「死者と廃人を大量生産」生還者が語る北朝鮮刑務所の実態
世界最悪の人権侵害国家と言われる北朝鮮。その中でもさらに人権侵害の著しいと言われる拘禁施設のうち、教化所(刑務所)の実態に関する最新の証言が得られた。
これを伝えた平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、当事者は30代女性のAさん。彼女は2016年、列車を使って、平城(ピョンソン)から中国との国境に面する新義州(シニジュ)まで、ピンドゥ(覚せい剤)の運び屋をやっていた。
ところが翌年、彼女の乗っていた列車が社会安全省(警察庁)の特別機動隊の抜き打ち検査を受けることとなった。
これは予告なしで列車を駅に停車させ、乗客、乗務員はもちろん、乗り組んでいる列車担当の安全員(警察官)まで対象にして徹底した検閲(検査)を行うものだ。まずは安全員室、乗務員室の検査を行うが、これはワイロを受け取って違法なものを運んでいないかを調べる。
だが、もし違法なものが見つかれば、安全員らは「自分たちが摘発、押収したものだ」と言い逃れをする。Aさんは安全員と結託して覚せい剤を運んでいたのだが、安全員に裏切られて、Aさんだけが逮捕され、結局7年の労働教化刑(懲役刑)の判決を受けた。
彼女は先月末、刑期を終えて出所した。
彼女の証言によると、教化所内の状況はコロナ前にもひどかったが、コロナ禍でさらにひどくなった。
「給食の量がひどく足りず、冬には冬服もなしに夏服で過ごさなければならず、健康だった人も廃人になる」
面会に来てくれる家族がいる受刑者は、戒護員(看守)にワイロを渡してもらい、楽な作業現場に配置してもらえる。また、食べ物の差し入れで栄養失調にかからずなんとか生き延びることができる。一方、面会に来てくれる家族のいない受刑者は、重労働に苦しむことになる。
そんな環境で、病死する人、命を絶つ人が続出し、ひどい日には1日に4人も亡くなったという。
自ら命を絶つ人は、そのほとんどが入所したばかりの人で、あまりの劣悪な環境に衝撃を受けて死んだほうがマシだと考えてのことだ。一方、数年間耐え抜いた人は、なんとかして生き残ろうとする。
また、受刑者の全員がお互いを監視して、問題のある言動があれば報告する徹底した相互監視体制となっていて、心を許せる人は誰ひとりとしておらず、精神的にも追い詰められる。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
Aさんは大赦令を受けて、減刑となり1年早く出所することができた。
彼女の話は口コミで地域に広がり、教化所内の実態を初めて耳にした市民は、そのあまりの酷さに驚愕しているという。
しかし、教化所でさえ「最悪」ではないところが、北朝鮮の拘禁施設の恐ろしさだ。
管理所と呼ばれる政治犯収容所では、教化所以上の暴力、栄養失調が蔓延しており、ちょっとしたミスでも処刑される。また、政治犯には連座制が適用されることから子どもも含めて収容されるが、簡単な算数程度しか教えないなど教育を受ける権利を奪われる。
管理所の中でも「完全統制区域」と呼ばれるところには、一生釈放を許されない人々が閉じ込められており、その実態が全く闇に包まれている。