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森友文書改ざん---安倍首相、昭恵夫人、籠池泰典氏、佐川宣寿氏、迫田英典氏、今井尚哉氏の人生比較

山田順作家、ジャーナリスト
佐川氏の退職金は4999万円と発表された(写真:つのだよしお/アフロ)

「忖度」は犯罪ではない。しかし、「公文書改ざん」は犯罪である。また、答弁で嘘をつくことは、犯罪とは言えない。ただし、嘘をつくことは、人間としてのモラル、倫理に反している。

 したがって、私たちがもっとも問題にし、深刻に受け止めなければならないのは、「忖度」「改ざん」などの根底にある人間としての「モラル」「倫理」の崩壊だ。

 なぜ、政治家も官僚も、嘘をつかなければならないのか?モラル、倫理を捨て、人間としてもっとも醜い生き方を選択しなければならないのか?

  

 以下、「森友疑惑事件」に登場する6人の方々の人生を比較してみたい。その6人とは、安倍晋三首相、昭恵夫人(アッキー)、籠池泰典氏、佐川宣寿氏、迫田英典氏、今井尚哉氏だ。じつは、この6人の方々は、ほぼ同じ世代(ジェネレーション)に属する。

安倍晋三:1954年9月生まれ(63歳)

安倍昭恵:1962年6月生まれ(55歳)

籠池泰典:1953年2月生まれ(65歳)

佐川宣寿:1957年11月生まれ(60歳)

迫田英典:1959年10月生まれ(58歳)

今井尚哉:1958年8月生まれ(59歳)

 このように、この6人の方々はほぼ同世代であるため、日本の政治の中枢に入ったことで、その人生は、「森友疑惑事件」でクロスすることになった。では以下、年代を追って、それぞれの人生を見ていきたい。

 3月27日に証人喚問を受けることになった佐川宣寿氏は、福島県いわき市の出身で、父親が早くに亡くなったため、3人の兄たちの援助で東京の九段高校に進み、東大を目指して受験勉強に励んだ。1970年代の後半のことである。佐川氏は浪人したが、目出度く東大入学を果たし、公務員試験を優秀な成績で突破して、1982年に大蔵省(当時)に入省した。

 この同じ年に、安倍首相は当時外務大臣だった父・晋太郎の下で秘書官になっている。安倍首相は東京で育ち、成蹊小学校からエレベーター式に成蹊大学に進み、1977年に卒業すると、語学学校を経てSC(南カリフォルニア大学)に“遊学”し、帰国後は神戸製鋼所に就職した。

 この2人が35年後、同じ国会で答弁することになるのは、佐川氏がキャリア官僚として順調に、“官僚双六”(キャリア街道)を登ったからである。佐川氏は税務畑などを歩み、2008年主税局総務課長などを経て2013年に大阪国税局長になり、その後2016年6月に理財局長となって、昨年2月に「森友疑惑事件」の矢面に立たされることになった。その後、2017年7月、国税庁長官に就任するも、2018年3月、文書改ざんが発覚し、任期半ばで国税庁長官を辞任した。

 安倍首相の経歴については、もはや述べるまでもないが、衆議院議員になったのが1993年。その6年前、1987年6月に昭恵夫人と結婚している。昭恵夫人は森永製菓社長を務めた松崎昭雄氏の令嬢で、小学校から聖心女子学院の持ち上がりで聖心女子専門学校に進み、卒業後は電通に勤務していた。

 2001年、安倍首相は第一次小泉内閣で内閣官房副長官に就任するが、このとき、塩川正十郎財務大臣の秘書官を務めていたのが佐川氏だった。“安倍一強”と称されるようになった第二次安倍内閣は、2012年12月に発足し、今日にいたっている。

「森友疑惑事件」の出発点と言われるのが、2014年4月の昭恵夫人の森友学園訪問。この際、昭恵夫人は子供たちの歓迎ぶりに涙を浮かべたとされ、籠池夫妻と写真におさまっている。

 官僚の人事を一手に握ることになった「内閣人事局」は、偶然にも、同じ年の5月30日に設置されている。この2014年に、昭恵夫人の森友学園訪問と内閣人事局設置がなかったら、「森友疑惑事件」は起こらなかったかもしれない。

 籠池泰典氏は、香川県高松市の海運業を営む家に生まれ、1963年、一家の倒産で兵庫県尼崎市に移り住んだ。佐川氏が東大を目指して受験勉強し、安倍首相が成蹊大学を卒業した1977年、関西大学を卒業して奈良県に就職した。その2年後、森友学園創立者の娘である醇子さんと結婚している。

 2014年、小学校設立にあたり、昭恵夫人に名誉校長を要請、国有地の払い下げを受けたが、疑惑発覚で挫折。2017年7月、補助金をだまし取ったとして詐欺容疑で大阪地検特捜部に逮捕され、現在、収監中である。

 佐川氏の1期前の財務省理財局長、国税庁長官が迫田英典氏である。迫田氏は安倍首相の地盤である山口県下関市の出身で、山口高校から東大法学部に進学、1982年、佐川氏と同じ年に大蔵省に入省している。

 迫田氏もまた官僚としての“キャリア双六”を順調に進み、2009年大臣官房総合政策課長、2011年内閣官房審議官となり、このとき、第二次安倍内閣が発足している。その後、迫田氏は2014年総括審議官を経て、2015年7月に理財局長に就任した。その1年後、理財局長からの“上がりポスト”の国税庁長官となり、2017年7月に退官して天下りし、現在、三井不動産顧問をしている。

 以上の経歴から言うと、「森友疑惑事件」の財務省側の当事者は、佐川氏より迫田氏ということになる。そのため、野党は迫田氏の証人喚問を求めてきたが、実現していない。

 迫田氏は理財局長当時の2015年、官邸に頻繁に出入りして安倍首相と面談している。首相動静に記録されているものだけでも、7月31日、8月7日、9月3日、10月14日、12月15日と、半年の間に5回もある。これは、前任の理財局長・中原広氏が在任中2回しか安倍首相と面談していないので“不自然”と言われている。

 今井尚哉氏は、栃木県宇都宮市の出身で、宇都宮高校から東大法学部に進学、1982年に通商産業省(当時)に入省した。佐川氏、迫田氏と同じ年に官僚になっている。

 今井氏も官僚キャリアを順調に歩み、産業政策・エネルギー畑を歩いた後、2006年、第一次安倍内閣で内閣官房に出向し、総理大臣秘書官となった。

 その後、2011年、資源エネルギー庁次長となるも、翌年に第二次安倍内閣が発足すると、首相に請われて政務担当の内閣総理大臣秘書官に就任し、現在にいたっている。

 今井氏の叔父の今井善衛は通産省の事務次官を務めた人物で、経団連会長だった今井敬も叔父である。また、今井家と安倍家は昭恵夫人を介して縁戚にあたる。

 安倍首相と今井氏は首相と秘書官の関係以上に親しく、今井氏の影響力の大きさが問題視されたことがある。また、森友疑惑の渦中でファックスが問題視され、昭恵夫人の付人をしていた谷査恵子氏にスポットが当たったことがあったが、彼女の実質的な上司は今井氏とされた。

 以上、「森友疑惑事件」の主要な登場人物の人生を比較してみたが、安倍首相と3人の官僚の永田町、霞ヶ関におけるスタートが同じ1982年であることは、非常に興味深い。

 それから36年もたったが、今後、この方々の人生はどうなっていくのだろうか?

 それにしても、現在のところ、政府側による「文書偽造事件」の主犯とされる佐川氏は、なぜ、国会で虚偽答弁をし、公文書を書き換えたのだろうか?

 なぜ、「嘘をついてはいけない」「人を欺いてはいけない」という人間としての最低限のモラルと倫理を捨ててしまったのだろうか? それを捨ててまで、いったい誰を守ろうとしたのか? その誰かを守ることで、自分自身の人生を守ろうとしたのだろうか?

 もし、文書偽造が明らかにならなかったら、佐川氏はこの7月に国税庁長官を任期満了で退官し、その後は、優雅な“天下り・わたり”生活を送れるはずだった。退職金は約7000万円もらえ、天下り後、わたりを繰り返せば、トータルで数億の収入になる可能性があった。 

 このことは、次に挙げた主な歴代の国税庁長官たちの例を見れば明らかだろう(以下、退官年と主な天下り・わたり先)。

小川是氏(1996年退官):日本たばこ産業会長、横浜銀行頭取

竹島和彦氏(1998年退官):公正取引委員会委員長

寺澤辰磨氏(2003年退官):横浜銀行頭取

大武健一郎氏(2005年退官): 商工中金副理事長、大塚ホールディング副会長

石井道遠氏(2009年退官):東日本銀行頭取

加藤一彦氏(2010年退官):トヨタ自動車取締役

林信光氏(2015年退官):国際協力銀行代表取締役専務

中原広氏(2016年退官):信金中央金庫理事・顧問

 ちなみに、大武氏を例にとると、退官後はまず商工組合中央金庫副理事長へ天下り、その後、2008年には大塚ホールディングス代表取締役副会長にわたりをしている。同社の2011年度の有価証券報告書によると、大武氏への年報酬は約1億2000万円となっている。しかも大武氏は、国税庁の有力天下り先の一つ、TKC全国会(税理士、公認会計士が加盟する全国組織)会長、税務大学校客員教授、人事院公務員研修所客員教授などを歴任している。

 3月20日、財務省の矢野康治官房長は参院財政金融委員会で、佐川氏の退職金を「36年間勤務をして国税庁長官で自己都合退職をした場合ということで、約4999万円となる」と、明らかにした。事実上の解任である「自己都合退職」のため退職金は減り、さらに懲戒処分による減給分の約66万円が差し引かれて支給されるという。

 佐川氏に限らず、ここに人生を紹介した官僚の方々はみなこの国のトップエリートであり、東大を出た優秀な頭脳の持ち主だ。しかも、36年前の入省時には、大きな志(こころざし)を抱いていたはずだ。

 それがなぜ、キャリア人生の最後になって、このような愚かな選択をするのだろうか? モラルと倫理を捨ててまで、なにを得ようとしたのか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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