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サイクロン「セロジャ」インドネシアと東ティモールで死者160人、次は『藤原効果』か

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
オーストラリア気象局出典。7日のHimawariの画像。

4月はじめ、インドネシアと隣接する東ティモール土砂災害や洪水が発生し、多数の犠牲者が出ました。残念ながら、死者数が日に日に増えています。

7日(水)時点の死亡者数は160人(インドネシア133人、東ティモール27人)ですが、いまだに多くの人々が行方不明となっています。

特に被害が大きいと言われているのが、インドネシアのレンバータ島です。ロイターによると、この島では先月火山噴火が起き、地面を覆った溶岩の塊が今回の大雨で一気に流され、300軒の家屋を直撃したとのことです。多数の住民が土砂の下敷きになっている可能性があります。

迅速な救助が待たれますが、橋が壊れたことや、道路が寸断されているために作業は困難を極めています。そのうえ避難所は被災者で混みあっており、新型コロナウイルスの感染リスクも高まっているとも伝えられています。

こうした非常事態にもかかわらず、記者会見の場でインドネシアのウィドド大統領が、著名なユーチューバーの結婚式を優先して言及したため非難を浴びています。

48時間で9か月分の雨

ところで、どれほどの大雨が降ったのでしょうか。

インドネシア気象局によると、例えばクパンという町では3日(土)から4日(日)までの24時間で241ミリ、次の24時間で332ミリもの大雨が降ったようです。つまり48時間で573ミリで、これは4月の月間降水量の8.8倍、また年間降水量の4割に相当します。

NASAの4日の衛星画像に筆者加筆
NASAの4日の衛星画像に筆者加筆

過去13年で最大のサイクロン

大雨の最大の要因は何でしょうか。

サイクロン「セロジャ(Seroja)」です。セロジャは、インドネシア語で「蓮(ハス)」を意味します。上の4日(日)の衛星写真からは、そのサイクロンが被災地を覆っている様子が分かります。

インドネシア気象局によれば、2008年から数えてこれまで10個のサイクロンがインドネシアに接近しましたが、セロジャはその中でも最強の勢力で陸地を直撃したとのことです。

起きるか「藤原効果」

今セロジャが、別の意味で注目されています。セロジャのすぐ南の海上には、低気圧が発生しているのですが、これによって「藤原効果」と呼ばれる現象が起きるのではないかと関心が寄せられているのです。

「藤原効果」とは、2つ以上の台風が1,000キロ以内に存在するときに、互いの動きを干渉し合って予想できない複雑な動きをする現象です。一般に故・藤原咲平博士が提唱したとされ、英語では「Fujiwhara Effect」と呼ばれます。

ではどのような動きを取るのでしょうか。

豪州気象会社のWeatherzoneは、低気圧の方が360度回転するという不気味な動きを見せた後セロジャに吸収され、そのセロジャがオーストラリア西部を直撃すると予想しています。幸いにしてインドネシアにサイクロンが逆戻りすることはなさそうですが、今後はオーストラリアが大雨の影響を受けることとなりそうです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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