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ZOZO前澤社長の1億円お年玉企画から、私たちは何を学ぶべきなのか。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
前澤さんのお金の使い方を、一般人の思考の枠で考えるのが間違っているのかも。(写真:Shutterstock/アフロ)

 新年の年明けからいきなり大きな話題を巻き起こした、ZOZO前澤社長の1億円お年玉企画。

 もはや、すっかり話題も一段落して古い話題になっている気もしますが、今回いろんなメディアの取材を受けた際に考えたことも含めて、振り返りをまとめておきたいと思います。

 今回の1億円企画は、ツイッターのリツイート数が530万を超えて世界一の記録更新という文脈もあり、世界からも注目される企画となったようです。

 なにしろ、前澤さんが公開した投稿によると、応募募集のツイートは投稿で1億8千万を超える表示回数になった模様。

 その話題の大きさがうかがえます。

 今回の前澤さんの1億円お年玉企画は、募集から当選発表までのそれぞれの過程で、様々な賛否両論の議論が繰り広げられました。

 特に話題が大きくなったポイントとなるのは、議論の目線をどこに持ってくるかが、人によって大きく異なった点でしょう。

 今回の企画に対する問題提起や批判は、大きく下記の5つの視点に分類できたように思います。

■法律の視点

■ツイッターの規約の視点

■投資対効果の視点

■企画の実施の仕方の視点

■個人の感情的な視点

 一つ一つ簡単に振り返ってみましょう。

■法律の視点

 まず、1億円企画を前澤さんがぶち上げて、最初に議論が紛糾したのは「これは違法ではないか?」という視点でした。

 ある意味、1億円をエサに、フォローやリツイートを要求するという行為に対して、直感的な反発と同時に問題提起していた人が多かった印象があります。

 この点については、おそらく事前に前澤さん側も確認をされていたのではないかと思われますが、早々に適法であることが弁護士ドットコムなどで報道され、議論が収束していきました。

参考:ZOZO前澤氏の「100人に100万」プレゼント、「法の網」にひっかからない巧みさ

■ツイッターの規約の視点

 適法性の観点と並行して問題提起されたのが、「ツイッターの規約違反ではないか?」という視点でした。

 ツイッターの規約では、フォロワー等をお金で購入する行為が禁止されており、1億円企画でフォロワーを増やすのは、この規約に抵触するのではないかという指摘です。

 この点についても、バズフィードがツイッタージャパンに確認したことで、規約違反ではないことが早期に明確になります。

参考:ZOZO前澤社長の「1億円お年玉」は規約違反? Twitter社に聞いてみた

 

■投資対効果の視点

 また、ビジネス側の観点で注目されたのが、1億円の投資対効果でした。

 この点については、私も記事に書きましたが、一部の方が前澤さんは大金持ちだから、こういう「お金の無駄遣い」ができるんだと考えている一方で、実は広告メニューの投資対効果で比較すると、無駄遣いではなく、投資対効果も高い賢いお金の使い方なのではないかという視点です。

 最終的に前澤さんのフォロワー数はピーク時の610万からは減ったものの、この記事執筆時点で520万を上回っていますから、単純なフォロワー獲得キャンペーンだったとしても高い投資対効果の企画だったと言えます。

(出典:[https://www.trackalytics.com/twitter/followers/widget/yousuck2020/ trackanalytics])
(出典:[https://www.trackalytics.com/twitter/followers/widget/yousuck2020/ trackanalytics])

参考:前澤氏1億円バラマキ企画が示す、「広告」から考える時代の終わり

■企画の実施の仕方の視点

 ただツイッターでフォローしただけで100万円がもらえてしまう、という企画の実施の仕方自体も、議論を呼んだポイントだったように思います。

 私自身もNHKさんの取材でコメントしましたが、当初は、ある意味お金持ちが屋根から札束をばらまいて、それに大勢の人が半狂乱で飛びついているような企画に見えて、微妙な印象を受けたのが正直なところでした。

 ただ、蓋を開けてみたら、実は当選者の選考はかなり丁寧に実施されたようで、お年玉応募時に夢や目的を明確に書いていた人が中心に当選した模様。

 私は記事のタイトルにバラマキ企画と書いてしまいましたが、実は単純なバラマキではなく、ある意味100万円争奪オーディションであり、マネーの虎企画だったわけで。

 これによって、かなり今回の企画の印象が変わった人が多かったのではないかと思います。

 上記のツイートをしていた深津さんのように事前に選考方法を予見していた人もいれば、世間の反応を元に当選方法を変えたのではないかとみる人もいますが、いずれにしてもこの当選者の選考の仕方は、今回の企画の評価の大きな分岐点だったように思います。

参考:ZOZO前澤社長からの100万円の使い道。ある当選者の思い

 

■個人の感情的な視点

 5つの視点の中で、比較的に最後まで議論が紛糾していたのは、この感情的な視点でしょう。

 私自身も、記事の最後でお金持ちや大企業が勝つだけだとつまらないという趣旨の話を書きましたが、お金で人の心を買うのってどうなのか、とか、結局金か、という感情的な問題提起をしていた人は少なくなかったように感じます。

 ただ、そんな問題提起も、俯瞰的に見ると「男の嫉妬」なのではないかと内藤さんがブログに書かれていて、個人的にも確かに耳の痛い指摘だったりします。

参考:ZOZO前澤氏「お年玉1億円」への批判は「男の嫉妬」

 

 ただ、一方で、こうしたお金をあげるという行為によって、落選した人達のマイナスのエネルギーはバカにできない、という指摘もある点には注目しておく必要があるかも知れません。

参考:SNS金配りで権力と名声を手に入れることの代償

 

 いずれにしても、こうしてみると、上記の5つのポイント全てにおいて、議論は紛糾したものの、総論で言うと前澤さんの企画勝ち、というのが今回の1億円企画の結論と言えるでしょう。

 論点が非常に多かった結果、様々なメディアで様々な角度から議論がされましたし、荒削りな企画だった分、便乗の詐欺行為なども発生しましたが、1億円による話題の作り方としては、見事な成功事例と言えると思います。

 一方で、この1億円企画による大きな反響は、ZOZOと前澤さんの昨年までの努力や話題の積み重ねがあったからこそ生み出されたものでもあります。

 ビートたけしさんは、「賛否両論あっても、みんなが話題にしているウチが華だよ」と独特の表現をされていましたが、それだけ大きな話題を作れるのは、今のZOZOと前澤さんだからこそと言うこともできるかも知れません。

参考:【ZOZO前澤友作氏が100万円贈呈企画】ビートたけしが持論 「すしざんまいと同じ」

 

■今後、お年玉企画はどういう進化をしていくのか

 その後のツイッターの投稿を見る限り、前澤さんは一部の人からの批判は覚悟で、今回のような企画を継続していくと腹を決めているようです。

 

 今回、類似企画や便乗詐欺行為などが問題にはなりましたが、おそらく次回以降は前澤さんもそういったトラブルへの対策はしてこられると思いますし。

 本当に今回のような企画がユーザーや社会にとって問題になるようであれば、ツイッター社が規約を見直したり、行政が景品表示法の金額制限を企業に関連する個人の企画も対象にする、などの対応を検討するべき話であって、そこは前澤さん個人が考えるべき話ではないといえるかもしれません。

 個人的には、今回のようなフォロワーに対して情報発信をするだけでなく、100万円による新しい挑戦への機会を提供するというアプローチには、率直に少し新しい可能性を感じました。

 通常、ツイッターの発信者がフォロワーに対して提供するのは、140文字のツイートや写真や動画という情報です。

 ただ今回前澤さんは、100万円という生々しい形ではありますが、100人の当選者に、ある意味100万円がなければやらなかっただろう新しい挑戦に踏み出す機会を提供した、と言うこともできるわけで。

 ある意味、ツイッターユーザーのフォロワーとの「行動」を伴ったコミュニティ的な関係を作った、と見ることもできます。

 実際、先週早速前澤さんは、心臓病を患った子供への寄付をRTの数に応じて実施するという企画に挑戦されていました。

 ある意味これも、前澤さんならではの、新しい行動を伴った寄付の形ということができるかもしれません。

 今後、1億円お年玉企画のような企画が、落選者の恨みを買うような形でなく前澤さんの「お金を社会に回す」という意思の延長で適切に実施されれば、ある意味クラウドファンディングや有料のクローズド型のサロンとも異なる、ツイッターらしいオープン型の無料サロンというか、ツイッター版マネーの虎や、フォロワーファンディングとでも呼ぶべき、新しいお金の流れを生み出す可能性もあるように思います。

 2019年早々大きな話題を巻き起こした前澤さんの1億円お年玉企画が、単発のバズ企画に終わらずに、ツイッターを組み合わせた新しい「お金を社会に回す」仕組みの最初のきっかけだったと振り返られるようになるのか、注目していきたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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