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英国で暴動事件続発 「内戦」? なぜわざわざそんな場所に行くのか

小林恭子ジャーナリスト
刺殺事件をきっかけに全国に広がった暴動の様子(写真:ロイター/アフロ)

 先月末から、英国の各地でいわゆる「暴動」事件が発生していた。

 きっかけは、7月29日、英北西部サウスポートでの刺殺事件だ。テイラー・スウィフトの歌をテーマにしたダンス教室が開かれていたところに、突然男性が入ってきて、数人に刃物を使って斬りつけて殺傷した。女児3人が亡くなっている。

 この時、犯人は「昨年、英国にやってきた難民申請者」「イスラム教徒」などの情報がソーシャルメディアを通じて広がったが、これはフェイクニュースだった。

 逮捕された人物はウェールズ地方カーディフ生まれの17歳の少年で、イスラム教徒ではなかった。両親はルワンダ出身である。

 7月30日、サウスポートでは犠牲者を追悼するため地元民が集まっていたが、これに乗じたのが、移民排斥主張をもつ極右組織「イングランド防衛同盟(EDL)」に共鳴する男性たちだった。

 デモ参加者と警察が衝突し、暴力沙汰に発展していく。デモはロンドンを含む各地に広がった。暴徒化した参加者はイスラム教の礼拝所となるモスクや移民支援施設への襲撃、店舗から物品の略奪などを行うようになった。

 移民出身やイスラム教徒の市民たちは自分たちが攻撃対象になっていることを知り、地域によっては「外に出るのが怖い」と思う人も出てきた。

「内戦」へ?

 暴動が拡大していくと、海外でもその様子が伝えられてきた。米テスラのトップ、イーロン・マスクは自分が所有するソーシャルメディア「X」で、「内戦は避けられない」と投稿している。

 筆者は暴動拡大の様子をメディア報道を通じて、追ってきた。

 BBCニュースや新聞サイトは「ライブ」画面を設定し、刻一刻とその動きを伝えた。

 モスクや難民申請者の収容施設への攻撃、放火、略奪行為・・・。そのいずれもリアルで驚くばかりなのだが、その一方で、「ここまで大々的に報道することで、火に油を注ぐことにはならないのか」という懸念もあった。

 BBCの報道を見ていると、移民排斥的思考やモスクへの攻撃、略奪行為は許してはならないが、同時に「移民が増える、生活費が高騰するなど、日常的に不安感を感じる住民の懸念」にも思いを寄せる・・という論調が目についてきた。

 筆者は、次第に違和感を持つようになった。

 というのも、もろもろの日常の懸念と攻撃・放火・略奪行為がどうしても、つながらないと思ったからだ。

 本当に生活に困っている人は、こうしたデモにはいかないのではないか。

 また、不満を持っていたとしても、それがモスクなどへの攻撃や店舗での物品の略奪に走るものだろうか、と。

逮捕者続出、即、量刑

 事態が次第に落ち着く方向に向かった一つの要因は、大量の警察官が導入されたことが迅速な逮捕につながり、これが裁判から量刑へと急速に進んだことだろう。

 逮捕者は8月6日頃までに400人に達し、起訴は140人。

 裁判が始まり、6日に最初に量刑が下っている。暴動関連で有罪となった場合、「最長では10年の禁錮刑になる」と発表されたことも抑制効果があったようだ。

 実際にデモに参加した人は、移民排斥思想を持つ極右信奉者、これに同調する人、日ごろから生活不満を持つ人、そして、見物のつもりでやってきた人々だと言われている。軽い気持ちでやってきた人が暴徒化した場合もありそうだ。 

デモに抗議するデモ

 7日の夜は「デモに抗議するデモ」がロンドンを含む各地で開催されるようになった。平和的なデモに終始したようだ。

なぜ参加?の疑問が解けた

 最後に、筆者なりの「なぜ暴徒化したのか。なぜこのような暴力的なデモに人は集まったのか」を書いてみたい。

 まず、やはり、極右系組織の元メンバー、あるいはこれに同調する人が「ここで存在感を占めそう」と思ったことが最も大きい。最初から警察と対立姿勢を見せ、暴力行為もいとわないことを承知の上で、来たのである。

 英国では2011年にも、夏に暴力デモが多発した。この時のように、1か所で発生したデモが局地的に次々と派生し、警察をてんてこ舞いさせる、メディアで大きく報道されることを狙っているのである。

 なぜそんなことをするのか?メディアで大々的に報道されれば、それだけで自分たちの存在、影響力が大きいことが示せる。

 移民排斥や反イスラム教という考え方は、極右思想を持つ人だけではなく、国民の中で共有されている部分があるので、「こんな暴動が起きるのも、無理はない」と書くジャーナリスト、メディア、専門家が必ず出る。

 つまり、言い訳がきかない暴力行為(店舗からの物品の略奪)に、一定の言い訳、正当に思えてしまうような理由を提供してしまうのである。

 「ちょっとした見物気分」で参加し、混乱に乗じて投石したり、物を盗んだりした人が大勢いたことも事実だろう。

 8月8日、暴動初日(7月30日、火曜日)にサウスポートでのデモに参加した男性の裁判があった。紹介された動画の中で、この男性は警察の車の一部をはぎ取り、警察官に向かって放っていた。その様子を見て、周囲にいたデモ参加者が歓声を送っていた。

 裁判官はこう言った。集まった人々は「まるで、火曜日の夜の娯楽でも見るかのようだった」、「恥を知りなさい」。

今後の展開

 8日朝現在、暴動は一定の鎮静化の兆候を見せている。

 9月になれば、学校も始まるし、落ち着いてくるだろう。

 でも、政治家も、メディアも専門家も、「あの暴動には一定の理由があった」として、社会問題として話題にしていくことだろう。極右組織のプレステージ(名声)度はちょっとあがったのである。

 これでいいのか?と思う。

 店舗を壊された人、宿泊先を攻撃された人、通りで排他的な言葉を投げつけられた人の怒りや恐怖感は直ぐには消えないのだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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