経済成長率の年率換算は瞬間風速に過ぎず、ミスリーディングだ。
新型コロナウィルス蔓延を受けた、春先の人為的な経済抑圧策の結果、4-6月期の日本の国内総生産(GDP)は、物価変動を調整した後の実質の年率換算で、戦後最悪の▼27.8%減となりました(ちなみに、わたしたちの肌感覚に近いのは名目値でして、これも▼26.4%減と大きな違いはありません)。
2020年4-6月期・1次速報(2020年8月17日、内閣府)
4~6月期GDP、年率27.8%減 過去最大の落ち込み(日本経済新聞、2020年8月17日)
日本の経済規模が3割弱も失われたわけですから、「こりゃ、えらいこっちゃ」と日本経済の先行きを悲観された方も多いことでしょう。実際、新型コロナを受けての実質的な経済ロックダウンは日本経済に大きな人災をもたらし、生死の境にある方が多いことも事実なのですが、この年率換算の数字にはよくよく気を付けなければなりません。
特に、一部のマスコミやコメンテーターの皆さんは年率換算の意味を理解されているのか、心配になることがあります。
では、年率換算の経済成長率とはどういうもので、何を意味するのでしょうか?
経済成長率は国内総生産の変化率として示され、内閣府の経済社会総合研究所国民経済計算部によって作成・公表されています。この経済成長率については、四半期毎(1年度を4期間に分けた期間。つまり、今年の4-6月期、7-9月期、10-12月期、翌年の1-3月期の4期間です)の前期比と、その前期比を不正確ながら簡単に言えば4倍したものが年率換算の数字ということになります(正確には、年率={(1+前期比)^4-1}×100(%)の関係式となります)。
最近、メディアではなぜか年率換算の数字が注目されるようになってきていますが、年率換算とは、現在の前期比が今後1年間継続したとしたら、その年度の経済成長率がどうなるか?を示す、仮置きの数字でしかありません。あるいは、その期における経済の瞬間風速を示したものと言えるでしょう。
つまり、年率換算▼27.8%減のマイナス成長とは、4-6月期の前期比▼7.8%減が、7-9月期▼7.8%減、10-12月期▼7.8%減、翌年の1-3月期▼7.8%減と、毎期毎期ずーっと▼7.8%減のマイナス成長を続けるものと想定していることになります。
したがいまして、現在の日本の経済の置かれた環境に当てはめて考えれば、日本では4月5月同様の経済的ロックダウンが今後も継続して行われ、かつ世界経済も同様であると仮定していることになります。
年率換算の意味が確認できたところで、今度は、実際に日本経済から失われた金額を見てみることにしましょう。
今回のコロナ禍で日本経済から失われた金額(付加価値)は、2020年1-3月期のGDP額526.3兆円×▼27.8%=▼146兆円!ではありません。なぜなら、2020年1-3月期のGDP額526.3兆円もGDP▼27.8%減少もあくまでも仮置きの年率換算の数字に過ぎないからです。実際には、やや不正確ではありますが、2020年1-3月期のGDP額526.3兆円÷4×▼7.8%=▼10兆円となります。年率換算ではない四半期の数字を使うと、新型コロナの日本経済へのダメージ規模に関して、随分とイメージが変わってしまうことが分かりますね。
すでに、日本においては4月5月のような経済抑圧策は取られていないことは明らかですし、世界経済を見渡しても徐々に経済活動は回復し、中国経済に至ってはV字回復を遂げています。
要するに、今後も▼7.8%減のマイナス成長が続くとは到底考えられないのです。しかも、エコノミストの平均的な見方では、7-9月期の日本経済は10%以上(年率換算)のV字回復が期待されています。今回のコロナ禍で失われた金額が146兆円と認識されるのか、10兆円と認識されるのかでは、深刻さが違ってくるでしょうが、2020年度の日本経済から146兆円も失われるとは考えにくいのが現状です。
このように、年率換算▼27.8%減のマイナス成長は4-6月期の特異な状況下における瞬間風速が1年間にわたって継続するものとして計算されている数字で、ミスリーディングと言わざるを得ないのです。「戦後最悪」「過去最大」の見出しで年率換算の数字を強調するメディアはやや煽り過ぎと言わざるを得ません。
今後の日本経済の先行きを考えるうえでの問題は、7-9月期のV字回復を見込んだうえでもなおGDPの落ち込みがリーマンショック越えとなるであろうことでして、新型コロナウィルス対策と経済の両立をいかに図りつつ経済の落ち込みを緩和していくのかを、年率換算▼27.8%減のマイナス成長に脊髄反射することなく、今後の数字も踏まえて冷静に考えていくことであると思いますが、いかがでしょうか?