバージョンアップ版といった風情です。奥武蔵の棒ノ折山の白谷沢コースや山梨県の西沢渓谷などの渓流・渓谷歩きが好きな方にはとても楽しめるルートではないかと感じます。
そんなわけで、関東ふれあいの道「鍾乳洞と滝の道」は静かな渓流歩きを満喫できて、そこにちょっとガッツリとした登坂をスパイスとして加味して楽しむことができるトレッキングコースといえると思います。
<関連記事>
奥多摩湖からの急登に奮闘 三頭山・ヌカザス尾根トレッキング (Yahoo!ニュース)
ヤマトタケル伝説が息づく奥多摩・御岳山奥ノ院トレッキング (Yahoo!ニュース)
<参考リンク>
関東ふれあいの道・東京都 (東京都環境局)
あきる野市観光協会 ※公式サイト
檜原村観光協会 ※公式サイト
奥多摩ビジターセンター ※公式サイト
(2024/07/10 上町嵩広)