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障害者の友人を持ちませんか。施設殺傷事件を越えて、豊かなダイバーシティ社会に向かうために。

佐多直厚コミュニケーションデザイナー
(写真:ロイター/アフロ)

すべては知ることから始まる

2016年7月26日に発生した相模原事件。抵抗できない重度障害者の方々多数を殺傷してしまうという衝撃の事件でした。世界中で頻発するテロに関連して、普通に暮らす生活者への暴力ととらえる人もいれば、障害当事者および関係者として障害者への差別ととらえ、差別意識の拡大を心配する人もいます。障害者と接点がない人にとっては、施設の存在そのものを初めて知り、元職員が加害者である理不尽さに恐怖しました。入所者にとって、職員とは最も信頼する身近な存在です。心を許す友人であるかもしれません。元職員の心の奥の解明と、課題解決が待たれます。そしてわたしたちは社会の一員として、それをきちんと知り、考える義務があります。

さて突然ですが、あなたには障害者の友人がいますか?身内や学校、職場に障害のある人物がいないという人は、出会う機会さえ少ないのが現実です。障害者人口は国民の6.2%です。(平成23年厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」から)

街を歩いていても、イベントに参加しても目にすることが少ないなと思うでしょう。しかしデータの取り方を変えてみましょう。聴覚障害については、補聴器を必要とするレベル以上では1,944万人、人口の15.7%というデータがあります。(平成21年日本補聴器販売店協会「補聴器供給システムの在り方に関する研究」報告書より)

色の見分けが苦手な色覚障害では国内320万人、男性20人にひとり、女性500人にひとりです。(日本カラーユニバーサルデザイン機構公表値)

これは事例の一部ですが教室、職場の友人にいても不思議ではない数字です。そして聴覚障害については障害を表明するワッペンやステッカーを着けていなければ、見た目ではわかりません。

全難聴 耳マーク *このほかに警察庁 聴覚障害者標識もあります。
全難聴 耳マーク *このほかに警察庁 聴覚障害者標識もあります。

色覚障害については本人の開示がなければわかりません。障害者個人が自分の特性を知って欲しい時と知られたくない時で気持ちは揺れ動きますし、一般人の多くは多様な人がいることを思いはかることに慣れていません。障害者は見えない存在になりがちです。きっかけを得て、ぜひ親しくなってください。友のことを知己といいます。相手を知ることで自分をも知り、事件をともに乗り越えましょう。

障害者と友人になる機会はどこに?

わたくし自身、障害者と友人になる機会はないなぁと思っていました。接し方が分からないし、失礼があったらどうしよう?恥をかくのも…と決して積極的ではなかったのです。でもふと気がつきました。これって英語の現場力をつけるための外国人との接触、お年寄りのサポート、被災地での寄り添いボランティア活動でも同じことを経験しました。もっと身近なご近所さんとのご挨拶でも。ちょっとだけ広く周りをみて、新しい扉を開けるだけ。分からなければ、誰かに頼ればいいのです。

わたくしの推薦する知り合う機会をいくつかご紹介します。まずは「ユニバーサルキャンプ in 八丈島」です。これはNPO法人ユニバーサル・イベント協会が主催する2泊3日の野外キャンプイベントです。場所は八丈島。障害者、外国人、LGBT等様々な特性を持つ人と一緒に生活する3日間。共通課題の研究、キャンプにつきもののかまど調理や盆踊りなど楽しくも深いコミュニケーションコンテンツ。今年で12年目です。ここに集まる障害者メンバーをわたくしは人生のアスリートだと思います。例えば調理。全盲の参加者が見事な包丁さばきでキャベツを千切り。周囲はあっけにとられますが、本人曰く「一人暮らしだから、あたりまえでしょ?」

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全員に心配りの行き届いたメールニュースを発信している運営メンバーの男性は、素晴らしい知的な人物ですが、会ってみると動きが緩慢で、言葉がうまく話せません。生まれつきの麻痺があるためです。そんなカラダを一生懸命に使って、運営に駆け回ります。障害者とのコミュニケーションを始めるには、最高の場だと思います。

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参考 ユニバーサルキャンプ募集サイトご紹介:http://u-event.jp/site/uc2016.html

次に紹介するのは全国の都道府県区市町村どの自治体にもふれあい企画を運営している民間組織「社会福祉協議会」です。お近くの窓口を調べて訪問してみてください。じつはこの社会福祉協議会はだれにとっても重要な役割も担っています。災害発生時には「災害ボランティアセンター」となって地域の災害復旧、復興の中心になるのです。ボランティア活動には欠かせないボランティア保険の発行も担っています。

参考 社会福祉法人 全国社会福祉協議会HP:http://www.shakyo.or.jp/index.htm

ふれあいを望む人同士が知り合うところから始めることが入り口であり、多様な人の存在を理解し、社会を創っていく基本となります。

弱者に集中する攻撃。そしてそれを知らないという暴力。

多様な実態を知っていくと、重苦しい現実があります。今回の事件を安易に扱わないためにもそれを把握し、乗り越える努力が必要です。世界中で起きるテロをはじめ様々な暴力事件で犠牲になるのは守る術もない人々です。いじめや存在を軽んじた扱い等は気がつけば、そこら中で起きています。これは障害者に限りません。例えばマタニティバッジを着けた妊婦さんが暴力を受けているという報道があります。そこまで行かなくてもバッジを無視するレベルの小さな暴力はそこかしこにあります。これらを知らない、気がつかないということも決して些細ではない暴力といえるでしょう。知ることから始められれば。さらに様々な人々、特に障害者と友人になれれば…。

そしてだれもが知り合って、支えあえば加害者は確実に減っていく。

知的障害、精神障害があることを利用した詐欺、犯罪への巻き込みについても知ってください。罪を犯していないのに犯罪者にされてしまう冤罪事件も起きてしまいます。罪を着せられても抗弁できず、犯罪者の烙印を押されて刑に服し、刑務所の規律ある暮らしに愛着さえ覚えて累犯化してしまうようなことも少なくはありません。

2009年に郵便不正事件で冤罪をこうむった村木厚子さん。村木さんは無罪を勝ち取る経緯で、冤罪の実態を実感しました。自分の主張をきちんと表現できる力を持たない人にとって大変な現実があることを。国家賠償請求で得た資金で2012年に「共生社会を創る愛の基金」を設立。罪に問われる障害者を支え、有罪であっても社会復帰と累犯阻止のための取り組みを行っています。

村木厚子氏:共生社会を創る愛の基金顧問
村木厚子氏:共生社会を創る愛の基金顧問

7月31日には第5回シンポジウムが開催されました。この5年で培われた実績は制度展開や多様な草の根活動を産み、支援してきたのです。シンポジウムの中では障害者の冤罪対応、社会復帰対応の広がりが示されました。障害者が逮捕されたら即時対応するトラブルシューター(トラブル解決人材)を地域ごとにTSネットワークとして全国に展開。的確な対応を実現しています。企業に対しては社員採用障害者が犯罪に巻き込まれないように、起こさないようにする研修活動を実施。これは地域の安全をもたらす働く環境づくりに欠かせません。そして服役後の親身な後見による再犯の抑止、社会の健康の研究に至るまで忍耐と情熱のエネルギーに満ちた活動が紹介されました。障害者のいわれなき犯罪を防ぎ、再犯を抑止することで加害者とともに悲しむ被害者、被害家族、加害者家族も減っていくはずです。

共生社会を創る愛の基金:http://www.airinkai.or.jp/ainokikin/index.html

TSネットワーク連絡先NPO法人PandA-J:http://www.panda-j.com/index.html

障害者雇用企業支援協会(SACEC):http://sacec.jp/index.html

多様な友人の集合体、豊かなダイバーシティ社会へ

障害者は障害になる者ではなく、障害を受ける者だと言えるでしょう。さらに障害者は支えてあげる存在ではなく、ともに優れた能力や可能性を活かすべき存在と認識すべきです。一緒に社会を支え合う大切な友人です。障害者という名称も検討課題のままの現在です。障碍、障がいと置き換えても捉えるべき本質から逃げていないでしょうか。わたくしがユニバーサル・デザイン・ビジネス構築に関わらせていただいている中で、有志メンバーと運営する会議体があります。当事者組織、支援組織、ITソリューション開発者、エンタテイナーなど多彩な人材でパラレルにディスカッションします。略してパラディス(PARADIS)です。パラディスでは名称よりも障害者対応にこそ尽力すべきと活動しつつ、名称の提案もさせていただきました。あくまでも本質を捉える議論のための提案です。その名称は「対障者」です。英語のチャレンジドに近いねと先達の竹中ナミさん、ナミねぇ(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)にもご意見をいただきました。

説明動画をご覧ください。

障害者だけでなく様々な特性を持つ友人たちをも含みます。高齢者、方向オンチ、頑固さなどさえも。それらすべてが特性いや個性です。支えが必要な個性、支えれば輝く個性。そして個性があるからこそリスペクトに値する存在であったり、超人であったりもします。自分自身も対障者となって豊かな明日へみんなで一歩踏み出せればと願います。

*文中では障害者を漢字で記しています。これは障害者に関する法律、制度ではすべて漢字表記であることに沿っています。組織名や肩書きなど指定または配慮が必要と思われる場合において対応しております。

コミュニケーションデザイナー

金沢美術工芸大学卒。インクルーシブデザインで豊かな社会化推進に格闘中。2008年、現在の字幕付きCM開始時より普及活動と制作体制の基盤構築を推進。進行ルールを構築、マニュアルとしての進行要領を執筆し、実運用指導。2013年、豊かなダイバーシティ社会づくりに貢献する会議体PARADISを運営開始。UDコンサルティング展開。2023年7月(株)電通を退職後2024年1月株式会社PARACOM設立。 災害支援・救援活動を中心に可能な限りボランティア活動に従事。ともなってDX事業開発、ノウハウやボランティアネットワーク情報を提供。会議体PARADISの事業企画開発を担います。

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