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ニッポン男子バレー復活へ 元セルビア代表「デキ」からのメッセージ

田中夕子スポーツライター、フリーライター

バレーボールの国内シーズンを締めくくる第64回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会を最後に、ユニフォームを脱ぐ選手がいる。

先日チームのホームページで引退が発表された佐野優子や井上香織など、ロンドンオリンピックで銅メダルを獲得した名選手たちに加えてもう1人、7シーズンに及ぶ日本でのプレーを終え、現役生活にもピリオドを打つ、1人の外国人選手。

東レアローズのオポジットで、元セルビア代表のデヤン・ボヨビッチだ。

日本で7シーズンプレーした元セルビア代表

2000年にセルビアリーグのレッドスターベオグラードに入団し、その後、ギリシャやイタリアでプレーした。05年からセルビア代表に選出され、08年の北京オリンピックにも出場。

東レアローズに移籍したのは、北京オリンピックの直後である08/09シーズンだった。

打点の高さやスピード、巧みな攻撃パターンに加え、温厚な人柄の親日家。チームメイトからも「助っ人外国人というとプレーは良くても、我を通すばかりで扱いづらい選手が多い中、デキ(ボヨビッチの愛称)は全くそういう面がない」と性格面でもチームにフィットし、移籍直後の08/09シーズンではVプレミアリーグ優勝に貢献、MVPも受賞し、以後、7シーズンに渡り東レアローズの不動のオポジットとして活躍した。

ユニフォームを脱ぐなら日本で。自身の現役生活のラストに選ぶほど日本に愛着があり、Vプレミアリーグのみならず、「1人のオブザーバーという程度で聞いてほしい」と謙遜しながらも、日本のバレーボール界に対する思いも、人一倍熱かった。

Vプレミアリーグを終え、今月末からは男子のワールドリーグが始まる。

全日本候補選手も発表され、今シーズンのチームも始動。来年のリオデジャネイロオリンピック出場を目標ではなく使命とし、2020年の東京オリンピックではメダル獲得を目指す、と公言しているが、実際はというと、世界ランキング以上に日本の置かれている立場は厳しいのが現状でもある。

日本が強くなるために。何がカギになるのか。

来日した直後と今、7年の中で「確実に日本のバレー環境は変わった」と憂いながらも、口調には熱を込めて。

最後の黒鷲旗、準決勝、決勝。自身にとってのラストマッチを前に、日本のバレーボール界に、最後のメッセージを残した。

7年前とバレーボールは「変わった」

来日したばかりの頃は、もっとバレーボールに携わる子供たち、若い年代がとても多くいた気がします。でも残念ながら今はとても少ない。

バレー人口が減少したことで、バレーボールの質も変わりました。

たとえば、より多くの若く、有望な選手がいる中から選ばれた選手たちがプレーしている環境ならば、「チーム」として結集した時にも高いレベル、質を保つことができるはずです。でも今の日本は違う。とても光る選手がいても、それはごく少数で、その選手をより強く、逞しく育てるための環境やライバルはない。モチベーションを保つことすら大変な状況であるのが現実です。

今、日本のVプレミアリーグは8チームですが、これからは4チーム、5チームに減少することだって大いにある中、高校生や大学生のスキルを上げることは日本のバレーボール界の未来にとって非常に大切なことですが、残念ながらその環境がありません。

日本のバレーボールは「アマチュア」に区分されます。プロとアマチュア、違いはいくつもありますが、わたしが思う一番の違いは、アマチュアは外からの刺激でモチベーションを高めるのに対し、プロは自分の内面からモチベーションを高めなければならない、ということです。

たとえば、アマチュアならば毎日毎日監督やコーチから厳しい要求を与えられ、それをクリアすることがモチベーションになる。でもプロはもっとお金を稼げるようになりたいとか、自分を高く評価させたい、といったように「自分がどうしたいか」がモチベーションに直結します。日本代表の強化とはあまり結びつかないように思われるかもしれませんが、これは日本のバレーボール界にとって大きな課題であり、今のアマチュアシステムの中で代表チームだけが結果を出す、ましてや5年後に成果を出すというのは非常に難しいのが現実です。

世界のトップにいるロシアは、大型選手がパワーバレーを展開します。身長の高い選手を集める土壌もあり、選出された選手たちを技術面、体力面で鍛え、強い選手、チームにする環境があります。

では日本が世界と戦い、勝つためにどんなバレーボールをすればいいのか。同じようにパワーバレーで対抗できるのかと言えば、それはとても難しい。ならば、テクニックで対抗するしかありません。

ですが日本のVプレミアリーグでは、日本人を成長させるためのシステムがありません。今日本のVプレミアリーグで活躍し、多くの点数を取っているのは外国人選手ばかり。中でもJTのヴィソット選手が2m11、サントリーのエバンドロ選手が2m8、豊田合成のイゴール選手が2m9、みんな素晴らしい技術とパワー、高さを持った選手ばかりです。

彼らにトスを集めれば、おそらくVプレミアリーグで勝つこともできるでしょう。でもそれだけでいいのか。その状況で日本のパワーヒッターやテクニシャンが育つのか。全日本だけでなく、すべてのVリーグ、大学、高校の指導者が真剣に考えなければならない課題であるはずです。

試合の9割以上を外国人のパワーヒッターが得点を叩き出す。勝つためならば、それはとても大切な戦術です。ただしそれは、日本の男子バレーボール選手を成長させるための方法でもなく、男子バレーボール界にとっても最上の方法ではありません。

私は日本で自分に足りないもの、自分に必要なもの、たくさんのことを学びました。同じようにより多くの選手たちが、自分にとって必要なスキルや学びを得られるように。そのシステム、プロジェクトが形成されることを願います。

デキの現役最後の試合となる黒鷲旗、男子準決勝はパナソニックパンサーズとサントリーサンバーズが、堺ブレイザーズと東レアローズが準決勝で対戦し、その勝者が最終日の6日に行われる決勝へ進出する。

それぞれのチームの戦い方を見れば、きっとデキの言葉が色濃く感じられるのではないだろうか。

試合開始のホイッスルは、間もなく――。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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