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保護者やPTAが「卒業記念DVD」を外注すると、不要な人にも強制で買わせがちになる理由

大塚玲子ライター
「要らないよ…」と思う人も。なぜDVDの購入が強制になってしまうのでしょう?(ペイレスイメージズ/アフロ)

 先日、名古屋大学准教授の内田良先生が「担任の先生が卒業記念DVDを制作するのは負担が大きすぎるのでやめたほうがいい」とする記事を掲載しました。

 じつは筆者も子どもの卒園・卒業時に、卒対*で記念DVDの制作を担当したことがあります。先生が手掛けることもあると知り驚きましたが、それはたしかに過剰サービスでしょう。もちろん子どもや保護者からしたらありがたい話ですが、一度そういった例があると保護者は「先生がやって当然」と思い、要求水準を上げがちです。

  • * 卒対=6年生保護者から選出される“卒業対策委員”の略。仕事の内容は各校で異なるが、卒業記念品の手配や、祝いの会の企画等を行うことが多い

 一方で、先生だけでなく保護者も、卒業DVDの制作にはなるべく手を出さないほうがいいと筆者は思います。筆者の場合は自分で制作したのでなく、業者に依頼して保護者に買わせる形だったのですが、それでも「やめたほうがいい」と思うのは、主に以下のような理由からです。

1*不要な人にも強制で買わせやすい

 最大の理由はこれです。業者にとってもDVDの制作には当然手間がかかるので、費用(特にマスターを作成するまでの固定費)もそれなりにかかります。もし1学年に何百人もいるような大規模校であれば、マスターデータを大量複製できるので、販売額は下げられるはずですが、いまどきそれほど大きな学校はありません。

 そのため、一般的な規模の学校では販売額がどうしても高くなります(4、5千円以上のことが多いと思います)。しかも「○十人以上買ってくれるなら、いくらです(安くなる)」といった話になるので、担当者は自ずと買いたくない人にも強制的に買わせる仕組みをつくりがちです。

 「あと1人買えば安くなるんですけど……」と言われたときに「買いません」と断るのは、保護者間ではなかなか勇気がいる行為です。筆者も最近、DVDではないのですが、そういった話に「ごめん、買わないね」と返しましたが、今の図太い私だからできたことです。もし子どもが小学校に入ったばかりの8、9年前だったら何も言えず、「要らないなぁ」と思いながら黙って購入していたと思います。

 経済的に余裕がある家庭ばかりではありません。必須ではないものを無理に買わせるようなシチュエーションは、極力避ける必要があると思うのです。

2*業者さんもけっこう大変

 業者さんのほうも、一度卒業DVDの制作を手掛けてみると意外とめんどうなことが多く、あまり「美味しい仕事」ではないとわかるのでしょうが、しかし一度引き受けるとなかなか断りづらいようです。

 筆者が保育園のときに依頼した業者さんは、もとは近所に住んでいたものの数年前から遠くに越しており、その後も毎年頼まれるのを、仕方なく引き受けていたようでした。そのため仕事に気乗りしないのか、意思疎通が難しい場面もときどきありました。

 保護者も思ったほど楽ではありません。もちろん主な作業は業者さんがやってくれますが、担当の保護者は撮影回数と料金の交渉をしたり、学校に業者を紹介したり、当日は機材搬入のため駐車スペースを確保したり、門の鍵を開けに行ったり、保護者からのお金の徴収を考えたりと、それなりにやることが出てきます。

 筆者の場合、仕事でDVDの制作にかかわった経験があったため、初めての人がやるよりは多少はよかったかもしれませんが、一方で業者さんの負担もわかるだけに、申し訳なさも感じました。

3*一度始めるとやめづらくなる

 これも難しいところです。先の記事でも「DVD制作は先生の間で感染力をもつ」ことが指摘されていましたが、保護者間でも似たところがあります。

 「去年もやった」とか「毎年やっている」という言葉や状況は、それだけで“正当性”を帯びるもので、そういったものを「やめよう」というと大体、上の子がいる保護者などから「今年もやると思っていたのに」などと苦情を言われるものです。

 筆者も以前、DVDではないのですが卒対のある仕事(風習)をやめたところ、「アレなくしちゃったの? って文句を言っている人がいたよ」「なんでやめたのって、言ってる人がいたよ」といった、伝聞型の苦情をいくつか聞きました(なお、このときやめたのは、他の保護者や先生から「なくしたほうがいい」という指摘があったものでした)。

 やはり当時はちょっと落ち込みました。陰口を聞くのは当然、気分のいいものではありません。しかし直接何か言ってくる人は一人もいませんでしたから、3年も経つ今となれば「全然気にする必要はなかったな」とわかるのですが、一度定着したものをなくす際に責任者が感じる精神的負担は、まあまあわかります。

 こういった話をすると、「卒対やPTAは、新しいことを始めるとやめられなくなるから、決まったことしかやるべきでない」という結論に至りやすいのですが、それもどうなのでしょうか。せっかくの誰かの厚意を「来年以降の人の負担になるから」という理由で一律に却下するのは、もったいない気がします。

 DVDの制作についていえば、業者に出すことは1の理由から筆者は賛成しないのですが、もしたまたま保護者のなかに動画編集が得意な人がいて、且つ本人が「やりたい」と言うときは、ありがたくやってもらっていいのではないでしょうか。

 ただしその場合は、あらかじめ「今年だけです」と、他の保護者に事情をよく説明しておくのが肝要では。

 来年以降の人に「今年もやるもの(誰かがやって当然・やらなければならない)」と思わせないようにさえできれば、保護者活動は、いろんなことをもっとフレキシブルに、より楽しくできるのではないかな、と思います。

  • 学校の先生の場合は、保護者の場合とはまた事情が異なる部分がいろいろあるかと思います
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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