行政サービスがなくなったとき、私たちには何ができるだろう?市の中止事業を市民で実現する【地域の自立】
福井市、大雪で財政難に。151の公的事業が縮小・中止へ
福井県は今年2月、記録的な大雪に見舞われた。県内の除雪、排雪にかかった費用は、150億円(通常の3倍以上)。福井市でも豪雪対応に50億円がかかり、市役所職員の9ヶ月分の給与を平均5.8%カットするなどしても公的事業の財源が足りないという事態に。
どうしても捻出できなかった5億円分、予定されていた151の事業が、中止・縮小を余儀なくされた。コミュニティバスの運行支援や中心市街地活性化事業、図書購入費、学校プール開放事業など、市民生活に重大な影響を与えるような項目でなくとも、暮らしに身近な項目が並ぶ。
福井新聞は2018年5月30日の朝刊に「市民もじわりと我慢が必要な一年となりそう」と記した。
福井市は災害によりこうした状況に陥ったが、全国の地方自治体にはもともと財政が厳しい地域も多い。縮小削減がしやすそうな事業から減らされていく傾向は、各地ですでに始まっている。
もし、あなたの地域で、これまで当たり前に行われていた公的サービスがなくなったとしたら、どんな対応ができるだろう。
実際、今回の福井市でも「夏休み期間に行われる学校プール開放が中止になると困る」という市民や議員の声を受け、市側が「市民の方で見守りなど手伝ってもらえるなら実施したい」と回答したところ、市民の協力が得られず、実現できない地域も多かった。
市民ボランティアの協力が得られた場所のみで、実施に至ったという。
自分たちの手でできることから。「できるフェス」8/11(土)18時〜開催
そんな状況を受けて、福井市で「できることからやってみよう」と動き始めた人たちがいる。JICA職員の高野翔さんの呼びかけに応じた、有志約30名。建築家やデザイナー、公務員、不動産屋、IT関連の職種などさまざまな職種のメンバーが集まった。もともと、まちづくりの活動を通して知り合った面々だ。
6月末、高野さんは福井のまちづくり、まちの今後についてなどをざっくばらんに話し合う合宿を実施。当初は話し合いのみの予定だったが、この場からアイディアが生まれ、縮小・中止された市の事業の中で、アイディアを加えて助けになりそうなことがあればイベントとして実施してみようという話に至った。
そこで、8月11日18時より2日目は8月12日正午まで、福井市の中央公園で開催されるのが「できるフェス」だ。主催は実行委員会形式。
実行委員会の高野さんはこう話す。
「お金がないからできない、と被害者意識になるよりも、行政のサービスがなくなった時に自分たちができることって何だろうというメッセージの投げかけでもあるんです。最初から大きなことはできなくても、幅広い年代の人たちが集まれば解決できることもあると思う。みんなの“できる”が水紋のように広がって、町づくりにつながることを体感してもらえたらいいなと思います」
制限のかかった小学校プール開放事業に対して、イベント当日(2日目)は公園に家庭用プールを持ち寄り子どもたちが安全に遊べる空間を創出。さらには「図書購入費10%削減」への策として「本の交換市」を開催。本を持参すれば、他の人が持ってきた本の中で、気に入ったものと交換できるしくみだ。
削減された「敬老祝金」に対しては、来場者がカメラマンに写真を撮ってもらい自分の祖父祖母に対してメッセカードを作成できるサービス「おじいちゃんおばあちゃんありがとう!敬老お祝い」も。
縮小された「まちなか賑わい創出事業」「まちなか活性化活動支援事業」に代わり、ジャズのチャリティコンサートや映画の上映会も行う(1日目)。
その他、開催概要の詳細はこちら。
一切公の費用は入っていない。市の協力は、公園活用の許諾のみで、スタッフはみなボランティア。
イベントの開催時間以外にも、11日(土)16時〜「お堀をおそうじしちゃえ大作戦」としてホテルフジタ側の堀をみなで清掃する。これもやはり削減された「地域清掃美化支援事業」に対しての策である。
「5億円まちの予算が減ると、これだけのサービスがなくなる」実感を学ぶチャンス
中央公園内のビジターセンターには、巨大な透明のキャンバスを用意し、訪れた人たちが自分の「できる」ことを書き込めるスペースも用意する。
「ここには市で削減・縮小された151の事業リストも公開しようと思っています。5億円減ることで、これだけ親近感のあるサービスがなくなってしまうことを、みんなが知ることができる。5億円くらいの予算が削減になる可能性って、これから先も十分ありえますよね。その時に、何ができるのかを考えるいいチャンス」(高野)
最終的にまちの魅力は、人の行動や活気から生まれる。その行動を促すのは、お金(財源)とは限らない。
「行政のことって一般の人たちが楽しく参加するしくみがなかなかないですよね。一人ひとりできることは違うし、楽しいと思えることも違うので、それを持ち寄って集結したらいいまちになっていくことを、体感してもらえたらいいなと思います」
みんなの「できる」をまちで表現する。そんな試みであるイベント「できるフェス」は今回が初めての開催で、イベントとして成功するかどうかは定かでない。
けれど、市民がこれからの自治を考えるひとつのしくみとして、大きな意味をもっているように思う。
(参考資料)
福井新聞(2018年2月22日 朝刊3頁)
読売新聞(2018年6月7日 大阪朝刊29頁)
福井新聞(2018年5月30日 朝刊26頁)