「修羅場をくぐらないと成長できない」は本当か〜これからは修羅場系とすくすく系を分けて育成する必要有〜
■「仕事で人は育つ」は確かだが
「人は仕事経験によって育つ」というのは確かにひとつの真実でしょう。巷でも「70:20:10」の法則など、7割は仕事、2割は上司、1割が研修で人が育つなどと、よく言われます。
割合が本当かどうかは別として、まったく仕事経験をしていない勉強だけしている人がいきなり実務について成果を出すということは現実的には考えにくいことからも、「仕事で人が育つ」ことを否定するつもりはありません。
しかし、もう少し突っ込んで「経験のない仕事はできない」「きつくて辛い修羅場のような仕事をしないと成長にはつながらない」と言われてしまうと、疑問を持たざるをえなくなってしまいます。
■「修羅場」は本当に人を育てるのか
長年仕事をしていると、誰にでも「あれは大変な経験だったなあ」という、いわば「修羅場」とよく言われる仕事経験があると思います。
そして、人は大変なことをしたら、そこに意味があると思いたい生き物ですから、「今のオレがあるのも、あの修羅場があったからこそ」と思ってしまうのではないでしょうか。もし、修羅場に出合うことがなく、順調な仕事人生を送っていたら、本当に自分は成長しなかったのでしょうか。
かく言う私も、いろいろな修羅場らしきものを経験しましたが、正直言うと、それはできればなかったらよかったと思っています。もっとすくすく育ったのではないかと思うぐらいです。
■どんなレベルの仕事が適切かは人によって異なる
そう思うひとつの理由は、能力開発の観点から適した仕事の大変さ、つまり仕事の難易度は、人によって異なるからです。
今の自分の能力に比してあまりに高すぎる難易度の仕事を与えられても単純に「できない」だけで、そこから学べるかどうかはわかりません。頑張れば手が届きそうな適切なストレッチ課題を与えられてこそ、実効性のある試行錯誤ができ、能力開発につながります。
もちろん極度に難しい「修羅場」が適している人もいるのですが、それは少数派に思えます。むしろ、段階的に少しずつストレッチしていくタイプの学習が向いている人の方が私の実感としては多いように思いますが、いかがでしょうか。
■「挫折経験」は必要なのか
もうひとつの理由は、「修羅場」は難易度が高いがゆえに「挫折経験」「失敗経験」を生みやすいということです。私などは、修羅場はトラウマ(精神的外傷)のようなもので、あまり思い出したくもありません。
よく「挫折が人を強くする」とも言いますが、これまた人それぞれで、挫折をバネにモチベーションを高める人もいれば、挫折がもとで自己効力感(自分は「うまくやれる」という自信のようなもの)を失ってしまい、その後の仕事上でのチャレンジを阻み、学習機会の損失につながる場合もあります。
そう考えると、私は「挫折経験」は必ずしも必要ではなく、そのために修羅場をくぐらせることはないと思います。
■「ふるいにかける」では必要な人材を確保できない
結局、「修羅場が大事」と単純に言ってしまう上司は(私もたまに言ってしまうのですが……)、武勇伝を語りたかったり、自分の部下のことを知らないために、彼・彼女にとって適切な仕事のレベルを設定できなかったり、挫折しないやつはダメだと思い込んだりしているのではないかと思います。
もちろん、そんな修羅場を乗り越えてくる強い人材もいると思いますが、1学年200万人以上いた私たちのような団塊ジュニア世代ならともかく、この少子化、人手不足の時代に、そんな「ふるいにかける」ような人材育成をしていては、自社に必要なだけの良い人材の確保はできません。
■上司の役割は「自己効力感」の向上サポート
むしろ、今の時代の人材育成の方向性としてお勧めなのは、先にも述べた若手人材たちの自己効力感の向上をサポートしてあげることです。
適切な難易度の仕事をアサインして成功体験を積ませたり、ロールモデル(上司自身でも、適した先輩でも構いません)をつけて疑似体験をさせてあげたり、よいタイミングで適切な賞賛を行うことで自信をつけたり、やる気が出るような職場の雰囲気作りをしたりなど、自己効力感を高める方法はたくさんあります。
自己効力感が高まれば、挑戦心や成長意欲が生まれ、失敗にも強くなります。そしてその結果、上司の皆さんが期待する「成長」が見込まれるのではないでしょうか。
※OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。