金正恩の身辺警護を脅かした、脱走武装兵の「恨みつらみ」
昨年末に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議で、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)システムの開発や戦術核兵器の大量生産を指示し、元旦からミサイルをぶっ放した北朝鮮の金正恩総書記。
米韓、そして日本による圧迫が「共和国の主権と安全、根本利益を徹底的に保証することのできる圧倒的な軍事力強化に倍加の努力を加えることを求めている」と唱えるなど、いかにも意気軒高な様子だが、足元では自身の安全に関わる深刻な事件が起きている。
北朝鮮軍のデイリーNK内部情報筋によれば、現場となったのは、平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)にある慈母山(チャモサン)の特閣(別荘)だ。ここは金正恩氏が休養のため、足しげく通うところだという。
12月29日の午前1時頃、この施設の警備を担う護衛司令部81旅団所属の19歳の男性兵士が、道路警備の持ち場を離れ、そのまま姿を消した。脱走である。最高指導者の身辺警護を担うエリート部隊では、あってはならないことだ。
さらに深刻なのは、この兵士が自動操縦で武装した状態だったということだ。部隊は全力を挙げて捜索に当たっているとされるが、兵士の身柄が確保されたとの情報は聞こえてこない。
金正恩氏の身近での銃器トラブルは、即決で公開処刑になりかねない重大事件である。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
それを知っているはずの兵士はなぜ、こうした無謀な行動に出たのか。原因は、部隊内での「イジメ」にあった。
入隊から1年だというこの新兵は、古参兵から衣服の洗濯などありとあらゆる雑用を押し付けられたうえ、歩哨任務の代役も強要されていた。冬季訓練期間にはひとりで毎日4時間も超過勤務させられ、兵舎に戻ってからも、歩哨兵の「心得」を暗唱させられるなどして、睡眠時間を奪われた。
こうした新兵への虐待は北朝鮮軍に限ったことではないだろうが、仮にも最高指導者の護衛部隊である。被害者の不満はいつどういう形で爆発するかもわからず、最高指導者に危害が及ばないとも限らない。
貧弱な装備と飢えのせいで、北朝鮮軍の士気は低いとされる。エリート部隊ですらこのあり様とあっては、大量の核兵器がどのように管理されるのか、その辺の懸念も尽きない。