前澤氏1億円バラマキ企画が示す、「広告」から考える時代の終わり
ZOZOの前澤さんが、総額1億円のお年玉と名付けて100人に100万円を現金でプレゼントする、と宣言した企画が大きな話題を呼んでいます。
1月5日のこの投稿は、あっという間に大量のリツイートを集め、ツイッターにおけるリツイート数の世界記録の355万RTをあっさり上回り、500万RTも記事を書いている間に超えてしまいました。
自分の資産から1億円が減ることをなんとも思わない大金持ちしかできない大盤振る舞いに、景表法にひっかかるのではないかとか、ツイッターの規約に抵触するのではないかという批判や問題提起も多発したようですが、そういった批判も話題の拡散に一役買う形で、リツイート数を増やし続ける結果になっているようです。
ちなみに、バズフィードの取材に対して、ツイッタージャパンは明確に利用規約には違反してない、と言い切ってしまっています。
参考:ZOZO前澤社長の「1億円お年玉」は規約違反? Twitter社に聞いてみた
昨年末には、ペイペイが100億円あげちゃうキャンペーンで大きな話題を振りまいたばかりですから、今年も類似の企画が増えるのかなとは思っていましたが。
まさか、正月ボケも抜けない年始早々に、こういう爆弾ネタを前澤さんが放り込んでくるとは思いませんでした。
■前澤さんのフォロワー数は50万から一気に500万人を突破
お祭り気分で盛り上がっているところに空気を読まずに正直なところを言うと、個人的には自然口コミ重視派として、こういう札束で頬を叩くようなやり方は好きではないですし。
こういうやり方をツイッター社が許容するとなると、ツイッターのフォロワー数ランキングも、そのうちフォロワーを増やすためにお金をばらまける金持ちランキングになってしまいそうで残念だな、と思ってしまったりもするのですが。
やはり今回の企画は、前澤さんやZOZO側の読みが凄かった、と言うべき企画でしょう。
なにしろ、昨年前澤さんは2018年中にツイッターのフォロワー100万人を目指すと宣言し、あの手この手を試していたようですが、50万フォロワー止まりだったところ。
今回のお年玉企画一発で500万フォロワー突破。
壁のようなグラフになっています。
(グラフはデータ収集のタイミングで400万台になっています)
(出典:Twilog)
■あえてツイッターの広告メニューを使わなかった
ここで興味深いのが、今回前澤さんがフォロワー数を増やすのに際し、1億円の使い途として「広告」から考えるのではなく、いきなり応募者に現金を渡す企画から始めてしまった点です。
普通のネット広告代理店が、もしツイッターのフォロワー数100万人を目指したいと言われ、予算が1億円あると言われたら、シンプルにツイッター広告でフォロワーを増やすことを考えるでしょう。
実際、ツイッター広告には様々なフォロワー獲得の為のメニューが存在します。
ツイッター広告によるフォロワー獲得単価は、時期やアカウントにもよりますが、100円~200円ぐらいと言われており、安ければ50円前後のケースもあるようです。
つまり1億円予算があるなら、仮に1フォロワー獲得に100円かかっても1億円÷100円=100万人で、100万人のフォロワーが獲得できる計算になるわけです。
それにもかかわらず、今回前澤さんは広告に1億円を投下するのではなく、直接お年玉としてフォロワーに直接ばらまくという選択をし、結果的に目標の4倍以上のフォロワーを獲得。
500万フォロワーを突破してしまったわけです。
■広告費をメディアではなくユーザーに直接払う時代?
実は、この思考回路は、昨年末に話題になったペイペイの100億円バラマキ企画と全く同じです。
参考:ペイペイ「100億円あげちゃうキャンペーン」には、どんな裏があるのか
ペイペイはテレビCM等の広告も併用していたので、広告を全く使っていないわけではありませんが、それでもまずは100億円をユーザー獲得の為の広告に投下することから考えるのではなく、100億円をユーザーにあげちゃうという企画がコアにあるのがポイントでした。
コアになる企画が面白ければ、その企画がソーシャルメディア上での注目を集め、結果的にメディアにも取り上げられるという相乗効果につながるので、広告はその話題をさらに拡げるところに集中できるというわけです。
なにしろ、ZOZOの前澤さんのところには、「広告はもはや嫌われものなのだ」という業界では有名なコラムを書いた田端さんがコミュニケーションデザイン室長として転職していますから、今回の企画にもそのエッセンスが見て取れます。
このコラムで田端さんは「これからの広告は、欲望を喚起させるのでなく、欲望を充足させるものになるべきだ。」と、書いてますからね。
今回の前澤さんの1億円お年玉企画は、文字通り、お金が欲しいという欲望を充足させる新しい形での「広告」と言えるのかも知れません。
まぁ、そもそも、マーケティングのプロは昔から広告から考えてはいませんが。
今後、メディアに広告費払うなら、ユーザーに直接払った方が早いじゃないか、と考える人が増えるのは間違いないでしょう。
ペイペイと前澤さんの2つのバラマキ企画は、メディアに広告を投下することからキャンペーンを考える時代が終わろうとしていることの、象徴的な出来事と言える気がします。
■フォロワー数がどうなろうとPR企画としては大成功
もちろん、多くの人が指摘しているように、今回の100万円に飛びついた人達が、落選した後も前澤さんをフォローし続ける保証はありませんし、そもそもフォロワーの人数が多くても、実際にはそのフォロワーが前澤さんの投稿を全く見なければフォロワー数が増えた以上の意味は無いでしょう。
ただ、個人的には企業のフォロー&リツイートキャンペーンとかを見ていると、意外にこういうキャンペーンに応募する人というのは、キャンペーンのためにフォローしたこと自体を忘れてそのままフォローし続けてしまうタイプの人が多いんじゃないかなという仮説を持ったりしますし。
そもそも、1億円を投資した事による話題の大きさで考えれば、もはやフォロワー数がどうなるかなど、どうでも良いレベルで今回の企画は話題になったというのは揺るぎのない事実です。
何しろ前澤さんは、月旅行に750億円以上かけると言われている人ですからね。
1億円のギャンブルは、失敗してもたいして気にしない人だと想像されます。
参考:ZOZO前澤氏の月旅行は総額750億円以上か? 搭乗者最大9人の気になる「旅費」
■結局、お金持ちが勝つという時代になってしまうのか?
今回の1億円バラマキ企画から私たちが注目すべきは、こうした現金で直接ユーザーを動かそうとする手法の台頭が、さらに拡大していくのかどうかという点でしょう。
そもそも前澤さんやペイペイのように、多額の現金をばらまいて話題を集めるような手法は、普通の企業がなかなかマネできるやり方ではありません。
また、人間は慣れてしまう生き物ですから、二番煎じで同じようなことを他の人が企画しても、前澤さんやペイペイと同じだけのインパクトを生み出すのは、どんどん難しくなっていくはずです。
マス広告から考え始めるのではなく、企画から考え始めたとしても、結局お金をメディアではなくユーザーに払うだけ、という話で終わってしまうと、結局お金持ちや大企業が勝つという世界は変わらないことになるので、随分つまらない話に終わってしまう気もします。
そういう意味で、個人的に注目しているのは、目標100万部を公言している前田裕二さんの書籍「メモの魔力」を、前田さんやキングコングの西野さんがどう100万部にしていくかと、現金バラマキとは違う方向からアイデアを模索しているアプローチなんですが。
参考:株式会社ニシノコンサル 目標100万部突破!前田著書「メモの魔力」販促会議!
無駄に記事が長くなりましたので、今日のところはこの辺で。
まずは、1億円の当選者が発表された後に、前澤さんのフォロワーがどれぐらい減るのか、意外に減らないのか、に注目したいと思います。