スマホ画面を注視する自動車の「ながら運転」で懲役も 自転車の規制はどうなる?
12月1日、改正道路交通法が施行され、自動車の運転中にスマートフォンの画面を注視するといった「ながら運転」が厳罰化された。警察も取締りを強化するという。では、自転車に対する規制はどうなっているのか。
何が厳罰化されたのか
まず、今回の法改正の内容は、次のようなものだ。
(1) 厳罰化の対象
自動車と原動機付自転車
(2) 規制される行為
(1)を運転する際、携帯電話やスマートフォン、自動車電話、トランシーバーといった手で保持しなければ発着信できない「無線通話装置」を通話のために使用したり、(1)に取り付けたり持ち込んだスマートフォン、タブレット、カーナビといった「画像表示用装置」の表示画像を注視すること。ただし、赤信号などでの停止時は除く
(3) 「ながら運転」による刑罰を科される行為
(a) (2)に及んだうえで事故を伴うなど交通の危険を生じさせること
(b) たとえ交通の危険を生じさせなくても、(2)のうち「無線通話装置」を通話のために使用したり、「画像表示用装置」を手で保持して表示画像を注視すること
(4) 刑罰の引き上げ
(a) (3)-(a)の場合(交通の危険の発生あり)
→最高刑が懲役3か月から懲役1年に、罰金も最高5万円から30万円に
(b) (3)-(b)の場合(交通の危険の発生なし)
→最高刑が罰金5万円から懲役6か月に、罰金も最高5万円から10万円に
(5) 違反点数の引き上げ
(a) (3)-(a)の場合(交通の危険の発生あり)
→2点から6点となり、一発免停に
(b) (3)-(b)の場合(交通の危険の発生なし)
→1点から3点に
(6) 反則金の引き上げなど
(a) (3)-(a)の場合(交通の危険の発生あり)
→交通反則通告制度(青切符)の適用がなくなり、必ず刑事事件として処理されることに
(b) (3)-(b)の場合(交通の危険の発生なし)
→大型車は2万5千円、普通車は1万8千円、二輪車は1万5千円、原付は1万2千円と約3倍に
「注視」とは
(2)は「通話」そのものではなく「通話のために使用」することが禁じられているので、発信して相手の着信を待っている状態でもアウトだ。ただし、携帯電話などを手で持っている場合に限られるから、ハンズフリーやスピーカー機能を使った通話は対象外だ。
また、(2)の「注視」とは「見続けること」を意味するが、道路交通法にはその秒数など、具体的な定義に関する規定がない。
カーナビ事業者などに向けた国家公安委員会の告示では「注視」を「おおむね2秒を超えて画面を見続けることをいう」と定義しているから、これが参考になるだろう。時速60キロだと30メートル以上は進む秒数だ。
いずれにせよ、今回の厳罰化は自動車と原付に限られている。自転車は道路交通法では「軽車両」とされ、自動車などと同じく「車両」の一つとして分類されているが、今回は対象外となっている。
自転車の「ながら運転」は
では、自転車の「ながら運転」が規制されていないかというと、そうではない。道路交通法は、次のように規定している。
「車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない」
「道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」(71条1項6号)
そして、この規定に基づき、例えば東京都の公安委員会では、東京都道路交通規則において、次のような遵守事項を定めている。
「自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと」
「傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で…自転車を運転しないこと」
「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」
ほかの自治体の公安委員会規則でも、同様の「ながら運転」が禁じられている。
自転車も厳罰化が必要
それでも、違反に対する最高刑は罰金5万円と軽い。しかも、事故を伴うなど交通の危険を生じさせたか否かを問わず一律だ。
自転車であっても、スマホを手に持って通話や操作したり、画面を注視しながら運転していると、注意が散漫になり、運転を誤るなどし、事故を起こす危険性が極めて高い。
2018年には、左耳をイヤホンでふさぎ、ハンドルに添えた左手にスマホを持って操作し、右手にドリンクを持って運転中、歩道上の歩行者と衝突して死亡させ、刑法の重過失致死罪で起訴された大学生に対し、禁錮2年、執行猶予4年の有罪判決が下されている。
2016年にも、両耳にイヤホンを付け、音楽を聴きながら自転車を運転中、横断歩道上の歩行者に衝突して死亡させ、重過失致死罪で起訴された大学生に対し、禁錮2年6月、執行猶予3年の有罪判決が下されている。
スマホを片手に持ち、画面を注視しながら走行してきた自転車と衝突しそうになり、ヒヤッとさせられた経験がある人も多いだろう。
今回、まずは危険度がより高い自動車や原付を対象にした「ながら運転」の厳罰化が図られた。しかし、自転車であっても、特に「ながら運転」で交通の危険を生じさせたようなケースを看過することはできない。
自転車についても、自動車や原付と同じく道路交通法で正面から「ながら運転」を規制したうえで、厳罰化を図り、その危険性を広く周知するとともに、取締りを強化していく必要があるだろう。(了)