意外な事実が分かる、戦前から見た日本の高齢出産化
増加する出生率は高齢出産化が支えている
人口の増減に大きく関係する出生率、厳密には合計特殊出生率(一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数)が、日本においてはこの数年上昇する傾向にある。次も含めた各グラフは厚生労働省の人口動態調査及び国立社会保障・人口問題研究所の公開データを基に生成したものだが、これを見れば分かるように2006年以降は出生率はわずかずつながらも増加を示している。過去の時系列は一部で5年区切りとなっていることに注意してほしい。
出生率増加の主要因はやはりグラフから読み取れる通り、高齢出産化にある。「高齢出産」とは日本産婦人科学会の定義では35歳以降の初妊婦を指しているが、第二子以降でも高齢による出産時のリスクは同様のものがあるとされ、賛否両論が交わされている。
一方、昨今の高齢出産化の原因としては初婚年齢の上昇(晩婚化)、女性の職場への進出、医療技術の進歩、社会観の変化などが主な理由として挙げられる。また経済上の観点でいえば、歳を経ていた方が金銭面で安定度が高く、安心して出産できるのも一因とされている。いずれにしても、社会の変化における、半ば必然的な結果と見る向きが多い。
実は戦前も高齢出産は多かった
それでは高齢出産化は一様に現代にかけて進んだもので、過去においては若年層による出産が主なものだったのだろうか。そこで出生数に限った話ではあるが、全体比と出生数そのものの積み上げグラフを生成したのが次の図。
実のところ、少なくとも1925年以降に限れば、戦前においても、現在ほどではないものの高齢出産はごく当たり前の話だった。しかも出生数そのものが多いことから、高齢出産による出生数は現在をはるかに上回る数であることが確認できる。例えば1925年は35歳以上の女性による出産数は42万8299人。2012年の26万8471人の約1.6倍にあたる。戦後、高度経済成長期の期間においては出産が若年化し、それ以降は少しずつ高齢出産化が進み、現在に至る次第である。
戦前・戦中まで高齢出産の数が多いのは、衛生面や社会インフラ、医療技術の点などで現在と比べてはるかに死亡リスクが高く、その結果平均寿命が短いがため、出産が国策的に奨励されていたことが要因である。いわゆる「産めよ増やせよ」「富国強兵」に連なった動きといえる。また生物学的・本能の面でも、人口の維持増大のためには、健康である限り高齢でも出産をするという社会的性質も後押ししていた。いわば「多産多死」の状態だったわけだ。
高齢出産は母親の心身にかかる負担なども合わせ、さまざまな問題が指摘されている。同時に時節の流れの上で仕方がないとの意見もある。現在の高齢出産化は、戦前の高齢出産状況とは明らかに異なる事由により発生しており、出産時の環境も大いに違うため、戦前までの事例・対策は役に立たない(さらに上記状況からも分かる通り、戦前の場合は第二子、第三子の事例が多いが、直近においては第一子の事例が多くなっている)。現状を社会現象の一端として認識すると共に、対処が必要ならば早急に適切な立案と、その実施が求められよう。
■関連記事: